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【旅日記】関門海峡、歩いて渡ってみた

前回のあらすじ:鈍行で数時間かけて下関にやってきたわたしは、海沿いを歩きながら平家滅亡の地をめぐりつつ、ついに関門トンネル人道入口へと辿り着いた。

さて、関門トンネル人道である。高速に乗った時に渡る関門橋とは別に、海底に作られた歩行者や自転車用のトンネルがあると知り、どうしても来てみたかったのだ。つまり、徒歩で山口県と福岡県の県境を越えるということ。どんな感じなんだろう。期待が高まる。

トンネルの入口は壇之浦古戦場跡から徒歩すぐ、大きな看板があるため迷わなかった。

歩行者は無料!

「料金箱」が設置してあり一瞬どきりとしたが、よく見るとたったの片道20円、それも自転車や原付の人の値段で、歩いて渡る分には無料だった。
ちなみに料金箱は下関側の入口にだけ設置してある。向こうから来る人は最後に払うという仕組みのようだ。

周りにはほとんど人がおらず、本当にこのまま進んでいいのか不安になる。入口と思しき古びたエレベーターはまるで業務用のように無機質。

え、ここから行くの…?怖い……

エレベーターに乗ると、滑り込むように後にひとり、女性が乗り込んでくる。ここから歩く人はいったいどこの人でなぜ歩くのだろう。ここまでどうやって来たのだろう。謎である。

「地上」と「地下」しかない

「地下」のボタンを押してしばらく待つと、ぐん、ぐんとエレベーターの降下していく感覚。具体的に何階分くらい下がっているのか想像がつかないため怖い。

かなり深くまで降りた感覚と共に「地下」へ到着。扉が開くと、数人の年配の男女が談笑しながら待っていた。ここにこんなに人間がいたのか!という驚き。

エレベーターから降りた景色

関門トンネルの案内があって、初めてここが海面下約44メートルであると知る。意外にも歴史は古く、大戦を挟んで1958年に開通している。

全長約4000mもあり一瞬ぞっとしたが、よく見ると人道の長さは780m。これなら歩けそうだ。

さあ、行くぞ!と意気込んでトンネルの始点に立つと、見えた景色はこんな感じで圧倒された。向こう側の出口が視認できないまま消失点になっている……。

道のりは長そうだ

ここからはただひたすら変わらない視界の中を歩く。歩いても歩いても進んでいる感じがしない。時々向こうから来る人とすれ違う。何をしている人なのだろう。

トンネルが微妙に傾斜になっているのに、視界ではそれを感じられず真っ直ぐに先が見えるためか、なんとなく平衡感覚が狂ってくる。海の底を歩いているからか、空気が重たいような気がしてくる。

現在地点が分かるようになっている

壁には申し訳程度に魚の絵が描かれている。「ガラス張りであれよ!」と強く思ったが、海の中のトンネルというわけではなく海底を掘ってあるわけだからガラスだろうが魚は見れないだろう。

自然と早歩きになってしまっていた足だったが、ふとスピードが緩む。少し先で父親と小学生くらいの息子が、はしゃぎながら写真を撮っているのだ。ああ、そうか。彼らの足元には白線が。もうこの先は福岡県だ。

ほんとうに歩いて来れちゃった…

嬉しくて嬉しくて、もったいつけてゆっくり県境を跨ぐ。これで山口県⇔福岡県間をバスでも電車でも徒歩でも越えたことのある人間になった!(だから何だ)

今は福岡県の空気吸ってる

目標を達成したことで気分が上がっているわたしは、山口県側よりも心なしか軽い足取りで福岡県側を歩いた。遠くにやっと門司側の出口が見えてくる。

ここで、ちょっとコワイ出来事が。ふと前を見ると、自分よりも少し先を歩いている女性。見覚えがある。下関側で歩き始めたばかりの時に、向こうから来てすれ違った女性だ。な、何でその人がわたしより前を歩いてるの!?関門トンネルに現れる怪異か!?!?

その女性は、門司側出口に着くや否やくるっと向き直り、また下関方面へと歩いていきました……。つまりだ。この関門トンネル人道は、地元の方の運動コースになっているわけですね!怪異呼ばわりしてごめんなさい!

やっと出口だ。

来た時と全く同じようなエレベーターに乗り、「地上」まで向かう。まるで巻き戻しているようだ。

やっぱりちょっと怖い

エレベーターの扉が開き、外に出るとそこは……!
見たことあるような青い海。対岸のある海。
あ、あれ……本当に門司側に着いたのかな?
また下関に戻ってきてない??(それこそ怪異だよ)

かろうじて見覚えのない鳥居があることで、さっきとは別の場所に着いたのだとわかる。

入口はまるっきり同じだ

出てきた建物を眺めると下関側と全く同じである。土産物屋があるわけでもない。ただ単に、向こう岸とこちら側を繋げているトンネル。それ以上の要素はない。

このシンプルさ、単調さは嫌いじゃない。とにかくわたしは達成したんだ、歩いて関門海峡を渡ったんだ

さっきまであの対岸にいた

感動を噛み締め、少し休憩をする。何せ関門海峡を歩いて渡るために2泊分の荷物を全て背負ってきたのだ。トンネルの固い床を歩いてきたため足が少し疲れている。

ここからは、13時までに家族の来る門司港駅に向かえばいい。現在12時過ぎ。これは余裕だろう!

門司港までは、どうやら電車があるらしい。事前にGoogleマップで調べておいたのだ。この「関門海峡めかり」駅から「門司港レトロ観光線」に乗って、門司港駅まで行けばいいのだろう。

これで下調べ完璧なつもりだった……

再びわたしは「関門海峡めかり駅」を目指して海沿いの道を歩く。下関側とはまた雰囲気の変わった風景が続く。今日の旅程はなんと贅沢なのだろう。

ずっとこの海を見ていたい

途中で公園が現れる。大きなたこの遊具があって楽しそうだ。Googleマップによるとこの遊具はたこの滑り台としては国内最大級らしい。(誰調べ……?)

国内最大級のたこの滑り台

たこの滑り台を過ぎると、ついに駅に到着……!
到着……の、はずなのだが……。なぜか人っ子一人いる気配が無い。閑古鳥が鳴いている。

「駅」でしょ?え、どういうこと!?
嫌な汗が噴き出て、慌てて真面目に調べてみる。

「観光」って付いてる時点で察しろ

わたしが乗ろうとしていたのは、「観光トロッコ」であり、そもそも土日しか動いていない。運行本数も限られている。ええと、今日は金曜日。つまり。

電車動いてないじゃん(;;)

よし、歩きます!(;;) (←旅先での采配ミスで歩く羽目になることに慣れている)

美しい遊歩道をUターン

悲しきかな、トンネル出口へまた逆戻りしなければならないらしい。さっきの十数分が完全に無駄だった。

門司港駅までの徒歩経路を調べてみると、なんと40分くらいかかる。現在時刻は12:20くらい。これは、なんとか待ち合わせには間に合うだろうか!?

そう期待したその時、家族からのLINEが。「乗り継ぎが上手くいって1本早い在来線に乗れたから、もう着く」とのこと。え?もう?終わった……ごめんよ家族。

なるべく待たせないためにも、トンネル内とは比較にならないくらい歩く。※距離的にもスピード的にも。

途中で「海洋散骨」の看板があって、「いいなぁ」って思った。わたしが死んだらあの美しい海に撒いてくれ。

足が痛くなる予兆があり、途中何度もベンチで休憩した。なぜ、旅の初日からこんな苦行を……?

本当はこれに乗りたかったのになぁ

もう3日分くらい歩いたよ!ってくらいに歩き、やっと門司港の中心街が見えてきた。ほっとする。

門司港はこれで3回目

ということで、ここからは語るには値しないかもしれない。家族と合流し、遅れたことを詫びた。背負っていた重い荷物はロッカーに預けた。美味しい焼きカレーを食べ、九州鉄道記念館で遊び、展望台に登って美しい壇ノ浦を福岡側から見ることができた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
関門トンネル、なかなかできない体験だったと思う。ぜひ参考にしてください。

次回は別府観光のことを書きます。

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