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第1章<コミットする>人材開発の加速化戦略


1.誰の成長を加速させるべきか?

誰もがリーダーになれるわけでも、なりたがるわけでもない。即戦力になるリーダーを多く作り出すには、加速化を集中的に行う個人やグループを特定しなければならない。誰の能力開発をいつ加速させるか、難しい選択が求められる。能力開発を選抜的に行い一部の人を除外すると組織文化に傷がつくと考え、出発点で苦心する組織もあるが、そういった考え方ではうまくいかない。人材開発の加速化は組織文化への投資ではなくビジネスへの投資だからである。

もちろん人材開発の加速化は組織文化を大きく活性化させるが、それが一番の目的ではない。先にも述べたように、即戦力になるリーダーを増やすことは、不適切な、あるいは不十分なリーダーシップの下で弱体化している組織にとって、最も緊急度が高い。もしも新しいシステムが組織文化を壊すかもしれないという心配があるのなら、組織のメンバーを納得させられる明確な論拠と、強力なコミュニケーションプランを用意し、対応すればよいのだ。本章ではそのような論拠の作り方を、第3章では開発を加速化する人材の選び方を説明する。その一方で、人材開発の加速化がビジネスに必要不可欠であるというコンセンサスを得た上で、次のようないくつかの加速化のニーズに着手することができる。

CEOと最高経営幹部への開発の加速化:
CEOや最高経営幹部の後任者計画を持つことは、何より重要である。ある程度の人数の従業員がいる組織のほとんどで、少なくとも経営トップは後継者問題について考えている。強力な後継者計画を作る最善の方法は、ポジションが空く遥か以前に有望な後任者を準備するためのアクセラレーション・プールを確立することだ。重要な役職に就くことのできる数人の経営層の開発を加速化しておくことは、組織の安定と成功にとって欠かせない。

経営幹部への開発の加速化:
人材開発の加速化において最もよく起こる問題が、経営幹部階層の業務を引き継げるリーダーの不足である。経営層の責任と求められるスキルが劇的に高まっているため、この階層への移行はあらゆるリーダーのキャリアの中で最も重要かつ難しいものとなっている。そして、この業務を引き継ぐ人材のプールにいるのは、たいてい数段低い階層に求められる能力や経験しか持っていない人材であるため、うまくいかないことが多いのだ。よってここにも効果的な加速化が必要とされている。

上級管理職への開発の加速化:一部の組織では上級管理職の役職を担うリーダーのプールも作っている。業務執行に多くのエネルギーが取られるこの階層には、多くの組織で強化に手こずっている。プールの人数が多いので、経営層のプールとは異なる手法が求められる。グループ単位での学習と成長オプションによって、上級管理職に必要なスキルを授けることが多い。

グローバル/地域/ビジネスユニットへの開発の加速化:
多国籍、多業種、多部門の組織はそれぞれのビジネスユニットのニーズに合わせたプールを作っていることが多い。それらのプールが個々に管理されている場合もあれば、レビューセッションを組んで境界を越えて人材を管理し、組織全体に関する意識と能力を持つリーダーを共有して育成していく場合もある。

重要な役割への加速化の取り組み:
加速化の取り組みは従来のリーダーのポジションに限るものではない。組織の競争力を高める独自の創造性・洞察力が必要とされるポジションにもリーダーシップは欠かせない。そしてそういったポジションには特別なプロジェクトリーダーや、新しいコンセプト、製品、手法などを取り入れる革新者が必要だ。さらにそこには典型的なリーダーシップが求められる場合もあるし、従来とは異なるリーダーシップ(例えば、ソートリーダーシップ(Thought Leadership))やラテラルリーダーシップ(複数の組織を横方向に束ねるリーダーシップ)が求められる場合もある。人材開発の加速化はこういったポジションも対象にして、プールを作ったり、その業務の性質やグループの大きさに合わせた取り組みをするべきだろう。例えば、ある世界的な社会福祉機関は、カントリーマネージャーのポジションにアクセラレーション・プールを作った。また、あるテクノロジー企業は、3人のハイポテンシャル人材をプロダクトデザイン担当役員のポジションにつけるための能力開発システムを作った。このポジションは、従来のリーダーシップとは違う、創造性の高い業務である。

2.何人の成長を加速させられるか

アクセラレーション・プールやリーダーグループの規模は、そのメンバーの開発に使えるリソースの規模に比例するべきだが、だからといって人材開発の加速化が一部の選ばれた人のためだけのものというわけではない。以前、ある専門サービス企業の人事担当リーダーが、前例のないことを成し遂げたと興奮した様子でわれわれのもとに電話をかけてきたことがある。経営幹部が集まって鍵となる人材のレビューを行い、誰がハイポテンシャル・リーダーであるかについて合意したというのだ。7人の経営幹部と2人の人事担当リーダーが、特別な開発プログラムを受ける250人を特定し、全員に通知を送った。確かにそれは大きな前進ではあった。しかし、経営陣はその先の計画を立てず、その開発プログラムに関わることすらしなかったという。

7人の経営幹部は250人のリーダー全員に即戦力をつけることはできないし、企業もそれを必要とはしていなかった。その後の3年から5年のうちに、25ほどのポジションに就く幹部が必要だった。役割を担う準備ができていると思われたのはほんの数人だったので、あと20ほどの空席を埋める必要があった。そこで、250人をハイポテンシャル人材(およそ40人)とそれ以外とに分けた。他の経営陣も7人に協力して40人の開発の加速を支援し、残りの210人のリーダーにはグループ単位での学習プログラムに参加してもらった。250人全員に能力開発計画が与えられたが、ハイポテンシャル人材として特定された40人には他と比べてはるかに直接的な重点開発が行われた。彼らの開発にはより高い目標を設定し、主要な役職に必要な能力を身につけることを目指した。やがて彼らが昇進してプールから出ていくと、残りの210人から次々と開発プロセスに補充されていった。

開発を加速させる人数については、特に決まった数字や公式があるわけではない。組織におけるリーダーシップのギャップの規模と、それを埋めるために投資しようとしているリソースの規模によって決まる(本章で、ギャップの数量化について述べる)。しかし、リーダーに即戦力をつけるために重要なのは、ただ能力開発計画を確保することだけではない。鍵となるのは、リソースと加速化のニーズの両方を分析して、埋めたいギャップに基づいてプールの規模と階層数を決めることだ。

3.人材開発の加速化:誰が何に対して責任を持つか

われわれはよく、「自分の能力開発に責任を持たなければならない」とか「つまるところ、成長は個人にかかっているのだ」といった言葉を耳にする。能力開発されている本人がその気にならなければ、たいした成果があがらないのは確かだ。しかし、成長をすべて本人に任せていたら、加速化は実現できない。われわれの定義を繰り返すが、人材開発の加速化は、成長を速く実現させるための組織的な取り組みである。コンセプトは簡単だが、人材開発の加速化には、然るべきときに、然るべきリーダーが、然るべき成長をできるようにするための協調的な取り組みが欠かせない。つまり、責任が共有されるのだ。最高経営幹部、人事部門、リーダー本人、そして図1.1に挙げられる主要な人材のすべてが、共に人材開発の加速化に関わらなければならない。

CEO/社長/ビジネスリーダー:
最大の推進者であり、人材開発の加速化を推奨する。

経営幹部:
人材開発の加速化に責任を負い、そのプロセスのさまざまな要素の実施に直接的な役割を果たすビジネスリーダー(CEOか各事業のトップの直属の部下であることが多い)。

人事部門:
人材開発の加速化システムを設計、促進し、プログラムの進展と大きな成果を保証する戦略やツール、役割、プロセスを提供する。

学習者:
人材開発の加速は、ハイポテンシャル・リーダーだけに焦点を当てているわけではない。確かにハイポテンシャル・リーダーは、開発が加速化されている学習者の最たる例ではあるが、彼らだけに限られているというわけでは決してない。加速化は、組織の全員に適用できるし、適用すべきものだ。ただし、適用の仕方はさまざまであり、組織の投資戦略(第3章IDENTIFY ~特定する~を参照)によって決まる。

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CEOの役割:
人材開発を加速化させるための地盤をしっかり作るために、CEOは重要な触媒の役割を果たし、人材の育成を経営の最重要課題として、最高経営幹部の全面的なコミットメントと整合性、アカウンタビリティを確保しなければならない。CEOはその声や姿が誰よりもよく皆に届く。言うなれば最も影響力のある推進者として、人事部門のリーダーを支援し、協力しなければならない。またCEOの役割は、人材管理の取り組みへの投資を推奨し、支援するだけではない。人材の管理者として、最高経営幹部やその他主要なリーダーを強化するために行動を起こす必要もあるのだ。つまり、ハイポテンシャル・リーダーの特定、アセスメント結果のレビュー、業績と能力開発の進捗状況の評価、経営幹部のための能力開発などに、積極的な役割を果たさなければならないのである。

最高経営幹部の役割:
最高経営幹部はビジネス全体の責任を負うが、その中には、リーダーの能力開発を加速化するためのリソースの配分も含まれる。では具体的に最高経営幹部の仕事とは何か。組織の人材戦略の見直し支援、戦略の承認、タレントレビュー・プロセスへの参加、重要なポジションとハイポテンシャル・リーダーの特定、主要なリーダーの能力開発の方法決定、メンター、コーチの役割、自身の能力開発計画を実施して人材開発のモデルとなること――などが挙げられる。CEO同様、最高経営幹部は人材開発の加速化を推奨、支援するという役割と、組織の最も重要なハイポテンシャル・リーダーの成長と能力開発に深くかかわる人材管理の責任者としての役割を果たさなければならない。

人事部門の役割:
迅速な人材の成長の貰任を担う人事部門にとって大事なのは、好かれることよりも人を刺激することである。人材の成長とビジネスの成功の関係性は、必ずしも自明の理というわけではない。よってその関係性を作り、維持するのが人事部門リーダーの仕事である。人事部門リーダーの仕事はまず、リーダーシップの能力を高めるための説得力のある論拠を生みだすことだ。そして、人材の優先順位をはっきり示す人材戦略を作って、ビジネスのニーズに対応しやすくする。さらに戦略が整ったあとは、プロセスを設計し、ツールやテクノロジーを用意する。そして、プロセスの主要な活動をしやすくし、関係者全員に理解させて、それぞれの役割を果たす態勢を整えさせる。人事部門の責任者にとって、本書は上記を達成するためのガイドブックとなるだろう。

学習者の役割:
CEO、最高経営幹部、人事部門の取り組みはすべて、リーダー個人が活発な学習をし、次のリーダーシップの課題に向かう準備を整えられるようにすることを目的としている。そう考えると、リーダー個人の役割はシンプルで、学ぶことだけだ。だが、学ぶよう求められるのと、より速く学ぶよう求められるのとではまるで違う。より速く学ぶとは、セミナーに参加したり、リーダーシップ・トレーニングコースに通ったりすることだけではなく、新たなスキルを身につけるために不慣れな業務を引き受けることでもある。そのような業務に喜びを感じる人もいれば、恐れを感じる人もいるだろう。どちらであろうと、リーダーは新たな課題に取り組み、同時にフィードバックを求め、これまでのアプローチの中で不適切であった点を指摘される覚悟をすべきだ。そしてコーチやメンター、学習機会などによって身についた洞察力を利用しつつ、より複雑で難しいシナリオにも対応できるように、新たなアプローチを常に考え出していかなければならない。そのためには、学習プロセスを受け入れるだけでなく、新たなアプローチに挑んでいく冒険心も求められる。そして、より速く学ぶには訓練も必要だし、確固たる目標を設定するには、厳しさと勇気もいる。さらにその目標を達成するには忍耐と少なからぬ支援も必要だろう。このようにリーダー個人の役割は、言うは易し、行うは難しである。

4.人材開発の加速化の信条(Credo)

リーダーの成長に関する最も重要で基本的な信念なのに、経営陣が共有していないものも見られる。

人材開発の加速化に関わる際は、目的意識を共有し、予想される結果を理解しておくことが大切だ。そうすることで、コミュニケーションが明確になり、混乱や意見の相違なく進めることができるだろう。

下記は「人材開発の加速化の信条(Credo)」に、最高経営幹部が共有すべき最も基本的な前提をまとめてある。では、なぜ信条が必要なのか?それは、リーダーの成長に関する最も重要で基本的な信念なのに、経営陣が共有していないものもあり、そういった考え方の違いがシステムの失敗につながる場合があるためだ。基本を洗い出して確認することがいっそう重要になる。人材開発の加速化の信条は、経営陣に、人材開発の加速化は可能であり、重要であり、有益であり、彼らの責任であることを改めて認識させることができるだろう。こうして出発点がひとつにまとまることで、明確なコミュニケーションが可能となり、公平感が保証され、進歩が継統し、最終的には学習と成長という健全な文化が育まれるのだ。

われわれ最高経営幹部は、人材開発の加速化について以下のように考えている。

・ビジネス上不可欠なこと。組織の内部でリーダーシップ能力を開発することはビジネス上不可欠である。そしてわれわれには、その成長を速く実現させるアカウンタビリティがある。

・可能なこと。能力開発の加速化に投資することで、組織のリーダーシップ準備度を改善できる。

・権利と義務の両方について。組織内の誰もが、プロとして成長する権利と義務を持つ。

・人材開発は民主主義ではない。リソースには限りがあるうえニーズに緊急性を有するので、誰もが同じ速度と同じ方法で能力開発を受けることはできないし、するべきではない。現在の職場で受ける者もいれば、主要なリーダーシップのニーズに応えるために特別な開発プログラムを受ける者もいる。

・ベストな人が誰であるかを知る。誰がベストかが分かっただけでは不十分である。主要な人材を組織内に定着させるだけでも十分ではない。われわれはリーダーの新たな能力を育て、まだ経験したことのない業務で成功できるようにさせなければならない。

5.おすすめ人材アセスメントソリューション

①コンサルティングソリューション

②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム

③オンライントレーニング&ディベロップメント

6.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。

DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。

DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

7.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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