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EP16 BAR天国

EP16 BAR天国
んな場所はない。
金のために踊れ。
俺はあんたの昔の女だよが出て行った際に、実家にもっといいのがあるからと言って残していったベッドに寝転び受話器を耳にあて、あなたって悪魔よね(以下、たって魔んなと略す)の声を聞いている。
先日たまたま高級スーパー正常位Cでいかにもあなた好みの珍しいモルジブ産濁り酒を見つけたので冷蔵庫で冷やしてあるわ、あとこれは既に何度も伝えてあることだけど、とたって魔んなはここで少し間を置くと、電話回線が火花を散らしてショートするくらい必殺フェロモンを込めた声で、こう囁くように言う。
今日私の誕生日なの。
泊まりに来ない?
俺は二つ返事で咳止め薬のシロップを1本追加で飲み干し駅へと急ぐ。
コデインには勃起障害の副作用もあるが、んな懸念は当時の俺には微塵もなく、犬がマーキングするのと同じ要領で、ところ構わず精液を撒き散らしていた。
歩きながら、俺は考えた。
まず花一輪でも手にしておめでとうと言う。
入るなりいきなり下駄箱を使って片足立ちにさせ、白くむっちりした太腿を掴んで目蓋の裏側や網膜の表面に舌を這わせてみたり、耳朶を強く噛みながら後背位Dを試したりはしない。

たって魔んなが目配せして部屋の明かりを消し、白い歯を見せ布団に潜り込む。
片隅に置かれたテレビで再生中の音楽ビデ、が発する光が乱舞する中で、俺もその横へ。
いつも自信ありげで充血が気になる相手の眼を見て好きだと嘘八百を口にすると、思わず吹き出してしまいそうになり、慌てて唇を重ねてごまかし着衣の上から胸に這わせていた右手を離してブラジャーの下に差し入れた、まさにその瞬間のことだ。
たって魔んなが俺の動きを制し、驚くべきことに、当時の俺の交際相手の名前を出し、んなことを言う。
やっぱりやめましょう、私も彼女のことが好きだから、裏切るなんてできない。
耳を疑う言葉をビルの解体工事で使うドリルやハンマーで開頭手術を受けながら吹き荒れる磁気嵐に突っ込み波乗りするような、俺好みの甘く鋭い轟音ノイズが掻き消。
俺は脱いだばかりの服をまた着直すと、とっとと玄関へ向かっ。
しばらく行くと、小さな駅舎の明かりがぽつんと見え。
終電にはまだ間のある時間帯だが俺は改札口には向かわずそのまま素通りして2度と後ろを振り返ることはない。
土地勘はなく、タクシー代もないが、道に迷ったら迷ったで別にどうだっていい。
暑くも寒くもなく、ただ小便がしたいだけだ。

『秋』 

槍の形をした串刺し鉄柵に沿ってぐるりと回り込むように歩き、やっと正門の前まで来ると、それは清く正しく美しい名門女子大学で。
俺は監視カメラの真下でズボンの前を開け、哀れな我がちんぽを引っ張り出すと、長々と酒臭い放尿を。
見上げると星一つない夜空にイカ墨温泉に浸かって射精したみたいな雲がぽかっと浮かんでおり、風に流されちりぢりに散ってゆく。
やがてネオンも不動産関係の立て看板も疲れきった足元に絡みつくピンクチラシもすべてハングル文字だという街まで辿り着く。
生ごみの山を漁っていた1匹の痩せて肋骨の浮き出た野良犬が、こちらの気配を察してひとつだけ残った眼球を白く光らせ振り返り、鋭く俺を睨む。
一瞬たじろぐが、偶然自転車で通りがかかった牛乳配達の男が日本語以外の言語で早口に怒鳴り、犬を追い払ってくれる。
見計らったようにカラスが舞い降りて、ごみ袋の裂け目に嘴を突っ込むと、元から淀んだ空気の濁った街の夜明けに腐臭を撒き散らす。
気がつけば始発が出るまであと少し、自分が住む町まであと5駅という場所まで歩いていた。

夜明けまで遠い海岸通りを俺は歩いていた。
近い所で玄関扉が乱暴に開かれる音がすると、一気に足音が近づいてきて、野良犬の群れが俺を追い越す時だけ二手に分かれ、また一塊に戻り、一度は死んだ女の声で俺の名前を叫ぶとつむじ風のように走り抜けて行く。
排気ガスと狂った血の臭いが入り混じった吐く息が熱く、蝿の死骸を山ほど残し。
真っ黒な海の岩礁に打ちつける波濤だけが、月の光を浴び白く砕け散るのを見ながら俺は小便がしたい。
それは夢で、あんたの昔の女だよのベッドで全裸で寝ていた俺の足元に、あんたの今の女だよが仁王立ちでいる。
壊れたセルロイド人形みたいに表情を失くし、煙草の吸い殻で山盛りの灰皿を掴んだかと思うと、止める間もなく俺めがけて投げた。
すべては一瞬の出来事で、俺は頭から灰を被った自らの姿に驚き呆れるしかない。
たって魔んなが先週電話をかけてきて、一部始終暴露したのだという。
以来、あんたの今の女だよは、不眠と摂食障害で病院に通ってプドウ糖の点滴注射を受けているのだという。
たって魔んなはこう言ったらしい。
あなたを傷つけるつもりは決してないの、でも彼の私に対する気持ちがこれ以上エスカレートしないうちに、正直に伝えておいた方がいいと思ってね。
本当にキスしかしていないから。
おまえは馬鹿か。
んな馬鹿な。
ちんぽがまるで、ギロチン台に立たされたマリー•アントワネットみたいに、ちん毛の先まで真っ白に染まっているじゃないか。
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