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情報快楽主義者

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誰もが簡単にマスコミュニケーションをとれるようになった現代。 発信力に差はあれど、個人の声が多くの人に届くようになった。 あなたの言葉は誰かを喜ばせるかもしれない、悲しませるかも…
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第4話 曇った鏡

 今日、2人と話したSNSのことが気になって、帰宅してからずっとスマートフォンを眺めていた。

 SNSでは、俳優に対する非難だけではなく、意見が異なる人同士でも争いまで発展している。

 なぜ、見ず知らずの相手に、こんなに感情をぶつけられるのか。

 痛めつけることに快感を覚えているのか。

 正義感から、傷つけても正当化されると思っているのだろうか。

 殴らなければ、言葉であれば、いくらでも

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第3話 承認

 通知が止まらない。

 両手で握ったスマートフォンが、数分おきに震える。

 同意、理解、呼応、共感、同情、批判、罵倒、憎悪。

 もっと。もっと。

 今、私を中心にたくさんの人が踊っている。

 賛同の声が集う。非難の声は押しつぶされる。

 声は広がり、さらに多くの人に届く。

 波風が絶えない無秩序な世界。

 そこへ投げ込んだ石が、波紋を作り、小さな波をかき消していく。

 手が震え、

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小説「情報快楽主義者」

小説「情報快楽主義者」

第0話「イメージの発信」——人気俳優A、過去に暴力事件を起こしていた!

深夜、コンビニの窓際に並べられた雑誌の中、下世話な見出しが週刊誌の表紙の隅に掲載されているのが目が留まった。

珍しい話題でもない。芸能関係は毎日のように新しいニュースが出てくる。不倫、熱愛、失言……。自分と関係の無い人の出来事や不祥事、過ちによくもまあ興味が持てるものだ。

他人の人生を壊すメディアは腐っている。だが、それ

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第2話 表裏

 先輩は苦手だ。美人というだけで、気後れしてしまう。気さくで、勉強もできる。完璧、という言葉を人に使うのは良いことではないけれど、私の勝手な印象を一言で表すならそれだ。

「手伝ってもらってごめんね」

 ゴム手袋を着けながら先輩が話しかけてきた。飼育室に入るには、白衣とゴム手袋、マスクの着用が必須のため、私も装着する。

「いえ、暇だったので大丈夫です」

 皮肉を含んだつもりだったが「そう?な

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第1話 感情増幅

「最近すごいよね!インスタ!」

 午前の講義が終わり、キャンパスの中庭で話しているときだった。今年度で卒業の私は必要な単位をほとんど取り終わっているので、もうそれほど講義にはでる必要がない。今日も午前中で終わりだ。

 この子も同じ4年生なのに、なぜかまだまだ単位が必要なようで、午後の講義の時間まで暇つぶしに付き合わされている。

「そうだね。気づいたら結構伸びてて」

 手に持っていたスマート

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