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聞く力の大切さ。民衆の苦しみに寄り添うアレクシェーヴィッチについて

本の紹介 「アレクシェーヴィッチとの対話―「小さき人々」の声を求めて-」(岩波書店)


かつての戦争で、日本人は家を焼かれ、家族を殺され、食べ物もなく塗炭の苦しみをなめ、戦後、その経験は体験者によって繰り返し語られました。
遠く旧ソ連の地でも民衆の苦しみに耳を傾けた作家がいます。

スベトラーナ・アレクシェーヴィッチは1948年ウクライナ生まれです。
その後ベラルーシに移住し、作家となりました。この本は、彼女の講演や対談、取材記録をまとめたものです。
彼女は自らを「耳の人」と呼び、旧ソ連の人々の声を集め、記録してきました。
彼女が取り上げるテーマは第二次世界大戦(独ソ戦)、アフガン戦争、チェルノブイリ原発事故など。
国家にとって不都合な出来事の中で生きる人々の記憶や生の語りを記録することで「戦争とは何か」「人間とは何か」「生きるとはどういうことか」を明らかにしてきました。
2015年にノーベル文学賞を受賞しました。

彼女の作品には英雄や偉大な人物は登場しません。
彼女が取り上げるのは常に歴史に埋もれてしまいそうな「小さき人々」です。
「小さき人々」が心動かしたこと、心に響いたことなど、どう感じたかを記録する魂の作家なのです。それが彼女の大切にしている聞く力です。

彼女は言います。
「私の仕事は、過酷な生活の中で自らを守る術すらない人々の奥底に息を潜めている『人間的なるもの』を拾い集めることです。」  


人間の歴史の中で巨大な国家に苦しめられるのは常に民衆、しかも女性、子どもです。
過去に国家が引き起こした戦争、国策で推進される原発の事故(フクシマの原発事故)によってどれだけの人々が苦しめられているかは日本も同じです。
その悲しみや嘆きは決して歴史の闇の中に葬り去られてはならないでしょう。
民衆の声こそが次の戦争を防ぐ力になるのですから。


アレクシェーヴィッチの出身国のベラルーシでは、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領が強権体制をしいて民主化を求める国民と激しく対立しています。
今夏の東京五輪では、参加していたベラルーシの選手が弾圧を恐れてポーランドに亡命しました。
アレクシェーヴィッチも昨年秋に国外追放になりドイツに住んでいます。

ベラルーシでは、新聞や雑誌が廃刊に追い込まれ、多くの人が投獄されています。 

アレクシェーヴィッチは訴えます。
「民主主義を侵害する者、第二次世界大戦の終結以降に積み上げられてきたものを壊そうとする者に、私たち作家は、ひとつの拳となって反撃をしなければならないのです。」


執筆者、ゆこりん

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