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さよならだけが、人生だけど【8/4中日戦◯】

とうとう、パイナガマビーチでぷかぷか浮きながら、iPhoneで試合を見るようになってしまった。波にたゆたいながらヤクルトたちを見ていると、まあたいていのこと(エラーやミスや失点や…)はどうでもよくなるなと思っていると、ヤクルトは今日も元気に先制された。

うむ、やっぱりどうでもよくはない。18時台ではまだまだ明るい、宮古の空を浮き輪から眺める。明日にはこの島を発つけれど、ここにいる間とにかくヤクルトはよく負けた。本当によく打たれ、よく負けた。人生はとは負けることの連続なのだよな、と、私は南の島でまた悟った。「ああ弱い。」と、100回くらい呟いてはオリオンビールであらゆる感情を流し込んだ。

だけど今日、ヤクルトは勝った。同点のまま勝ち越せずそのまままた勝ち越されたり、取った瞬間取り返されたり、いつものあの絶望感にうなされれことなく、ヤクルトは勝った。

「ヤクルトは今日も負けた」と私はいい続けた。

それでもヤクルトたちは、そんな中でも小さな希望を見せつけてきた。村上くんは少しずつ調子を取り戻し、またホームランを打ち始め、打点を稼ぎ始めた。ムーチョはすっかり「打てる捕手」という顔をして出塁し続けた。たいしのタイムリーで、みやさまはにこにこと笑っていた。「体調不良」だったはずのエイオキは元気に打ち、走り、守っていた。(なんなんだろうあの37歳。)てっぱちは、3番に戻ったとたん、またしっかりと打ち始めた。

私の好きな人たちは、いつも、どれだけ負けても、負け続けても、借金が膨れあがっても、打っても勝てない日でも、とにかくそこで戦い続けた。

そして今日みたいに、たまーに、その希望の集大成みたいな感じの勝ち試合を見せてくれた。エイオキのホームランで、いくらなんでもかわいすぎるサイレントトリートメントまで見せてくれた。かわいい。

勝てることだってあるんだよな、と、私は思う。「ああ弱い」とビールを飲み続けたって、それでも、勝てる日もあるのだ。

宮古島のバーアルケミストで隣に座った25歳の女の子は、名古屋から来て、1か月ここに住んでいる、と言った。

「名古屋ということは中日ファンですか?」と聞くと、「もちろんです
!」と、女の子は即答した。「まあ、めちゃくちゃ弱いんですけど。」と、笑った。

「大丈夫、5位だから。ヤクルトは6位だから。でもごめん、今日はヤクルトが勝っちゃった。昨日と一昨日は負けたけど。」と言うと、女の子はめちゃくちゃ笑った。とてもかわいい笑顔で。「弱くてもなんか応援しちゃうんですよねえ」と、言いながら。

みんなでわいわい飲むのも好きだけれど、今日は一人で飲みたかったから、友達と別れてこっちに来たんです、と、女の子は言った。その顔があまりにかわいくて、こちらがにこにこしてしまう。

私はふと、一人で宮古島へ行き、一人でバーに行った25歳の頃の自分を思い出す。

みんながそれぞれ、自分の人生を抱えながら、それぞれの場所で、生きている。そしてみんないつか必ず、別れていく。

寺山修司は、「さよならだけが人生だ」というあの名句を受けて詠む。

ひとを愛するさびしさは
ただ一茎のひなげしや
さよならだけが人生だ
(寺山修司『寺山修司詩集』)

だけどこの詩集には、同時にこんな詩が載っている。

さよならだけが 人生ならば
また来る春は 何だろう
はるかなはるかな 地の果てに
咲いている 野の百合 何だろう

さよならだけが 人生ならば
めぐり会う日は 何だろう
やさしいやさしい 夕焼と
ふたりの愛は 何だろう

さよならだけが 人生ならば
建てた我が家 なんだろう
さみしいさみしい 平原に
ともす灯りは 何だろう

さよならだけが 人生ならば
人生なんか いりません

(寺山修司『寺山修司詩集』)

たぶん、「さよならだけが人生」であるのは真実だ。その刹那の中を人は生き、だからこそきっと、愛を知る。25歳の彼女と私は宮古島の小さなバーで会い、そして別れていく。私は旅行者で、彼女も(私が思うぶんにはきっと)そのうち島を離れてゆく。だけど彼女と私の人生は、神宮からも名古屋からも遠く離れた宮古島で、少しだけ重なりゆく。

負けても負けても、日々は続く。ポケットWi-Fiをレンタルして持ち込んでまで日々見続けたヤクルトの試合は、そのほとんどが負け試合に終わる。

でもそれが、ささやかな出会いにつながることだってある。さよならだけが人生だけど、いつか本当に来るすべてのさよならの瞬間まで、私たちは出会い続けるし、春は何度もやってくる。そしてヤクルトは負けども負けども諦めずに戦い続ける。

またこの島に戻ってこよう、と、私は思う。そこでまた、ヤクルトを応援し続けようと。最後のさよならが、来る時まで。


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