【連載小説】聖ポトロの巡礼(第14回)

おしまいの月26日

 あれから何回かズモーのところに足を運んだけど、この旅に関して、あれ以上のことはどうしても教えてくれなかった。

 その代わり、俺は彼と、この世界のことや、元の世界のことをいろいろ話した。
 どうやら彼は、前の世界ではスポーツ選手だったらしく(といっても二軍どまりだったから有名ってわけじゃなかったそうだ)、それでも、歩きでの旅はやっぱりキツかったという。元スポーツマンが弱音をはくような旅を、文科系VNetオタクのこの俺がやってるんだから、たいしたもんだと我ながら思うね。
 ま、いちおう五体満足で健康体ではあると思うんだが。

 で、彼と俺との共通の見解なんだけど、この世界の人たちは、とみに争い事を好まないようだ。ギャンブルや賭け事はもちろんのこと、格闘や喧嘩もやらないし、スポーツにもあまり興味がないみたい。彼らの娯楽といえば、草笛を吹いたり、花や草の実を集めたり、絵を描いたりといった、実におとなしいものばかりだ。
 前に一度ズモーが、自分のやっていたスポーツをこの世界の住人に教えようとしたらしいんだけど、ルールを説明した段階で「なぜ得点をより多く取ったほうを勝ちとするのか?」「せっかくチームを二つに分けたのなら、彼らと得点を均等に分かち合うことはできないのか?」といった、スポーツの根本を問うような質問が相次ぎ、結局みんな興味を持ってくれず、教えるのを断念したんだそうだ。
 実に不思議な考え方だと思う。いや、こうまで言われると、実は争い事を好む俺たちのほうが不自然なんじゃないかとも思えてくる。仲間同士、与えられたものを分け合うのが、なぜ不思議なのか。こう問いかけられても、なぜか返答に詰まる。どうしてだろう。どうして俺たちの世界では、こういう考えが興らないのだろう?

 俺とズモーはすっかり仲良くなった。でも、何日も降り続く長雨が上がったら、体がなまらないうちに俺は再び「王国」へ出発しようと決めた(俺とズモーは、クッタポッタのことをそう呼ぶことにした。面白いエピソードは、旅を楽しくする香辛料になるからね)。

 王国に着いたら、ズモーにも何かお土産を買って帰るとしよう。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)