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消えてしまった「オカルト系学習読みもの」たち/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録

「これは勉強だから」ーーという建前で、昭和キッズたちはオカルト本に耽溺した。出版社(ちゃんとした児童書のレーベル)から大量に送り出された「オカルト系学習読みもの」は、気づけば姿を消している……?

文=初見健一 #昭和こどもオカルト

昭和オカルト児童書の「階層」

 5年ほど前に『昭和こども図書館』という本を書いた。僕が主に小学生時代に読んだ記憶に残る児童書について、絵本から文学、オカルト本まで、見境なしに紹介していく極私的ブックガイドだ。オカルトブーム全盛期である70年代の読書体験に基づいているため、また当時の僕自身の嗜好のせいもあって、やたらとオカルト児童書の含有率が高い偏りまくったラインナップになってしまった。
 この本を書くためのリサーチをはじめたころ、途方にくれてしまったことがある。10歳前後の僕が大量に読んだはずの本、仮に「オカルト系学習読みもの」と総称しておくが、そうした類の本がまったく特定できなかったのだ。記憶を頼りに児童書専門古書店の目録や国会図書館のデータにあたってみても、該当する本がほとんど一冊も見つからなかった。
 エグい図版が満載のモロな王道オカルト系児童書については、大量のマニアが存在し、古書市場ではプレミア価格で取り引きされ、復刊企画も盛んだし、詳細な資料もある。しかし一方で、当時は「モロじゃない」系のオカルト児童書も大量に刊行されていたのだ。
 このあたりの微妙なジャンル感については、70年代に子ども時代を過ごした人でなければちょっとピンとこない思う。前代未聞のオカルトブームが吹き荒れた70年代は、当然のことながら子ども文化も多大な影響を受け、児童書市場にも大量のオカルト関連本があふれかえった。それらの有象無象のオカルト児童書にも、かなり明確な区分けというか、「階層」があったのだ。

 当時の代表的な児童書シリーズを例にしてごく大雑把に説明すると、まずもっとも下位に位置していたのが(話をわかりやすくするためにあえて下位→上位という「差別的」な順列で説明するが)、いわゆる豆本と呼ばれる類のシリーズだったと思う。
 当時はK.K.ベストセラーズの「ワニの豆本」、小学館の「コロタン文庫」、秋田書店の「大全科」など、各社がポケットサイズの小型本のシリーズを刊行していた。どのシリーズもホビー入門、芸能ネタ、クイズなどを網羅する内容だったが、怪談集や心霊写真集、妖怪図鑑、UFOネタなどのオカルト本も多かった。編集はかなり雑で記事も二番煎じ的なものが大半だったが、その「駄菓子屋的」とでもいうような怪しさが魅力だ。親や先生にとってはマンガの延長、まったく「本」としては見なされていなかった商品である。

ショック残酷大全科

代表的な豆本シリーズ、秋田書店の「大全科」(『ショック残酷大全科』)とK.K.ベストセラーズの「ワニの豆本」(『世界の怪談』)。「大全科」はポケットサイズながら部厚い図鑑というスタイルで、「ワニの豆本」は文字中心のモノクロ印刷本だった。

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