アイカワタケシ 虫けら艦隊【補完版】

絶望や虚無、死神にすら見放された、虫けら以下の薬物中毒記を書き殴った自伝小説『虫けら艦…

アイカワタケシ 虫けら艦隊【補完版】

絶望や虚無、死神にすら見放された、虫けら以下の薬物中毒記を書き殴った自伝小説『虫けら艦隊』の発刊から25年 現在の視点からあの頃の自分にケリをつけるべく再びペンを握ったアイカワタケシのラストラウンド Reboot版ガレージ小説の書き下ろし連載がついに始動 (artアイカワタケシ)

最近の記事

EP17

EP17 無駄な愛 気がつくと俺は、駅のホームのベンチで長々と横たわり、一晩寝明かしてしまったらしい。 脳内麻薬強制分泌の重低音テクノの絨毯爆撃で踊り続け、今も消化しきれていない酒とコデインの影響が残る目にせわしなく乗り降りする通勤通学客たちの、足元が映り、それが何の変哲もない朝の日常という俺とはまったく無縁の恐ろしい現実の塊となって襲いかかってきて、思わず飛び起きた。 何百と交錯する靴音に混じって、列車の発着音と構内アナウンスがやかましく繰り返されている。 毎日決まって行く

    • EP16

      EP16 BAR天国 んな場所はない。 金のために踊れ。 俺はあんたの昔の女だよが出て行った際に、実家にもっといいのがあるからと言って残していったベッドに寝転び受話器を耳にあて、あなたって悪魔よね(以下、たって魔んなと略す)の声を聞いている。 先日たまたま高級スーパー正常位Cでいかにもあなた好みの珍しいモルジブ産濁り酒を見つけたので冷蔵庫で冷やしてあるわ、あとこれは既に何度も伝えてあることだけど、とたって魔んなはここで少し間を置くと、電話回線が火花を散らしてショートするくらい

      • EP15

        EP15 頭蓋骨とおしゃべり 野鼠が巣篭もり。 真夜中過ぎに。 舞っ。 その後、あなたって悪魔よねからは何の音沙汰もなく、チタン貫通ドーヌデルモの連絡先など最初から知らず。 俺はひとり孤独にゲリラの迫撃砲に直撃された塹壕のように荒れ果てた部屋で、寝ても覚めても絵と格闘する日々を送っていた。 絵筆を手に真っ白なキャンバスを前にすると、まるで両手両足を縛られ自殺岬の突端に立たされたような気分に襲われた。 思い描いたとおりに完璧な1本の線を引く、それがどれだけ困難なことであるか。

        • EP14(PART.2)

          続EP14 StayHungry(Part2) 何度かこの3人で雑魚寝したことがある。 つまり俺と、俺のことを評して悪魔だと言った女友達と、彼女の親友だというチタン貫通ドーヌデルモのトイバをしている女の子とで。 1度目はあなたって悪魔よねの部屋で。 狭い玄関を上がると電子キーボード。 洗濯籠の中には意外と大人びた趣味の蜜の光沢を放つ絹のTバック下着。 俺は見逃さない。 しばらくするとチタン貫通ドーヌデルモが喘息の発作を起こして激しく咳き込み始め、何処かへ姿を消して、俺も目が

          EP14(PART.1)

          EP14 StayHungry(Part1) 過去に俺のことを評して悪魔だと言った女友達がいる。 あなたって悪魔よね。  ちょっと魅力的な女の子にふとそんなことを言われてしまったら、男なら誰だって心くすぐられてしまうに決まっている。 あなたって悪魔よね。 マスカラ濃いめの上目遣い。 ニッと口角を上げ、真っ赤な唇を脱糞寸前の充血肛門みたいに窄めてキュッと尖らせて。 その仕草が魅力的かどうかにチカチカ疑問符が点滅したってさ、溢れ出る色気さえあれば、いくらでも誤魔化せるという確信

          EP13

          EP13 ウォッチヒルズ はらりと落ちてくる。 東京で見るよりずっと大ぶりのカラスの羽が。 まるで女の長い髪が頬を撫でるように、美しく紫色に艶めきながら。 死んだはずの父親が俺に詰問する。 毎回お前が大事なときこそ遅刻するのは周囲の注目を一身に集めたいからか、いい加減にしろよ。 これは実際には祖母が亡くなったときに、通夜の席で言われたことだ。 中で出していいよ♡の彼女が今日はお尻に入れて♡♡と尻尾を振る子猫のように、身をしならせ求めてくるので尻に入れてやる。 やがて尻に入れた

          EP12

          EP12 尻削り坂 心臓の鼓動が逆回転でクドクド脈打っている。 坂を下る時には尻が削れるほど勾配が急過ぎて、その名がついた坂を登っている途中でふと思い出す。 これといって運動に縁ががない10代後半の肉がつき過ぎている尻で便座に散らばっていたガラスの破片の粒を押し潰して小便してしまったために、アラスカみたいに広大な肉の大地の何箇所かに薄ら血が滲んで光っている。 分厚い脂肪の層で堰き止められた10代の痛みを代わりに受けとめながら、俺はその尾骶骨にほとんど焼け糞気味に亀頭を激しく擦

          EP11

          EP11 癒やされざる者(2) ルーシーさん大丈夫⁈を試して俺が悟ったこと、それはただひとつだけだ。 要するに孤独とは、死に至る危険な病、ただそれだけだ。  愛は原子力の代わりには決してならないし、人は死ぬまで孤独だ。 その孤独を振り払うつもりか何かで俺は女友達の何人かに電話した。 この時の会話が原因で現在に至るまで絶縁状態になってしまったくらい、見当外れで敵意剥き出しの呪いに満ちた言葉を気が済むまで一方的にまくし立てた。 それで仕方なく、男性経験が乏しく性的絶頂と尿意と便意

          EP10

          EP10 癒されざる者 あんたの昔の女だよがルーシーさん大丈夫⁈の紙片を持ってきた。 いかにもインド帰りらしく、血を吸う女陰と原生林に生息する多肉植物に巣食う寄生虫の乱行パーティーみたいな柄の麻の素材のブラウスを着て、裸足でいつものはにかんだ笑顔をつくって持ってきた。 そのころ俺は、ゴミ捨て場で拾ってきたおそらく安物の食器棚の背板だと思われるベニヤ板に植物図鑑から切り抜いた雄しべや雌しべや赤や黄色や紫色をした花弁や自分の生き方に多大なる影響を与えた死んだ芸術家たちの遺影や電子

          EP9

          EP9 咳をするのはやめましょう まるでエジプトの木乃伊か死後硬直した裸の踊り子みたいに一昼夜も微動だにせずある意味退屈極まりない寝姿の彼女が突然むっくり起き上がって激しく咳き込んで止まらないので俺は一瞬迷ったけれども冷蔵庫にずらりと常備してある咳止め薬のシロップの中から貴重な一本を取り出しキャップの目盛りに合わせて注意深く成人一回分だけ注ぎ入れて すると彼女は わたしが飲んでいいの 優しくしてくれてありがとう そう感極まったように足の親指と人差し指をくねらせ交差させて コ

          EP8

          EP8 ベガとレヴ 差し出した両手の指先が小刻みに震えている。 自分ではそれを止めることがどうしてもできない。 疑わしい聴診器をぶら下げ白衣を着たこの世には決して存在しない猫とも猿ともつかない動物の着ぐるみを着た若い男が気取った金縁眼鏡を冷たく曇らせ断定口調でこう言った。 君ねぇ何か悪いクスリでもやっているんじゃないの。 繰り返すが疑問符付きではなく断定口調だ。 そしてこう言い放つ。 このままだと死ぬよ。 なんでも白血球の数値が基準値を遥かに超えて増加しているのだそうだ。 死

          EP7

          EP7 リー 電化惑星だ。 今夜も股飴だ。 女はサクラだ。 夜通し寂しい男たちの話し相手をしている。 仕事道具といえば固定電話と口に含んでも有害でない成分で作られた潤滑ローションと自分の指と唇くらいのものだ。 俺はその2人前に別れた古着屋の女の部屋で留守番だ。 化粧を落とすとまったくの別人になる女の姉貴が彼氏とは別の冴えない中年男に抱かれて買わせたフランス産のコニャックをボトル1本勝手に飲み干しスポーツ新聞の風俗情報や官能小説が掲載されている誌面を暇つぶしに見ていた。 気がつ

          EP6

          EP6 ジェイソン 狩猟の夢を見る。 狩られるのは自分だ。 浅い眠りだ。 激しい眼球運動を伴うREM睡眠だ。 ここへ無理矢理連れてこられてきてから1日に9時間か10時間しか眠れないでいる。 1000年も前に打ち捨てられエーゲ海に臨む墓場のぬかるんだ地面に生き埋めにされ私の血肉を吸って丸々と肥え太った蛆虫の体内がピンク色に発光しているのを見たのを夢から覚めた今でもはっきり覚えている。 ここはいったい何処だ。 死臭と腐臭と酸化したビール酵母の臭いとニコチンタールの臭いと発情期に

          EP5

          EP5ジェニファー その目は一体どうしたのとママが聞く。 私は階段で転んだと答える。 あんな男とはさっさと別れちまいなさいよ。 ママがそう言う。 日本統治下の台湾で一族の誇りを守るために降伏より自決の道を選んだ台湾最後の首狩り族を誰よりも敬愛しており全裸にならないと分からない箇所に入れ墨やピアスをしている私より一回りくらい歳上のママが険しい表情で言う。 この業界でなくても女が目に青痣を作って階段で転んだと言い訳したらそれは男に殴られたという意味だ。 私は巨乳だ。 それも日本

          EP4

          EP4 キャンディ曰く 拳闘。 ボクシングジム。 この出会いがなければ今の俺はない。 まず間違いなくない。 強くなりたい。 もう弱いままの自分には飽き飽きだ。 薬物の力を借りて、内心びくびく怯えながら虚勢を張っていただけの弱かった自分にはおさらばだ。 あばよ。 もう飛び道具はいらないぜ。 薬物はいらない。 違法だろうと合法だろうとな。 酒の力も借りない。 喫煙は問題外。 腐った生ごみの塊を燃やして口からその煙を吐き出しているようなものだ。 迷惑この上ない。 誰でもいいから人

          EP3

          EP3道を踏み外せ ここはベルリンではない。 今日は完璧な1日ではない。 確かに俺は生き延びた。 しかし無傷では済まなかった。 じつはこれから書くことが一番書き残しておきたかったことかもしれない。 忘れないうちに、とっとと書いておく。 俺が21歳で生まれて初めて咳止めシロップを一気飲みした瞬間、あの時、約10年後の自分がまさかこんなことなっているとは夢にも思っていなかった。 つまり、脳神経内科に属する進行型の難病患者になって、障害者手帳3級の不自由な身になっているなんてこ