小説「情報快楽主義者」
第0話「イメージの発信」
——人気俳優A、過去に暴力事件を起こしていた!
深夜、コンビニの窓際に並べられた雑誌の中、下世話な見出しが週刊誌の表紙の隅に掲載されているのが目が留まった。
珍しい話題でもない。芸能関係は毎日のように新しいニュースが出てくる。不倫、熱愛、失言……。自分と関係の無い人の出来事や不祥事、過ちによくもまあ興味が持てるものだ。
他人の人生を壊すメディアは腐っている。だが、それに群がる人の方がより腐っていると思う。
だからこそ、良いのだろう。売れるから書く。ではないと週刊誌なんてものは誰も読まなくなる。それに、こういった話題は彼らが喜ぶのだから。
雑誌を手に取り、ページをめくる。
——「ドラマ・映画・広告にと、人気急上昇中の俳優Aが、6年前に暴力事件を起こしていたことが小誌の取材で明らかになった。相手は以前交際していた女性。些細な口論が加熱し、苛立ったAが女性を強く突き飛ばしたという。
女性は転倒し、腕の骨を折るなど全治1カ月のケガを負った。爽やかな風貌と大人な雰囲気で女性ファンを獲得してきたAだが、実は攻撃的で気性の荒い、裏の顔を持っているのかもしれない。この件について、Aが所属する芸能事務所に話しを聞くと『現在事実確認を行っているところです』と明確な回答を避けた。
過去の事件ではあるものの、Aの仕事に影響が出ることは確実だ。彼が築き上げてきた真っ白なイメージに落とされた暴力事件という汚点。目立ちすぎるシミとなって今後彼につきまとうだろう。」
やはり、面白くもない話題だ。
だから良い。
雑誌を閉じ、足早にレジへと向かう。雑誌をカウンターに置き、店員が口を開く前に「Suicaで」と告げる。
コンビニを出ると早速、ポケットからスマートフォンを取り出し、記事ページの写真を撮った。
アプリを開き、文字を打ち込む。
——「女に手をあげるなんて本当最低!絶対この事件以外にも暴行事件とか犯してるよ!謝罪して芸能界からとっとと消えて欲しいわ!ファンを馬鹿にしてる!!」
写真とともに、SNSヘ投稿した。
さあ、彼らの反応が楽しみだ。
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