クスサンのブローチ
【昆虫エッセイ】
《8:30》
出勤した夫からLINE。
「玄関におっきい蛾がいる!」
駆けつけると本当に大きいのがいた。
ヤママユガのクスサン♀だ。
住宅街なのに…よくこんなところに来ましたね。
見つけて、知らせた夫よ、でかしたぞ。
共用階段の壁で羽を休めていた彼女の前に指を差し出す。
トコトコ大人しく指先に乗る。
その場で写真撮影するも光の加減でなかなかうまく撮れない。
「部屋でゆっくり観察しよう」
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《8:35》
我が家へようこそ。
貴方が初めてお招きした蛾のお客様です。
狭いけど、どうぞおくつろぎください。
少しの間落ち着かず、窓辺でパタパタ羽ばたいていたが、再び指に乗せると静止。
着ていたパーカーに留まる。
気に入ったようだ。
なぜ連れてきたのかと責められると思っていたが、まんざらでもない顔をしている。
この位置から見る顔が、ぬいぐるみのようで愛らしい。
ベルベットのようななめらかな質感の翅。
威嚇したときに現れる後翅の目玉模様に惹きつけられる。
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《13:30》
あれから4時間半ずっと私の胸にいる。
テレビを見て、本を読んで、シリアルを食べ、実はそのままトイレにも行った。
少し暑くなってきたから本当は脱ぎたいけど、お互いに居心地がいいようなのでこのまま過ごすことにした。
夕方になったら外へ行こう。
伴侶が近くにいるといいのだけれど。
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