見出し画像

【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第11回)

前略

久しぶり。

ていうか手紙なかなか書けなくてスマン。
軍の偉いさんたちに入れ替わり立ち替わり引っ張りだこにされて、そのうえ危うく、実験動物よろしく解剖までされかけた。
とにかくずっと忙しくて、ゆっくり風呂に入ったり眠ったりする暇もなかったんだぜ?
なんか知らない間に、すごい英雄にされててさ。
自慢じゃないよ、自分じゃ何にも覚えてないんだから。
だからむしろ迷惑してるんだ。
でも勲章とか断れそうにないんだよなぁ、ハァ・・・。

俺に一体何があったのか?
どうして生きてたのか?
興味はおありですか?

ハハ、俺もあんまり知らないんだよ。
むしろ教えてほしいくらいで。

じゃぁとりあえず、記憶のあるところから話をしていこうか。

まず、俺ほら、敵さんの要塞にいただろ?
で、独房を移されたあとはろくに食事ももらえなくて、その上頭がぼーっとする薬をたっぷり注射されて、だからぼんやりとしか記憶がないんだよね。
何をしゃべったのかとか、しゃべらなかったのかとか。
とはいえ、正直な話、俺は下っ端の一兵卒にすぎないから、軍の重要な機密は何にも知らないし、その辺はあまりうちの軍の上の方も心配してなかったみたいだな。
で、大事なのはむしろそのあとだ。

俺は例によって電気ショックにかけられた。
でも、自白剤か何かでしゃべらされたあとだったみたいで、もう俺に利用価値はなかったんだろう。
もう本気で感電死させるつもりだったらしく、敵さんの将校とか偉い感じの人が何人も拷問部屋に様子を見に来てた。
俺の死に様をショーのように見物したかったんだろうな。
悪趣味な連中だ。
で、スイッチが入れられて、俺はいつものように体を変な方向に曲げて(曲がっちゃうんだよ、ひとりでにさ)、もう叫び声をあげる元気もなくて、きっとううーとかうめいてたんじゃないかと思う。
で結局、そこまでしか覚えてないのよ。
なんか目の前がカーッと赤くなってきて、ぼやけた景色を赤いフィルター越しに見てるような感じになって、そして、とうとう赤だけになって・・・。

そのとき、俺はなぜか夢を見ていたんだ。
すごく不思議な夢。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

真っ暗な空間に俺が一人浮かんでて、あ、これは死んだのかな? と何となく思った。
ふと闇を見上げたとき、暗黒の向こうに見えたのは、巨大な黒いくちばしと、これまた巨大な二つの黒い目玉。
俺は怖くなって、きゅっと小さな丸いカタマリになるんだけど(この辺が夢なんだよなきっと)、その巨大なくちばしから、低いしわがれ声が、耳をふさぎたくなるような大音声で、俺に語りかけてきたんだ。 

『お前、このまま死ぬのか?』 

俺はもう小さなカタマリだから声が出ないので、心でこう答えた。 

『しょうがないだろ、もう体がないんだ』 

そしたらその声が、 

『ワシの体を使え。力を貸してやる』 

なんて言うもんだから、俺はうれしくなって 

『わーい! おじさんありがとう!』 

って、真っ黒で大きなくちばしの方へぽよんぽよんと近づいて行ったんだ。
そしたらなぜかすごい竜巻が起こって、カタマリになった俺はぐるぐると闇の彼方へ吸い上げられていった。
すごい回転と上昇のさなか、最後に聞いたのは、例のくちばしの声だった。

『力を得るためにワシの名を唱えよ、その名は・・・』 

そこですごい音がして、その先はもう覚えてないんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

その後、なんと俺は、全裸でこの宿営地の入り口に倒れてたんだ。
傷一つなく。
俺も意味が分からなくて。
程なくして発見してくれた警備兵と一緒に宿営地へ帰った後、上官に呼ばれて報告してる最中に聞いた話だと、驚いたことに、どうやら俺がいた要塞は完全に壊滅してて、そのおかげで敵さんの侵攻の手がだいぶ緩んだらしいんだ。

だからまぁ英雄な訳だけど、でも何で敵の要塞が壊滅したのか、何で俺は帰ってこれたのか全然分からないんだ。
俺がやったのかな?
何か未知の力みたいなのが目覚めて、突然スーパーマンになっちゃったとか。
ハハハ、考えすぎだよな。
とにかくまぁ、生きて帰ってこれたことは奇跡と言っていい。

ただ心残りは、やっぱりあの忍者だ。
ずっと階級の高い偉い人が教えてくれたんだけど、彼女はうちの軍が極秘で持ってる特殊部隊の隊員で、名前は特にないんだそうだ。
そして、彼女に助けられ(かけ)たことは他言無用だと釘を差された。
ま、秘密の部隊だからね。
でも残念ながら、もう教えちゃったもんね、お前さんに。
彼女の冥福を心から祈りたいと思う。
生きて戻れてたら、教えてほしいことがたくさんあったのに。
教えてくれたかどうかは微妙だけどな、スリーサイズとか。

しばらくゆっくり休むように言われてるから、戦場に戻されるのはもう少し先になりそうだ。
それまでは思う存分羽休めをさせてもらうさ。
とはいえ、宿営地の固いベッドじゃ大して休息にもなりゃしないがね。
お前さんはどうしてる?
ここからお前の様子を知りようがないのが本当に残念だ。
奥さんは元気か?
彼女にも、俺はもう大丈夫だって伝えてくれ。
心配かけてすまなかったとね。

早々



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)