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「合否の理由」を明確に語れますか?~コンピテンシー面接・行動質問のススメVol.4(1/3)

1.役員を採用ミスして組織が崩壊

「〈コンピテンシー面接〉を、役員採用にも導入していれば、私が以前働いていた会社もあんなことにならなかったと思います」

ある外資系IT企業の元役員の方(Aさんとよぶことにします)が、しみじみと私にこうおっしゃいました。

この会社はべンチャーから急速に成長した、業界ではかなり規模の大きな会社です。私はそのクライアントに対し、次世代リーダーの発掘と育成のためのアクセラレーションプログラムを、若手リーダ1クラス対象に実施するコンサルティングを担当していました。

ただ、「〈コンピテンシー面接〉をとり入れた採用」は、そのときの課題ではありませんでした。 Aさんから次のような相談をもちかけられたのが、「人物評価を間違えないための面接法」をご紹介したきっかけとなったのです。


同社は、 2年近く人事担当役員が空席になっていることや、採用かうまくいっていないこと、そしてアメリカ本社からの要請などが相まって、 できるだけ早く人事担当役員のポストに人を採用することになりました。

そうした状況の中で、当時次世代リーダー発掘の推進役だったAさんから、人材選びの適切な方法について相談を受けたわけです。そのとき私は、「御社は急成長していて採用を活発に行っていますが、 こと人事担当役員の採用ということであれば、 その人物評価と選考にはコンピテンシーを用いる方法を導入し、採用全体をシステムとして行ってはいかがですか」と提案しました。その意味内容が、 いわゆる「コンピテンシー面接」だったのです。

この仕組みの基本にある考え方や手法は、次世代リーダーの発掘、 つまりリーダーとしての将来性が見こまれる人材を選別するというアセスメントセンター (評価)法と通底しています。Aさんは、 私の提言に高い関心を示してくださいました (「コンピテンシー面接」については、後段で詳しく説明します)。

Aさんはさっそく当時の社長に進言しましたが、親会社からの指示で採用を急ぐ社長は、コンピテンシ1面接の導入を待たずに、 人事担当役員を採用してしまいました。当時の役員さんたちにいわせれば、 「とんでもない人」が人事担当役員として、その企業に入社してきたわけです。 この人をBさんとよぶことにしましょう。

Bさんが採用された結果、 どのようなことが起こったか。急成長している企業でしたので、採用だけでなく、 人事にまつわるさまざまな課題が山積していたのですが、Bさんが新たに採用した人たちは仕事ができず、 また人事面の課題はすべてあと送りになるなど、組織内の雰囲気は悪くなる一方でした。

その結果、優秀な人たちの退社が続くなど、組織と人の問題が一気に噴出し、さらには役員会までが機能不全に陥って、役員が分裂してしまったのです。こうして、Aさんをはじめ創設からかかわった優秀な役員の方たち数人が、会社を飛び出してしまいました。

現在その会社は、親会社から派遣されたアメリカ人の社長が就任し、その強いコントロール下でビジネスを行っています。

2.採用ミスのメカニズムはどこでも同じ

組織運営のカナメであるべき人事担当役員という重要なポストに、「とんでもない」さんが採用されたことにはいくつかの要因があります。整理すると、次のようになるでしょう。

第一に、人事担当役員の要件として、英語によるコミュニケーションスキルが高く評価されたことが挙げられます。外資系企業ではよくあることですか、何よりも英語によるコミュニケーションを優先してしまったわけです。

第二に、Bさんの前職におけるキャリアや業績をそのまま信用し、 Bさんが実際に前職でどのような仕事ぶり、行動を通じてその業績をあげたのかまで、面接では深く掘り下げて検証しなかったことです。

第三にはエージェント(ヘッドハンティング会社)からの強力な推薦があったこと、そして第四に、急ぎ採用せよとの指示の前で、合否の判断が拙速を避けられなかったことなどが挙げられます。

Vol3では、採用ミスによる。サプライズ社員。の流入が組織の活力を徐々に蝕んでいくことを記しました。採用の対象が会社のトップクラスであれば、採用ミスが組織に与える影響ははるかに甚大であり、かつ速効的に組織にひびいてくるといえるでしよう。組織にどのようなヒトを迎え入れるかということは、極論すれば、組織の栄枯盛衰にかかわるほどの大きな問題なのです。

にもかかわらず、ここで紹介した会社の例に見られるような採用方法が、多くの企業で頻繁に行われているのが現状ではないでしようか。そして採用ミスか発生するメカニズムは、どの会社でも同じなのです。

あらためて総括するまでもなく、先ほどの会社が「とんでもない人事担当役員」を採用してしまった主原因は、応募者の能力や特性を見極める重要な場である面接において、合否を判断・検証するための材料を的確に収集しないまま、社長の思いこみや決めつけ、あるいは自己流の判断や自分の都合などによって、最終選考がなされてしまったことにあります。

ことに、英語がネイティブ並みに流暢であることが、社長にとっては都合がよかったのでしょう。しかし、そのことと、人事担当役員としての能力や適性があることとはまったく別の内容であり、後者をこそ時間をかけて面接で確認すべきであったことはいうまでもありません。

3.「コンビテンシー面接」とは何か

こうした採用ミスを防ぐ方法として、Vol2~Vol3で「応募者の行動事実に基づく情報を判断材料として取得し、その情報をもとに評価・選考を行ってください」ということを、繰り返し述べてきました。 コンピテンシー面接の核心は、応募者の現在までの行動を明確に把握することにあるからです。

つまり、

①面接では応募者か実際にとった現在までの行動を聞きたし、
②その行動が入社後にも再現される反復性のあるものかどうかを確認して、
③実際の仕事においてとのような言動(仕事ぶり)をとるのか予測し、
④組織や仕事か求める能力要件(行動様式で表現された能力)のレヘルに達しているかどうか、
――――期待する成果に結ひっく行動かとうか
――――あるいは企業理念やカルチャーとマッチする行動かどうか、などを判断する。

と要約できます。

こうした面接のあり方を、「コンピテンシー面接」とよんでいるのです。

では、そもそも「コンピテンシー」とは何か。

DDI社・MSCは「ある特定の仕事を成功させるために必要な知識、および行動」と定義づけています。コンピテンシーはほとんど行動にかかわる要素から構成されている、といっても過言ではありません。要約すると、「コンピテンシー=成果につながる行動」と考えてもらえればわかりやすいでしょう。

採用面接で評価する対象は、まさにこのコンピテンシー(行動の発揮度やその程度)にほかなりません。

採用面接でよくつかわれる「能力がある(高い)」とか「ポテンシャル(潜在能力)がある」という言葉の意味内容は、 コンピテンシーの考え方では「実際にとった行動」という言葉に集約されます。というのも、「能力」はその人がとった「行動」という具体的事実の中に反映される(目で見ることができる)からです。逆に、行動として発揮されなければ、能力を十分に備えているとはいえません。

●コンビテンシー=職務を成功させるための行動
①情報収集の手引きとなる
②応募者の強点と弱点の分析に役立つ
③公正で正確な合否判定ができる

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンタ- 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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