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医師と患者の絆:災害医療訓練に想う

高齢者に新型コロナウイルス感染が広がり、まだまだ忙しい毎日。
週末は休みたいところだが、診療所がある区で災害医療訓練が行われるとのことで参加した。
地震や津波などの大災害が起きた時、傷病者が殺到すると予想される医療機関。東京都は「災害時医療救護活動ガイドライン」を定め、地域の医療機関が協力し合い対応することを求めている。
診療所の医師は、災害拠点病院の前に設置される「緊急医療救護所」に出向き、傷病者のトリアージや軽症者の処置をする役割を担う。

この日は区役所や区内病院のスタッフ、診療所医師など100名以上が集まり、実際に災害が起きたと仮定して患者搬送ルートを確認したり、傷病者の振り分け・受け入れの訓練を行ったりした。

会場の雰囲気。

私には、X病院前の緊急医療救護所で次々やってくる傷病者をトリアージする役割が与えられた。
トリアージとは、傷病者の状態を見て「緑色(入院の必要がない軽症者)」「黄色(入院が必要だが待機可能な患者)」「赤色(緊急治療の適応がある患者)」「黒色(救命の見込み無く治療の適応無しと判断された患者)」の4グループに速やかに分ける作業を指す。
多くの傷病者が発生する災害では、短時間で多くの人の病状を把握し、適切な医療につながねばならない。
私はトリアージした後に黄色、赤色を付けた患者の情報を病院へ伝え、受け入れ可能か判断を待つ。

ケガ人に見立てたシートが次々運ばれてくる。

災害時医療はドラマなどで見聞きしていたが、実際に被災地で勤務したことが無い私。
どんどん運ばれてくる黄色・赤色の傷病者の振り分けや連絡に追われ、1時間半の訓練ですっかりくたくたになってしまった。
実際は夜通し・数日間これが続くのかと思うと、改めて災害の恐ろしさを実感する。
また机上の訓練とはいえ、瀕死の状態ながら病院にたどり着けず救護所で亡くなる人の存在に心が痛んだ。
自らの判断が多くの命の生死を分ける業務。
心を強く持たないと、とても務まらない。

実際に災害が起きた時、どこで被災するかわからない。
私もそうだが、職員の多くは病院・診療所のある区から離れて暮らしている。
もし休日や夜間に災害が起きたらどうするか。
自分も被災者。自宅に留まる選択肢はあるが、私は診療所のある区に駆け付け、医療救護にかかわることを選択する。
それは、いつも診療所に来てくれる患者さんたちの力になりたいから。
私が医師として楽しく仕事ができているのは、彼らのおかげだから。

いつ我が身に降りかかるかわからない災害。
一人でも多くの人を救うには、地域を守りたいという医療従事者が一人でも多く救護に参加する必要がある。
この日集まった人たちは皆「地域住民を守りたい」と同じ熱意で訓練に望んでいた。
平時の病院はキャパシティを超えて患者を受けたがらないが、「災害時は自分たちが率先して受け入れ、救わなければいけないんだ。」と活発な意見が交わされていた。
皆の心意気に元気をもらえた1日だった。

暑さのピークを過ぎ、空は秋の気配。


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