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EP4 キャンディ曰く

拳闘。
ボクシングジム。
この出会いがなければ今の俺はない。
まず間違いなくない。
強くなりたい。
もう弱いままの自分には飽き飽きだ。
薬物の力を借りて、内心びくびく怯えながら虚勢を張っていただけの弱かった自分にはおさらばだ。
あばよ。
もう飛び道具はいらないぜ。
薬物はいらない。
違法だろうと合法だろうとな。
酒の力も借りない。
喫煙は問題外。
腐った生ごみの塊を燃やして口からその煙を吐き出しているようなものだ。
迷惑この上ない。
誰でもいいから人を殺して死刑になりたかった。
そんな、口が裂け歯茎が溶けだし血まみれになり歯が全部抜け落ち舌がカリフラワー状の腫瘍で覆われるようになっても絶対に言いたくないような、犯行動機を恥ずかしげもなく口にする通り魔が後を絶たない。
犯人は決まって刃物や人体に有害な化学薬品や可燃性の発火物を抜け目なく用意していたりする。
あるいは酒や薬物の力を借りていたりする。
要は腕力に自信がないから飛び道具を用意しているだけだ。
情けないったらありゃしない。

学歴も年齢も肩書きも髪型も顔立ちも国籍も肌の色も年収も預金通帳の残高も何も関係ない。
虚勢は通用しない。
俺は入門してすぐ髪を短く切りピアスと指輪とネックレスを外して喫煙習慣をやめた。
ボクシングを追求するのに何の役にも立たないからだ。
余計なものだ。
邪魔だ。
打たせず打つ。
可能な限り効率よく目の前にいる相手を殴り倒す。
但し、後頭部と頸部と背面とベルトラインから下を殴ってはならない。
二つの拳のナックルパートと呼ばれる部分以外で殴ってはならない。
厳格なルールと厳しい減量。
まるで詩のように。
削ぎ落としの美学。

この俺が永遠の恋人と信じたもの。
もちろん薬物中毒と拳闘には相通ずるものがある。
あくまで社会通念に従うとすれば、良識から逸脱した行為であるということ。
死の危険があるからこそ味わえるスリル、非日常の快楽があるということ。
毎回ゴングと同時に胸の内で十字を切って、己の無事を祈り、本気の戦闘モードで殴り合うことは、薬物の過剰摂取で得られる快楽を大きく上回っていた。
遥かに強烈だった。
死を賭するだけの価値が確かにあった。

むしろ往生際は悪い方がいい。
みんな諦めが早すぎるぜ。
限界は自分で作っているに過ぎない。
自分の中にある甘えや弱さが捏造しているだけだ。
そのうち調子は必ず上がってくる。
気がつけば絶好調だ。
汗の匂いが好きだ。
血を見るのが好きだ。
男だけの世界が好きだ。
男同士、練習仲間の誰かが3度目の挑戦でようやくプロテストに合格しただけで、目に涙を溜め笑って抱き合った。
切磋琢磨した。
そういう世界が好きだ。
逆に、男の喧嘩ができない奴は嫌いだ。
永遠に話が通じないから嫌いだ。
炎上目当ての動画配信でもやっていろ。
右を向いても左を向いても暴力の坩堝だ。
そういうのも嫌いではない。
修羅場を何度もくぐり抜けてきた。
そういうのも嫌いではない。
この世に信用できる大人や先輩は必ずいる。
無責任な親や我が身がかわいいだけの上司など、相手にするだけ時間の無駄だ。
自分の居場所は必ずある。
必ず見つかる。

今よく俺は、職場などで、誰とでも対応できると言われてしまう。
どんな状況でも対応できると言われてしまう。
迷いがないと言われてしまう。
決断が早いと言われてしまう。
相手を肩書きで判断しないから、よく上司に睨まれる。
目の敵にされる。
あはは。
視線を落とす。
その蒸し立ての肉饅みたいな腹を殴ったらイチコロだな。
怖い相手がない。
恐れるものなどない。

人生に必要なことはすべてボクシングジムのリングで学んだ。

ヴェルヴェット•アンダーグラウンドのアルバムはすべて好きだ。
中でも3枚目のアルバムが好きだ。
すべて空で歌えるし、歌詞内容もはっきり覚えている。
  
今、自分の居場所に戻れない。
その肉体を憎む。
弱さを怨む。

俺、曰く。

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