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偏見と固定観念を排除した合否判定~システマティックな意思決定法Vol.7(1/3)

1.学生の将来の可能性について

学生の採用において、多くの企業が見極めたい要件の一つに、成長の伸びしろ(いわゆる、ポテンシャル)があります。

Vol2.でも触れましたが従来の面接では、「ポテンシャル」の評価は面接官の印象によるところが多く、採用後に結局、期待していた潜在能力はまったく行動として発揮されなかったという例は少なくありません。

コンピテンシー面接では、現在までの行動を判断することはできます。しかし実務経験のない学生は、入社後にどれだけの能力を行動として発揮できるかは未知数です。

DDI社の手法では、「成長の伸びしろ」については、「継続的学習能力」というコンピテンシーを重視して評価しています。「継続的学習能力」とは、簡単に定義すれば「学習すべき新分野を積極的に見いだし、常日ごろから学習機会をつくりだして、学んだことを活用し、さらにそこから学ぶ力」といえます。

企業が基礎的なコンピテンシーの要素として求める「継続的学習能力」とは、いわゆる「好奇心の強さ」のことです。どんな仕事に就いても、自分から積極的に取り組んで学んでいく態度。基礎的なことを教えれば、その後、周辺の知識やスキルなどは自ら学びとってくれる姿勢のことです。

「好奇心の強さ」があれば、「成長の伸びしろ」が大きいと期待できるといってもいいでしょう。まず、一から十まで手取り足取り教える必要がないので、上司や先輩にすれば新人教育のために自分の生産性を落とさずにすみます。また、こういう人は仕事を覚えるのも早いため、早期戦力化への期待にも応えてくれます。したがって、企業がこの種のコンピテンシーを求めるのは当然といえるでしょう。

もちろん、こうした能力は学業成績だけではまずわかりません。「学習」といっても、単に書物から知識を学ぶだけでなく、たとえば自身の実体験や人の話を体系化し、そこから自らの成長の肥やしとなる材料を見つけだすことや、その材料を実際に試し実行することで身につけていく力なども、「学習能力」だからです。

ですから、採用において成績表の「A」や「優」の多寡を数えるのではなく、この能力要件(好奇心の強さ)を示す学生時代の行動情報を聞きだすべきなのはいうまでもないでしょう。

継続的学習能力を仕事の場でも持続・発揮できる人は、たとえば、就職活動の場面においても、自分が行きたい業界について、さまざまな手段をつかってその情報を求め、活用しているものです。また会社訪問や説明会で得た情報から、さらに研究すべきテーマを見つけて、新たな情報を収集し、次の企業訪問や面接に役立てているはずです。

こういったたぐいの行動事実も含め、学生時代に「学習する」ということに対して、どれだけ貪欲に取り組み、実際にそういった行動を繰り返しとっていたかで、入社後の成長の可能性は予測することができるのです。

面接時に「御社に入ったら勉強します」「学ぶことがとても好きです」と自己申告する学生はたくさんいますが、学生時代の行動にその片鱗すら見えなければ、やはり「継続的学習能力」は低いと見なしたほうがいいでしょう。

ところで、なぜ合否判定の説明の前に「継続的学習能力」をとりあげて説明を加えたかというと、このコンピテンシーは他の評価結果やコンピテンシーとの関係で考察・評価するのが効果的であり、特に学生の採用においては重要な要素といえるからです。

たとえば、Aさんの評価が「失敗を恐れずに行動できるチャレンジングな人」であったとしましょう。これ自体は高い評価といえます。しかし、「継続的学習能力」にフォーカスして質問をしたとき、その行動事実の評価では、Aさんは「継続的学習能力」があまり高くないことが判明しました。この二つの評価結果を組み合わせると、Aさんを採用することは、かなりリスキーであることがわかります。

というのも、Aさんがもし営業職なら、周辺情報(知識)や他に必要な情報はないかを自発的にリサーチせず(つまり教えられた商品知識やマーケット情報のみで)、遮二無二(しゃにむに)クライアントやマーケットにアタックしていくおそれが予想されるからです。また失敗しても、そこから学ぶことが少なく、同じような失敗を繰り返すといった行動特性も見えてきます。

採用、とりわけ学生の採用において、ポテンシャルを重視し、その要件を正確に見極めるために、「コンピテンシーを組み合わせて考える」という方法があることも理解しておいてください。

このことについては、もう少し詳しくお話ししたほうがいいでしょう。

2.コンピテンシーの「訓練可能性」について

訓練やOJTなどの能力開発活動によって、どれだけその能力を向上できるかは、そのコンピテンシーによってかなり異なります。たとえば、「計画力」や「プレゼンテーションカ(話し方)」などは、仕事の機会や訓練プログラムによってその能力を向上させることが可能です。

しかし、「継続的学習能力」や「達成意欲」などは、訓練による向上が難しいコンピテンシーといえます。「採用してから育てよう」という考え方は重要ではありますが、どんなに訓練しても伸ばすことが難しい能力もあるということを念頭に置くべきでしょう。

たとえば、「執着性」も「訓練可能性」(能力開発の可能性)が低いといわれる能力の一つといわれています

「執着性」のある人は仕事を途中で放棄せず、コツコツと粘り強く最後までやり通すという美点をもっていますが、もし、この人の行動特性として「継続的学習能力」が低い場合、ともに訓練可能性が低いコンピテンシーですので、自分の考え方ややり方に固執するあまり、新しい方法やアプローチを受け容れるのにはかなりの時間を要し、自分が納得しない内容の教育や指導は受け容れようとしない傾向が強いと予測できるのです。

中途採用のケースで考えてみましょう。プランニング能力の高い人を採用するため、その候補者Bさんを面接したとします。Bさんは現在在職中の会社でもプランニング関係の仕事に就いており、話を聞くといくつもの成功体験をもっていることがわかりました。

旧来型の面接では「優秀なプランナーに違いない」と判断して採用を決めるでしょう。

これに対し「コンピテンシー面接では、成功体験がいくつもあるということは、Bさんにはプランニングにおけるパターンがあるのだろう」と発想します。そして、「そのパターンは、当社のプランニングのやり方や職場環境とマッチするだろうか」という設問を立て、それを確認するために行動質問を行います

ことに自社のプランニングの進め方がクライアント特性などによってかなり特殊なものであれば、ぜひこれは確認しなければなりません。行動は繰り返されます。成功パターンも行動様式の一つですから、Bさんは今いる会社でのプランニングのやり方をきっと路襲するでしょう。

ということを念頭に、Bさんのパターンを行動事実の中で確認すると、果たして自社のそれとはかなり違うことがわかると同時に、Bさんのプランニングカの高さも確認できました。であれば、Bさんは採用すべきなのでしょうか、それとも不採用にすべきなのでしょうか。

じつはこれだけでは判断がつきません。そこで「継続的学習能力」や「適応能力」という要素を組み合わせて判断することが必要になってきます。

「継続的学習能力」や「適応能力」が高ければ、Bさんは自社のやり方をうまくとり入れ、それに適応しながら高いプランニング能力を発揮してくれると期待できます。逆に低ければ新しい職場のやり方になじめず、周囲の人たちとも衝突し、その挙げ句「この会社には合わない」との理由で退職するりスクがかなり高いといえるのは、おわかりいただけるでしょう。

3.面接で収集したデータ(行動情報)の分析と統合~面接中に評価しない!!

それでは、採用活動の最終段階である合否判定において、企業が求める人材を見誤ることなく「正確」に優秀な人材を確保するための方策とその進め方を、できるだけ実際面に即して説明したいと思います。

ここで、具体的な面接の場面を想像してください。

応募者の話はあちらこちらに飛びがちです。もちろん面接官はあらかじめ定められたターゲット・コンピテンシーに沿って、それに関する行動情報を収集するための適切な質問をするわけですが、応募者の回答は生き物のように目まぐるしく変転するわけです。引きだしたい情報だけが純粋に聞きだせるということなど、まずありません。

また、面接官のほうでも、話が飛んだ場面で別のコンピテンシーの要素に関する有効な行動情報が聞きだせそうであれば、質問の対象もまたそちらの話に移るでしょう。

さて、面接が終わってみれば、あれについてもこれについても聞きだした数多くの情報が「STAR」(状況や任務・役割、具体的行動事実および結果)の形式で残るわけですが、その情報をどう評価したらいいのかわかりません。そこで、収集した「STAR」をコンピテンシーの各要素に振り分けて整理しなければならないわけです。

コンピテンシー面接は、合否判定をするための重要なデータを収集することが目的です。応募者の話を聞きながら、どんどんとターゲット・コンピテンシーを評価する、気の早い面接官をよく目にしてきましたが、これでは精度の高い評価を阻害しかねません。「正確」で精度の高い合否判定の第1のポイントは、評価は面接が終わってから実施するということです。

「評価表」のサンプル

まず面接官が、コンピテンシー面接の情報を整理しやすいように作成した「評価表」のサンプルをご紹介し(前ページ参照、それに沿って解説をしていくことにしましょう。

ここでいう「評価表」とは、単に評価項目を羅列した一般的な「評価シート」ではなく、コンピテンシー面接で収集した「STAR行動情報」を整理・記入するものです。

次に表として例示した「評価表」は最も一般的な様式で、実際には多くの場合、企業ごとに基準となる行動レベルを設定し、基準がぶれないようカスタマイズしながら開発します。表にあるサンプルは、コンピテンシーの定義、キーアクション(主要行動)、そしてコンピテンシーに関連する応募者の「STAR行動情報」を記録するという、極めてシンプルな内容のものです。

「評点」は、収集した応募者の実際の「STAR行動」と、組織が求める行動との類似性や影響度を考慮して、応募者がキーアクションをどの程度、過去において効果的に発揮していたかを検討して評価します。

この表では、応募者の能力(行動発揮度)の違いをあらわす方法として5点法を用います(これも企業ごとに開発の仕方は違います)。評点「3」は、「求める基準である=仕事を成功させるための基準を満たしている」という基準に設定します。この基準が採用においては最も重要なポイントとなります。ボーダーとなる行動を基準に、「4」「5」は基準を超えている行動レベル、「2」「1」は基準を満たしていない(下まわってぃる)行動レベルとなります。

最終的にはこの「評価表」に記された応募者の行動事実をベースに、選考・合否判判定が行われていくのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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