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EP5 ジェニファー

EP5ジェニファー

その目は一体どうしたのとママが聞く。
私は階段で転んだと答える。
あんな男とはさっさと別れちまいなさいよ。
ママがそう言う。
日本統治下の台湾で一族の誇りを守るために降伏より自決の道を選んだ台湾最後の首狩り族を誰よりも敬愛しており全裸にならないと分からない箇所に入れ墨やピアスをしている私より一回りくらい歳上のママが険しい表情で言う。
この業界でなくても女が目に青痣を作って階段で転んだと言い訳したらそれは男に殴られたという意味だ。
私は巨乳だ。
それも日本人離れをした釣鐘型のおっぱいだ。 
まるでエリザベス王朝時代の貴婦人みたいにコルセットなしでも腰がきゅっとくびれているので砂時計みたいな体型だとよくお客さんに褒められることがある。
私が丈の短いスカートで胸の谷間を見せつけるようにして踵の高い靴を履いて街を歩くと誰もが振り返る。
男も女も振り返る。
あの男の部屋に転がり込んで以来そうしないと不機嫌になり殴ったり蹴ったりされるのであの男に言われるがまま化粧や髪型や服装の趣味を変えたら一身に視線を浴びるようになった。
私はそれまで私の中にある女を注意深く封印して生きてきた。
そうしないと私はまた子供の頃に逆戻りしてまるで公衆便所かティッシュペーパーのような存在でしかなくなり男や女たちの排泄物処理場として扱われるようになる。
でも今は違う。
あの男がいる。
あの男は確かに暴力的だし重度の薬物依存症だしアル中で女好きだし我儘で経済観念も一般常識もまるでない。
一切ない。
だけど絵や文章に限っては彼は天才だと私は心の底から信じている。 
彼は照れ性で愛情表現が下手なだけだ。
じつは私も将来作家になりたかった。
小説家に憧れていた。
だけど私はたぶん彼には敵わない。
彼は私が今こうしてお客さんにストッキングを脱がされ素晴らしい肉づきだとよく褒められる太腿にびっしり鳥肌を立ている瞬間にも煙草を口の端に咥えて私が嘘をついて心療内科の主治医に処方してもらってきた精神安定剤と睡眠薬と彼がもう7年以上も常用しているという咳止め薬の錠剤を深夜のコンビニエンスストアからお金を払わず取ってきたワインで一気に流し込んで絵筆を握っているだろう。
あるいは詩か小説の断片のようなものを書いているだろう。
彼は私には叶えることができない夢をきっと叶えてくれるだろう。
だから私も頑張れる。
耐えられる。
それに舌でも指でも電動式の大人のおもちゃでもなく私を中でいかせてくれたのは彼が生まれて初めてだ。
私は今まで2回流産をした。
半分くらいの確率で2回とも彼の子供だ。
だけど彼の子供ならやっぱり産んでみたい。
帰ったら結婚を申し込んでみようかな。
私はそう思う。
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