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2023年7月の記事一覧

story 妖術使い

story 妖術使い

古来よりその家の者だけが
負うてきた術である

負うと申すのはその術が
死を喰らうためである

父から子へ暗澹と
伝えられていくのは

それが唯一の
生きる術だからである…

死を喰らう者
その髑髏を見てはならぬ

死を喰らうもの
その髑髏に心を許してはならぬ

死を喰らうもの
憑代を持て

いかなる時も
その身を離すな

この世でひとりの
憑代を持て

心を許すな
憑代を持て

この世でひとりの

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story 断片

story 断片

古老がひとり

ふしくれだった指に
ある断片を持ちながら
思案にくれている

来る日来る日も
その場所にいて

同じものを見つめている

ふしくれだった指に
ある断片を持ちながら

その紙切れは
一体どこに
収まるんですか…

古老は
驚いたように
私を見た

いや
古老が見たのは
私ではない

記憶の向こうに
霞んで見える

確かにあった
遠いあの日を

story アートマン

story アートマン

できれば…

寡黙な彼が口を開いた

できれば
創りたいと思っている…

形の無いもの

形が無くても
心に残るもの

僕はそういうものを
創りたいと思っている

私はそんな彼を
傍でずっと
見ていたいと思う

この美しい魂を

アートマン

私にとっては

あなたがアートだ…

story 影

story 影

人生なんてものは
つくづく分からない

俺が俺を
選んだわけではないのに

空の上では
俺が俺を選んだことに
なっている

こうして闇に潜んでしまえば
誰が俺だと気づくだろうか

薮かけの草に潜む狼

あいつらくらいさ

俺を俺だと知るものは

story こころの庵

story こころの庵

ここは小さな施術院

体と心をほぐします

表札の下に
小さく文字が添えられている

営んでいるのは晩年の夫婦

傍に畑
季節の野菜が実り
庭には楓が揺れている

静かな暮らしがあるだけの
素朴な風景

今日もふと訪れるひとに
寄り添う夫婦の姿があった