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【連載終了】聖ポトロの彷徨

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『前任者の書』に記されし楽園「サバラバ」にやってきた一人の科学者が、なぜか無人の荒野と化したサバラバの謎に迫ります。容赦なく照り付ける灼熱の太陽、じわじわと迫る飢えの危機を超えた… もっと読む
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2018年11月の記事一覧

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第1回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第1回)

1日目

「前任者」の本とは大分違う。いや、全然違うと言った方がいいだろうか。意識がはっきりするまでに時間がかかった点は同じだが、それ以外は全く違うと言っていい。

今は転送が完了して7~8時間といったところだろう(地球時間でだが)。

完了当初は、本当に景色を見るのもままならないほどのめまいと吐き気と苦痛で、転送そのものが成功したのか否かも解らない状態だった。しかし時間と共に意識がはっきりす

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第2回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第2回)

3日目

コムログの充電に2日もかかった。
太陽光線の吸収率が予想以上に悪く、通常なら地球時間で4時間程度で済む充電に、思いもよらない時間がかかってしまった。

理由は不明だが、光量そのものは十分あるはずなので、太陽光線に充電を妨げる何かが含まれているか、あるいは必要な何かが不足しているか、のどちらかだろう。

だがしかし、手持ちの観測機器がこのコムログ程度では、確かめるすべなどありはしないので

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第3回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第3回)

7日目

禿山をいくつか越えた先に、建物の残っている集落を発見した。もしかしたら、誰か住んでいるかもしれない。これから探索を開始する。

【記録中断】

【記録再開】

困難な状況下、たった一人で過ごしてきたせいで、少々精神的にも参っていたのだろう、誰でもいいから、とにかく誰かとコミュニケーションをとりたい、と心から願っていた私は、我を忘れて斜面を転がるように滑り降り、集落へと一目散に駆けて行っ

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第4回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第4回)

10日目

こちらの時間にも、だいぶ慣れてきた。惑星間の日差、つまり1日の長さが違うということが、これほどまでに体力と精神力を消耗させるものだとは、と正直驚いている。

私も仕事柄、海外へはよく行くほうだし、時差の違いによる感覚の変化にはずいぶん慣れたつもりでいたため、日差も時差と同じようなもので、さほど体には影響しないだろうと考えていたのだ。
だが、1日が1時間45分ほど長いというだけで、活動

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第5回)

13日目

コムログに大きな反応があった。なにやら大きな都市の跡のようだった。私は圧縮水分を口に放り込むと、半ば駆け足になってその場所を目指した。

前任者の本に描かれていた一番大きな都市は「城塞都市ゼビル」と呼ばれる場所だったはずだ。ここがおそらくそうに違いない。

だが、ある程度予想していた通り、都市は完全に廃墟と化していた。

巨大だったはずの石造りの門はぼろぼろに崩れ、形状から推測する

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第6回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第6回)

15日目

前回の発見を契機(けいき)に、私は根気強く、都市の中を探索した。都市には面白い遺跡がたくさんあったが、任務に直接結びつきそうな発見は、先日の落書き以外には、特に見つからなかった。

都市の北側、噴水広場(先日の広場を私はそう名づけた)から北へ少し進んだ場所にあるのは、おそらく行政の中心だった建物だろう。
前任者の本にあった通り、豪華な王宮やお城の跡などはこの街には見当たらず、どちら

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