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映画感想文「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 これは記念的作品!

映画館で「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下、エブエブ)を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

アカデミー賞あれこれ

と、感想の前にまずはこの話題から。
アカデミー賞受賞おめでとうございます!

いやあ、アジア勢(主演女優賞のミシェル・ヨーさんと助演男優賞のキー・ホイ・クヮンさん)の受賞は快挙だけど、まあ人種関係なく喜ばしいことですよね。
受賞されたみなさま、おめでとうございます。

さらにSFファンとしては、マルチバース(多元宇宙)を物語の基本軸に据えたSF映画が作品賞を獲ったのがうれしい。

めちゃくちゃハードSFかと言われるとそうでもないのだけど、「もしあの時違う決断を下していたら、違う人生があったかもしれない」というパラレルワールド(並行世界)ものなので、まあジャンルとしてはSFですよね。

アカデミー作品賞の歴代作品を遡って調べてみたのだけど、SFと呼べるものはひとつもなかった。
「シェイプ・オブ・ウォーター」も「ロード・オブ・ザ・リング」もSFというよりはファンタジー。
SF作品としては今回初受賞といっていいと思います。
ジャンルとしても快挙!

まあアカデミー賞に認めてもらったからどうした、っていう気持ちもあるけど、この作品をきっかけにSFに興味を持つ人が増えたらうれしい。
この作品でSFに開眼してSF作家(小説も映像も)が生まれるかもしれません。
巷では「アジア勢」ばかりが喧伝されているけど、「SF作品」ってところも注目してほしいっす。

感想

アカデミー賞に関してはこれぐらいにして、本題の感想文を書きたいと思います。

結論から言うと、自分は面白かった。
SF好きということで、マルチバースという設定にすぐ乗れたっていうところはあったと思います。
そういうのに慣れてるというか。
反対にSFが苦手な(慣れてない)人だと、最初で「いやー」ってなっちゃうかもしれません。。。

ただ上の章で「ハードSFじゃない」と書きましたが、そこまでSFっぽくないともいえます。
説明が難しいのですが、基本路線はSFだけど、テーマはSFじゃないというか。
(去年観た「シン・ウルトラマン」の方がよっぽどハードSFだと思う。。。)

※ここからネタバレありです。お気をつけ遊ばせ。

去年飲んだうなぎコーラ。かすかにうなぎの風味がありました。
ネタバレ気になる方は今のうちに退避。


主人公の中年女性・エヴリンが並行世界の自分たち(「違う世界線」というとイマドキですかね)の能力を取り込んで、全宇宙の敵である自分の娘と闘う、というのが物語の大筋です。

で、パッと思ったのは、これ「自分探し」のお話だな、と。

SFが苦手って人のために少し置き換えると、並行世界って今のスマホの世界がまさにそうなんです。
スマホって「いつでも・どこでも・どなたでも」ですよね。
ある種、とてもフェアでオープンな世界。
携帯画面をパッと開けば、いろんな人(有名人含め)のライフスタイルなりをすぐ知ることができる。
まさに「こうなっていたかもしれない自分」の生活を見ることができる。

そういった、いろんな世界を感じることができるのは素晴らしいことなのだけど、一方で「そうなってない現実の自分」をありありと突き付けられることにもなります。
これって、結構しんどいですよね。

それこそ「可能性は無限にある」中で、そこから何かを選んでオリジナリティあふれるキラキラ人生を歩むって、すごく難しい。
はっきり言って、「おいらキラキラだぜ」と実感しながら日々過ごしている人って多くないのでは、とも思います。(自分もそうです。。。)
ただ以前ならうすぼんやり感じられていたものが、今のネット社会だと鮮明にそれが可視化されてしまう。
まるでテレビの解像度があがっていくように。

で、娘は「何でもあり」→「どうでもいい」の虚無主義におちてしまって、全宇宙の仮想敵になってしまいます。
「選ぶ」ことと「選ばない(選べない)」ことの対立ですね。
この構図は発見だと思いました。
情報が無限にある現代社会の自分探しの物語だと感じました。

主人公が中年なので、中年の人生再肯定映画ともとれるのだけど、そういった意味で若者(仮想的である娘)の苦悩にも目を向けています。
図書館で例えるならYA(ヤングアダルト)コーナーにあってもいい作品だと思う。

主人公エヴリンは自身の別人生を体験することで、自分だけじゃなく他者の人生も想像するようになる。
そのことで娘が抱えている痛みに気づく。
これって思春期の少年少女たちが友達や恋人や近くの大人を通して獲得していく視点ですよね。

エヴリンが中国系だったり娘が同性愛者だったりで多様性のメッセージはあると思うのだけど、ただ「多様性を」「差別をなくそう」って叫ぶだけじゃなく、相手の人生に思いを馳せよう、と。
きっと何か共感できるものがあるはずだと。

確かにこの「エブエブ」は表面上の技法がてんこ盛り(カンフーなり下ネタなり過去映画へのオマージュなり)なので好き嫌い別れるかもしれない。
けど、作品の根っこにあるのは、大切な相手と交じり合う「温もり」とでも呼ぶべきもの。
幾多の可能性はあってもそこに「温もり」がなければ、本当の人生といえるかいなか。

最初に書いたように、手法は流行のSFだけど、メッセージはむしろベタなもの。
ベタを「ベタだよね」と指摘することもできるけど、もうちょい覗いてみると、そのベタの質は少し違う気がします。
「個性の素晴らしさと(それを選び取る)厳しさ」という、今を生きる人が心のどこかで感じているものを、ぶっちぎりのエンタメで表現した記念的作品がこの「エブエブ」だと思います!

最後に、アイデアは☆5つなのだけど、映像文体としてはシェイプアップできそう。
親切心なんだろうけど、説明過多な印象を受けました。
なので、☆4つ。

でも素敵な作品であることは間違いないです。
だって、違う世界線で自分は何をしてるか想像することって、まさにスクリーンの中の物語に没入すること。
映画そのものじゃないですか!

※下にあらすじあります。

総合評価 ☆☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

2022年 アメリカ
監督 ダニエルズ

物語は、疲れ果てた主人公エヴリンの日常から始まる。経営するコインランドリーに監査が入り、国税局からイチャモンをつけられ、税金の申告をやり直さなければならなくなったのだ。故郷の中国からエヴリンの住むアメリカへやって来た父親は、相変わらず頑固で介護も大変。娘のジョイは元々反抗的な上に、恋人のベッキーの存在を理解しない母親に不満を抱いている。夫のウェイモンドは優しいが、優柔不断で頼りにならない。そんな中、国税庁で役人に絞られていると、突然夫が豹変。別の宇宙のウェイモンドだと名乗る彼はエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告! まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける——!
公式サイトより

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