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【小説】林檎の味(八)

 見舞いはちょうど良いタイミングだったのかもしれない。カオリの訪問から一週間もすると、すべてがひどいことになった。
 カオルの症状は急変し、集中治療室に運び込まれた。四肢が動かないというより、体の芯から麻痺していくような感覚で、呼吸も満足に出来なくなったのだ。ストレッチャーに乗って移動する時、廊下に立ちつくす両親の姿が目に入った。最悪の事態の可能性について、医者に散々脅されたらしい。しばらくはいわゆるスパゲッティ状態だった。

 カオルはベッドに横たわり、一日中ぼんやりと窓の外を眺めていた。一般病棟に戻ってみると、木々はすっかり黄葉していた。
 「カオリちゃん来ないね」
 林檎の皮をむきながら、母がぽつりとつぶやいた。気持ちを見透かされたカオルは少し恥ずかしく、ほおを赤く染めた。
 「色々大変らしいよ」
 「なっ、なんかあったの」
 ろれつがよく回らず、しゃべるのがしんどい。これでも随分良くなった。一時は意思疎通のために文字盤が必要になるかもという状況だった。
 「家のこととか、色々ね……」
 言葉を濁す母に、カオルの表情がさっと曇る。
 「良くない噂も耳にするし。カオリちゃん、変わっちゃったわ……」
 良くない噂って?何がどう変わったの?会話は続けられそうにもない。カオルは思いを飲み込むと、そっとサボテンの鉢に目を向けた。

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