桐生新一

趣味で文章を書く編集者 『情報快楽主義者』という情報・メディア・SNSを題材にした小説…

桐生新一

趣味で文章を書く編集者 『情報快楽主義者』という情報・メディア・SNSを題材にした小説をnoteとカクヨムで書いています。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896402728

マガジン

  • 情報快楽主義者

    誰もが簡単にマスコミュニケーションをとれるようになった現代。 発信力に差はあれど、個人の声が多くの人に届くようになった。 あなたの言葉は誰かを喜ばせるかもしれない、悲しませるかもしれない、憎まれるかもしれない。

最近の記事

第5話 箱の中の人

「今はおとなしく家にいてください」  そうマネージャーから告げられて、3日が過ぎた。  分かっていたことだが、プライベートなんてものはない。どこに住んでいるのか、事務所の関係者しか知らないはずなのに、マンションの前にはマスコミが詰めかけているようだった。  最初の連絡がマネージャーから来たとき、部屋からはマンションの出入り口が確認できないことを伝えると、すぐにマンションの近くまで来て確認してくれた。早朝だろうが深夜だろうが、マンションの前に誰かしらいるらしい。  住人

    • WEB小説はどうやったら読まれるようになるのか?

      先日、Twitterで以下のツイートをしました。 私も小説を書いておりますが、精魂込めて書いた作品が読まれないのは悲しいものです。 Twitterのタイムライン上にも「読まれない」「どうしたら伸びるのか」「小説になろうは埋もれる」などの声が毎日のように上がっていました。 確かに、ふと目にとまった作品を読み「なんでこんなに素晴らしいのに全然読まれていないんだ!」と思ったことは多々あります。 そこで、投稿サイトやジャンル、年齢層などの傾向から、どうにか作品を適切に読んでも

      • 第4話 曇った鏡

         今日、2人と話したSNSのことが気になって、帰宅してからずっとスマートフォンを眺めていた。  SNSでは、俳優に対する非難だけではなく、意見が異なる人同士でも争いまで発展している。  なぜ、見ず知らずの相手に、こんなに感情をぶつけられるのか。  痛めつけることに快感を覚えているのか。  正義感から、傷つけても正当化されると思っているのだろうか。  殴らなければ、言葉であれば、いくらでも浴びせかけていいと考えているのか。  ふと、現実に置き換えてみる。  今、S

        • 第3話 承認

           通知が止まらない。  両手で握ったスマートフォンが、数分おきに震える。  同意、理解、呼応、共感、同情、批判、罵倒、憎悪。  もっと。もっと。  今、私を中心にたくさんの人が踊っている。  賛同の声が集う。非難の声は押しつぶされる。  声は広がり、さらに多くの人に届く。  波風が絶えない無秩序な世界。  そこへ投げ込んだ石が、波紋を作り、小さな波をかき消していく。  手が震え、皮膚が粟立つ感覚。  怖い?  そうじゃない。  興奮している。  これ

        第5話 箱の中の人

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        • 情報快楽主義者
          5本

        記事

          第2話 表裏

           先輩は苦手だ。美人というだけで、気後れしてしまう。気さくで、勉強もできる。完璧、という言葉を人に使うのは良いことではないけれど、私の勝手な印象を一言で表すならそれだ。 「手伝ってもらってごめんね」  ゴム手袋を着けながら先輩が話しかけてきた。飼育室に入るには、白衣とゴム手袋、マスクの着用が必須のため、私も装着する。 「いえ、暇だったので大丈夫です」  皮肉を含んだつもりだったが「そう?ならよかった」と、あっけらかんと答えてくる。不思議と嫌味を感じないのだから美人は得

          第2話 表裏

          第1話 感情増幅

          「最近すごいよね!インスタ!」  午前の講義が終わり、キャンパスの中庭で話しているときだった。今年度で卒業の私は必要な単位をほとんど取り終わっているので、もうそれほど講義にはでる必要がない。今日も午前中で終わりだ。  この子も同じ4年生なのに、なぜかまだまだ単位が必要なようで、午後の講義の時間まで暇つぶしに付き合わされている。 「そうだね。気づいたら結構伸びてて」  手に持っていたスマートフォンに目を落とし、アプリを立ち上げる。良く晴れた日の屋外は画面が見にくくて困る

          第1話 感情増幅

          小説「情報快楽主義者」

          第0話「イメージの発信」——人気俳優A、過去に暴力事件を起こしていた! 深夜、コンビニの窓際に並べられた雑誌の中、下世話な見出しが週刊誌の表紙の隅に掲載されているのが目が留まった。 珍しい話題でもない。芸能関係は毎日のように新しいニュースが出てくる。不倫、熱愛、失言……。自分と関係の無い人の出来事や不祥事、過ちによくもまあ興味が持てるものだ。 他人の人生を壊すメディアは腐っている。だが、それに群がる人の方がより腐っていると思う。 だからこそ、良いのだろう。売れるから書

          小説「情報快楽主義者」

          電波傷害

          はじめは小学生の時だった。 私はラジオにはまっていて、部屋でラジオを聞いていた。 たしか「NACK5」だったと思う。 その頃、携帯電話が普及し始めていて、隣の部屋で母が電話しているのが聞こえた。 イヤホンでラジオを聞いていたが、電話の声が大きかったので会話内容も聞き取れた。 おそらく叔母と話しているのだろうと分かった。 ラジオの音がクリアじゃ無かったので、「つまみ」を回して調節していると、ラジオの音よりも母の電話の会話の方がより大きく聞こえてきた。 音量の方を回

          電波傷害