見出し画像

君は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を知っている ~遊戯王もFFも実質D&D!?~

序文

君はTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を知っているだろうか?
(TRPGという物が何なのかはテンポの都合上今回は控えさせてもらいたい。知らなかったならGoogleか何かで適当に「TRPG とは」で検索してほしい。)

これを読んでいる人間のほとんどが「知らない」、もしくは「名前だけ」と答えるだろう。しかし、私は確信をもって言う。

この記事を開くような物好きでゲーマーな君は、D&Dの中身を知っている。
「〇〇と〇〇だから実質××」みたいなネタで言えば、「実質D&D」と言える作品がそこら中にある。

「元祖TRPG」どころか、「元祖RPG」という肩書は君が思う以上に重いものであり、君が歩いてきたゲーマー人生のそこら中にD&Dの欠片が落ちていた。君はそれに気づいていなかっただけなのだ。

特に洋ものに手を出すゲーマー、D&Dは第5版が出て以来海外で人気がストップ高になっている。その辺のインディーゲームとかドラマを少しうろつくだけですぐにD&Dネタが出てくる。テーブルを囲んで20面サイコロを振ったり一人だけ仕切りで自分の側を隠しているシーンを見た事があるだろう。それがD&Dだ。

アマゾンプライムで「ヴォクス・マキナの伝説」というアニメを見かけたことはあるだろうか?それも海外のD&D配信「Critical Role」のストーリーをアニメ化したものだ。

日本の作品だけでぬくぬく育ったのであっても、D&Dは確かに日本の作品に影響している。この記事を開くような物好きなお前は、この後紹介する物を最低5つは聞いたことがある。保証しよう。

もし君が昔のスクウェアのRPGのファンなら、FF1やロマサガを作っていた当時のスクウェアにはD&Dプレイヤーがいた事を知っているだろうか?FFやロマサガをやっていた君は要チェックだ。

しかし、これを読んでいる君がもう少し詳しければ「古いアーケードゲーム」とか「BASTARDとかいう漫画を訴えた奴」みたいな事を思い出すかもしれない。


甘っちょろいわ!!

D&Dはこの世の「ロールプレイングゲーム」と呼ばれるすべての物の祖だ。それは日本とて例外ではない。しかし、だというのにだ、日本ではほぼ忘れ去られてしまった。忘れられすぎて日本語版の出版も止まってしまった。同じウィザーズ・オブ・ザ・コーストのマジック:ザ・ギャザリングがD&Dコラボを始めた矢先に。

だから、こうして私は記事を書いている。

別にテリー・プラチェットの『ディスクワールド騒動記』みたいな日本じゃ誰も知らない、特に影響もない小説を「本場じゃ有名だから読め」と押し付けている訳ではない。少し、君が見てきた物の裏側、その真実を知る手助けをしたいだけなのだ。

(内容は特に記述がない限り最新の内容に従うものとする。)

実例

出現頻度は★4段階で評価する。

4つ ゲーマーなら誰もが知っている
3つ ファンタジー方面では頻出
2つ ファンタジー方面ではたまに出てくる
1つ 頻出ではないが有名シリーズ複数に出てくる

ヒット・ポイント(HP) ★★★★

厳密にはD&Dが始まりではないが、D&DがHPを有名にした事は疑いようがない。
ゲーマーの間ではHPは何なのかという解釈で議論になることもあるが、最新のD&D第5版ではこのように解釈している:

ヒット・ポイント(hp)は肉体的および精神的な打たれ強さと、生きようとする意志と、幸運とを組み合わせた概念だ。

『Player’s Handbook』日本語版 第2部 戦闘「ヒット・ポイント(hp)」より

DMはヒット・ポイントの減少をさまざまな形で描写する。君の現在ヒット・ポイントが最大ヒット・ポイントの半分以上なら、君は目に見える怪我をまったく負っていないことが多い。いっぽう最大ヒット・ポイントの半分未満になると、切り傷や打ち身といった消耗が見え始める。そして君のヒット・ポイントを0にした攻撃は、君に直撃したことになる。

同 第2部 戦闘「ダメージの効果を描写する」より

つまり、スタミナ、外傷、精神ダメージなど諸々を総合している。致命傷を避け続け、とどめの一撃に至るまでのトータル ― それがD&DにおけるHPだ。

ちなみに、D&Dに「防御力」の概念はなく、代わりに「アーマークラス(AC)」がある。これは近年の作品にはほとんど受け継がれておらず、D&Dほぼ固有と言っていい仕様なので、D&DじゃないのにACが出てきたならD&Dと直接関係があるか、強い影響を受けたかを疑っていい。

君のACは、君のキャラクターが戦闘において負傷を避ける能力を表している。ACを向上させる要素としては、君が着用している鎧、持っている盾、そして君の【敏捷力】修正値などがある。

『Player’s Handbook』日本語版 第1部 キャラクター作成手順「AC(アーマー・クラス)」より

鎧による防御も、敏捷力による回避もHPへのダメージを回避するという意味で同じだ。
詳細は省くが、D&DからACの仕様を引用した(「いしのなかにいる」でおなじみ)『ウィザードリィ』の「裸忍者」も、概ねこの原理である。

(メモ:ウィザードリィでは「ACは低ければ低い方が強い」が、これは第2版までの仕様が元になっている。何せ元は1980年の作品、元のD&Dの初出は1974年である。第3版からは計算の単純化のため、高い方が強い仕様に変更された。)

クラス(別名:ジョブ、職業) ★★★★

今やRPGの鉄板となった「職業」の要素も、始祖であるD&Dの頃から存在している。しかし、D&Dにおいてはそれ以上のキャラクターを定義づける要素として設定されている。

クラスは単なる職業ではない。それはいわばキャラクターを呼び招いた天命である。クラスは君が世界をどう考え、世界と、さらには多元宇宙の多くの種族や勢力と、どのように関わってゆくかを方向づける。

D&D第5版『Player’s Handbook』日本語版 第2部 戦闘「ヒット・ポイント(hp)」より

TRPGのキャラクターシートは、あくまでゲームのシステムという不完全な言語でキャラクターを表しただけの物。D&Dの関連書籍ではTRPGが元だからといってなろう系のようにキャラクターに明確にクラスが設定されるという事はまず無い。

ミミック ★★★

もちろん、宝箱が有名なのは変わらないが、D&Dでは宝箱に限られる訳ではない。「真似る」という意味の言葉を名に持つのは、それが様々な無生物に擬態するからだ。

D&D第5版サプリメント『Tasha's Cauldron of Everything』より、ミミックのコロニーのイメージ

扉、本棚、机など、ミミックが擬態できる物に限りはない。一度でもミミックに酷い目に遭えば、一生分のトラウマを植え付けられることだろう。

属性(アライメント、秩序↔混沌、善↔悪)★

「秩序・善」とか「中立・悪」とかいう奴である。
この項は主にFateや女神転生を知っていればならピンとくるだろう。女神転生の場合、善悪はLightとDarkとなるが、基本は同じである。
Fateの場合、キャラクターの属性は他人から見た場合を基準としているが、D&Dは分類される個人自身を基準にしているので、善意でやっていても周りから悪意に見えるケースで分類が割れる。

D&Dの世界観として、「天界」「地獄」などと言える世界が、この属性に対応する形で存在していて、そういった世界に住む天使、ペガサスなどにあたる「セレスチャル / celestial」は善、悪魔類に多い「フィーンド / fiend」は悪の性質をそれぞれ体現する。

ゴブリン ★★★

MtG 『フォーゴトン・レルム探訪』より《群がるゴブリン / Swarming Goblins》、Andrew Marによる

最近では全身甲冑のお兄さんが血眼になってあの手この手で殺すイメージが強くなったゴブリンだが、この小さくすばしっこい人型生物のイメージを作り上げたのもD&Dである。

しかし、D&Dの「ゴブリン類 / goblinoid」はおなじみのもの以外にも他のタイプが存在する。まとめて紹介しよう。

左:ホブゴブリン 右:バグベア 共にD&D第5版『モンスターマニュアル』より

ホブゴブリンはゴブリン類の中でも知能に優れている。部族の意識が強く、階級や規律を重んじる。
バグベアは腕っぷしに強いゴブリン類だ。殺戮を好み、不意打ちに優れる。

コボルド(表記ゆれ:コボルト)★★

「ゴブリン」や「エルフ」など、D&Dにはヨーロッパの言語で「妖精」「悪霊」系の意味の言葉から名前がつけられた種族がいくつか存在する。コボルドもその一つだ。

小型のファンタジー系人型知的生物として、D&Dではゴブリンよりも狡猾で、罠の扱いや人を騙す術に長けるとされる。

当初は犬のような頭を持った生物として描かれていた(オーク同様、これが日本での犬頭の扱いの由来だ)が、第3版からは一変。ドラゴンの頭を持ち、ドラゴンに仕えることもある種族として設定され、ハイエナのような人型生物「ノール / gnoll」やワーウルフなどとの差別化がなされた。

MtG 『フォーゴトン・レルム探訪』より《強き者の下僕 / Minion of the Mighty》、Oriana Menendezによる

オーク ★★

D&Dには、『指輪物語』などのJ.R.R.トールキンの作品群などから引用された種族も数多い。オークもそのひとつである。

日本の作品でたまに豚頭のオークが登場するが、これはD&D最初期にイラストレーターに「豚のような頭」と発注したのを「豚の頭」と勘違いされた事に由来する。以降、D&Dではトールキン風の人型のものに戻っている。

ダークエルフ ★★

正直自分としては褐色娘最高みたいなノリでイラストに描かれるのは見た事はあるが、実際に出てくる作品と言われると全然イメージがない。

これ自体はD&Dが発祥ではなく、北欧やゲルマン民族などの伝承、そしてそれを独自解釈したJ.R.R.トールキンの作品群に元をたどることができるが、やはりこれもD&Dによって有名になった向きが強く、強い存在感を放っている。

D&Dにおけるダークエルフといえば、やはりドリッズトの存在は欠かせない。
D&Dの多元宇宙における世界のひとつ「フォーゴトン・レルム」(ガンダムで言えば「宇宙世紀」にあたる規模の存在感を誇ると言っていい)の関連書籍において描かれた、邪神ロルスを信仰する地底の民、そしてそれに反目する英雄ドリッズトの物語は、悪の種族に生まれた英雄という設定もあってか、海外で人気を博している。

MtG 『フォーゴトン・レルム探訪』より《ドリッズト・ドゥアーデン / Drizzt Do’Urden》、Tyler Jacobsonによる

トリエント(表記ゆれ?:トレント)★★

よくある動く木の怪物、あれをトリエントと呼ぶようになったのもおそらくD&Dだ。

少々詳しければ元々J.R.R.トールキンの『指輪物語』の「エント/ent」だったけど訴訟対策でどうこうという話は聞いた事があるかもしれない。それをやり始めたのはD&Dだろう。Treantをトリエントと読むにせよ、トレントと読むにせよ、どちらにせよだいたいD&Dだ。

ビホルダー ★

BASTARDの鈴木土下座ェ門の件とか、訴訟絡みの話は気分が悪いので(知らなかったら自分で調べてほしい)、実際のビホルダーの話をしたい。

MtG『フォーゴトン・レルム探訪』よりパッケージイラスト、Jason Rainvilleによる

先述のそういった案件がある程にはD&Dの中では最もオリジナル成分が強く、今やドラゴンに並ぶ看板と言ってもいい存在となっている。

中央の大きな目玉に10の眼柄(がんぺい) ― 先に目のついた触手のような物体を生やした異形の存在、それがビホルダーだ。
中央の目は不可視の対魔法領域を作り出し、眼柄からは石化や分解など10種類のレーザーを発射する。

『Dungeons & Dragons: Dark Alliance』プロモーション画像より

外見上の個体差はとても大きく、11の目玉さえ揃っていればキチン質の甲殻や滑らかな皮など、多様な個体が存在する。
と、いろいろと面白い要素は多いのだが、説明が長くなってしまうので割愛させてもらう。各自調べて頂きたい。

アウルベア(表記ゆれ:オウルベア)★

もしかしたら異世界転生とかぷよぷよとかで少し目にしたことがあるかもしれない。

MtG 『フォーゴトン・レルム探訪』より《アウルベア / Owlbear》、Ilse Gortによる

まあ、ただのフクロウ頭の熊なので、少々D&Dオリジナルと言うには普通すぎるが、西洋風ファンタジーに出てくるならD&Dの影響と考えていいだろう。
ちなみに初期の作者たちが香港のプラスチックの人形を見て考え付いたらしい。

ティアマト(ドラゴン) ★★

今日本人に「ティアマトといえば?」と言われればだいたいFGOかグラブルかその他諸々のドラゴンかたまにFFといった程度だろう。とりあえずFGOのは元のシュメール文明だかの神話に忠実でこの記事とは関係ない。
問題はドラゴンとしてのティアマトで、この件はほぼD&D→FF→その他日本の作品という流れと考えられる。
それで、シュメール文明から名前を借りパクしたD&Dのティアマト様は何者?という話なのだが―

MtG 『フォーゴトン・レルム探訪』より《ティアマト / Tiamat》、Chris Rahnによる

数多のD&D世界(D&Dにはいろんな世界がある)に蔓延る5色の悪龍族「クロマティック・ドラゴン」の祖にして、5つの首を持つ邪神、それがD&Dのティアマトだ。風を司る訳ではない。九つの層をなす地獄の第1層に封印されたティアマトは、物質界のカルトを利用し、常々復活を企んでいる。

『遊☆戯☆王 オフィシャルカードゲーム』より 《F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)》

ここで「知らないキャラなのに見覚えがある」と思ったあなたは決闘者(デュエリスト)だ。何を隠そう、遊戯王の《F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)》の元ネタに他ならない。
なお、遊戯王カードWikiにもバッチリ書いてある。

5種類の色に別れた首を持つドラゴンというデザインと、このモンスターが初登場した下記の「デュエルクエスト編」がRPGを意識している事を踏まえると、モチーフとなったのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』内に登場するボスキャラクターの「ティアマト」だと思われる。
色の名前を持つ邪悪な「クロマティック・ドラゴン」の女王であり、5色の首を持つドラゴンとして描かれている。

遊戯王カードWiki 《F・G・D》より

バハムート(ドラゴン) ★★

FFのメガフレアするドラゴンのイメージが強いが、そこで「ユダヤ教の陸の怪物『ベヒーモス』のアラビア語読み」と訂正しようとしたあなたも正しい。しかし、その間に何があったのかと言われれば、答えられる確率は低い。

『D&D Beast and Behemoths: A Young Adventurer's Guide』より、Joshua Raphaelによる

ティアマトと対を成す善龍族「メタリック・ドラゴン」の祖にして、白金の鱗を持つ。メガフレアなどとは程遠い。

慈悲ある正義、赦しある処罰を司る神でもあり、時折人や亜人種の姿に化け、従者のドラゴン達が化けた金のカナリアを連れた姿で地上に降り、人々の間に紛れることがあるという。

自己再生するトロル(表記ゆれ:トロール)★(洋物は★★)

「トロル」ないし「トロール」と聞いて『三匹のヤギのがらがらどん』の絵本か何かを思い出したあなたは間違ってはいない。これ自体は欧米の言語で極めて一般的な単語だ。
その名を持つ生物が自己再生するというのはだいたいD&Dに元をたどることができる。正確にはD&Dではなく、『Three Hearts and Three Lions』なる小説が元なのだそうだが、ほぼD&Dと言っていい。

終わりに

まず最低でもD&DがどれだけRPG全般に影響を与え、現在のゲームの数々の礎となったのかを理解していただければ幸いである。

今回紹介しきれなかった要素は多数ある。特にFF。「マリリス」「マインドフレア」「クアール」「フレイムタン」などもD&Dだ。(細かく言えばクアールはさらに元ネタがあるが無論割愛させてもらう)

そしてTRPGとして気になったならベーシックルールをプレイするもよし、

数少ない在庫を探して書店を探し回るもよし。
もちろん、英語に自信があるなら膨大なサプリメントの数々を探し回ってもいいだろう。

また、図書館や古書店を漁れば『フォーゴトン・レルム』、『ドラゴンランス』など、D&Dの世界観の数々を舞台とした本が見つかるかもしれない。

最後に、D&Dは決して「古いゲーム」ではない。バリバリの現役である。海外では今なお根強い人気を誇り、第5版の登場を機にその人気はさらに高まり続けている。
この粗末な記事をきっかけに日本人もまたその渦へ飛び込むことができれば、嬉しいこの上ない。

(2022/02/09追記)そんな海外のD&Dの「今」の一端が、日本にもやってきた。↓の記事でAmazon Primeビデオの「ヴォクス・マキナの伝説」を解説している。記事と合わせてご覧いただきたい。
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09R6TRJZJ/

この記事が参加している募集

#とは

57,978件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?