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~『狙い通り』を我らの手に~ 2023.#13 アルビレックス新潟×横浜F・マリノス 展望

リーグ戦3連敗、その中では横浜FCに初勝利を貢献するなど不本意な戦いが続いたアルビレックス新潟。久々にブーイングで意思表示を示したゴール裏、「次見ててくれ!」と訴えたキャプテン堀米悠斗。そんなこんなで迎えた前節柏戦ではメンバー構成と相手の出方もあり、比較的思い通りにゴールへ向かう事が出来ました。結局ネットを揺らせていないので完全に課題が解決した訳ではありませんが、新潟式フットボールの基軸となる攻撃的かつ主体的な姿勢をブレずに発揮できていたと思います。


さて、今節ビッグスワンに迎えるのは横浜F・マリノス。個人的な解釈を述べるとするならビッグクラブの枠組みに入るクラブだと思っています。本拠地は都市圏、シティフットボールグループの傘下、もはやアイデンティティとなったアタッキングフットボール…。新潟の第一J1期(2004~17)では中堅の域に留まる印象がありましたが、その後はタイトルを手中に携えながら明確なフットボールスタイルを披露する強くて魅力的なクラブに変貌を遂げました。

そんな前年度王者に対してJ2チャンピオンはどう立ち向かっていくのでしょうか。今回は新潟×マリノスの人的な関係性も交えながら5.14の展望について書いていきます。


フットボールは港を跨いで

新潟の指揮官・松橋力蔵。舵を任されて2年目、J2からJ1への海路を開いた男は波濤だろうが安定した船旅を提供すべく自身と機体、両方のアップデートを図っています。そんな男は横浜F・マリノスに選手・コーチ・ユース監督として関わってきた経歴を持つ、所謂『マリノスの人間』であった過去があります。(詳しくは⇩)

アルベルトから受け継いだ云々の話は⇩

新潟において『前任者のフットボールを発展させて開花させた』云々の言説はそろそろ飽きてきた頃だと思うのでわざわざここで取り上げたりはしません。ただ、マリノスとの一戦を前に彼に対して新潟サポの視点から言及していく事に意義がある。そういった視点で松橋監督について語るなら2点、スタイルへの理解選手との信頼関係を抽出したいところです。 

新潟が生きる道


まずは前者。就任以降アルベルトの静的なポジショナルプレーに理解を示しつつ、中央部のコンビネーション⇩を基軸に前任者のそれに打開力を足したフットボールを定着させた松橋監督。爆発的なウインガーを買ってこれない財政規模と内寄りでプレーする伊藤涼太郎,高木善朗を中心とする選手編成、そして個々の力量を踏まえながら一番強みを出せる攻略法を提示しました。

ボールを持って相手を支配したい理想と資本という現実があり、その狭間に立って最も躍動感ある組織を構築した、昨年を通じて筆者はそのように松橋監督を評価しています。マリノス時代、シティフットボールグループの意向によってクラブが揺れ動いた時期に当事者として携わっていた経験も存分に活きているのでしょう。カテゴリーだけでなくリーグ全体の強度もプレースタイルも変化した2023年、その中でもスタイルを手放す事は決してなく戦略性と精度の向上に着手しています。


信頼

続いて後者について。新潟で構築したのはピッチ上における造形物だけでなく、岩石である選手との信頼関係も含まれる事に。というか彼の本領はどちらかというとそっち。育成年代の人でもあったわけですし。

『気持ちではなく技術で交わせ (2022A町田)』
『甘い、甘いよ!それで目指してるものを本当に掴めると思ってるの?
(2022A甲府,リードして迎えたHT)』

(アルベルトのような陽気さがあれば確実に『力蔵語録』たる物が発売されていただろう)表面だけでなく選手のにまでに浸透させる言葉、選手に負けずジムで鍛えたりとそれを強調するようなタフネスさ。何よりも、ブレずに選手と共にスタイルを貫こうとする姿勢。そのように自然体からなる心身掌握術を遺憾なく発揮し続ける新潟の指揮官。

スタイルの発展と同時に長年の課題であった勝負弱さなど新潟のメンタリティーを変えるべく、一切のブレを見せずにプロフットボーラーである彼らにアプローチしています。『全員が戦力』という言葉に象徴されるように、序列を作りすぎないローテーションで一切の置いてけぼりを出さないマネジメントも見事。(最近裏目に出たけど)

そんな人間性を感じさせる瞬間はマイチームに留まらず。エジガルジュニオに椿直起、山田康太に常本佳吾,和田拓也とマリノスで被っていた選手が次々と挨拶に伺う姿からも、どこで選手達に接していようと新潟時代同様に慕われるカリスマだったのだろうなと思わされます。

これらのように、情熱と冷静を分け隔てなく発揮する監督として正真正銘の『新潟の人間』となった松橋力蔵。そんな彼が率いる新潟は次節、監督の古巣であるマリノス撃破に挑みます。次項ではそんな一戦のピッチ上における注目ポイントについて言及していきます。


付き合う?付き合わない?

思春期を思い出させるタイトルで始まりました、横浜F・マリノス戦のマッチプレビュー。例のごとく、相手チームの詳細を…というよりは新潟との嚙み合わせを踏まえながら試合の中で起こり得る注目ポイントを1.2つ程度挙げていきます。
※直近の中で新潟と比較的親和性のある11節サガン鳥栖戦を参考にしています。

"来る"事を歓迎するマリノス


マリノスの保持では目的の一つとして相手のプレスを誘ってライン間,背後にスペースを創出して前向きの選手を送り込む事が挙がります。具体的にはGK,CB+CHのビルドアップ隊が相手を引き出して自軍アタッカー陣にスペースを寄与する仕組み。各々が誘い込むようにボールを持って離す事でプレスを誘導、空洞化させたライン間,DFラインの背後でアタッカー陣に渡す事で穴を突いていきます。

鳥栖戦20:00~ ターン含めた両CHのプレス回避力は見事

柏戦を観れば分かるように新潟もマリノスと似たような保持の構造を取っていますが、阿部(小島),千葉,舞行龍と比較するとトリコロールのそれは供給者としての力が若干劣るように感じます。

人を引き寄せる事が前提として存在するやり方なので、当然失って即ピンチというシーンもリスクとして含む事に。味方を楽にするリリースであったり、体の向きで相手を騙す云々の個人戦術が完全には浸透しきっていないように見えるマリノス。ハイプレスに強みを持つ鳥栖との一戦では誘因によるリターンとリスク⇩、両方の側面が見られる形となりました。
※チラ見した感じ京都もリターンを重視していました。鳥栖も京都もチームの特性上そうするしかない、という側面がある

真っ正直に出してしまうGK一森。大ピンチを誘発

それに、プレス回避に大きく貢献するキャプテン喜田は負傷により今週末の出場に黄信号が点滅するなど、新潟としてはリスクを承知で勇気を持って奪いに行く事でリターンを得られる可能性があります。ショートカウンター、保持の機会を増やす=相手の攻撃機会を減らす。リターンとしては十分でしょう。

ただ、結果的に奪えない事でマリノスに疑似カウンターを発動させてしまう恐れが生じます。嵌めたと思っても鳥栖戦17:30~のように人に付かれても剥がしてフィニッシュまで繋げられるのがトリコロール。最悪自陣で失っても何とか防いでくれる後方の守備力と前方の破壊力により、リスクとリターンそれぞれの収支を合わせられている印象です。

それに、ハイプレスをかけて盤面をひっくり返された時にエウベル・ヤンマテウスとスピードのあるブラジリアンに対して舞行龍/千葉などベテランCBがスペースに晒されるというリスクが。それに星の負傷により先発が予想されるCH島田はスピードに乗った相手を中々止められなかったりとオープン気味の試合展開は不得意なので、あれよあれよと向こうのテンションに付き合いたくないところ。

しかし、ミドルプレス~撤退をメインに、奪うより進ませない事を選択しても不利な局面を強いられる可能性が。通常通り自陣で4-4-2気味にブロックを組む事が予想される新潟ですが、マリノスは一方のサイドで作って逆サイドで仕留める形・演じるキャストが明確化されており、これは新潟の弱みと見事に噛み合ってしまいます。

一人一人の守る範囲が物理的に狭く、必然的に人と人の間を狭めて守る新潟。そのためボールサイドとはの方向へのケアが遅れがちであり、なおかつ5バック等で人的に埋める構造も作っていないために、縦の速さも横幅も強みとして持つマリノスはこの上なく脅威に。個々の強度不足でボールを奪えない=組織で弱みを補う新潟としては撤退の時間を出来るだけ減らしたいところです。ならボールを奪いに行きたい、でも失敗したら疑似カウンターという最大のピンチが…。


まずは戦略性を持つ

このように、プレスを選択しても自重しても非保持で不利を強いられる事が予想される新潟。その中で最も怖いのはプレスをかけて奪えなかったケース。しかし、それにより得られるリターンは比例して大きいという形。プレスを自重して後方がスペースに晒されるリスクを防ぐのか、勇気と包囲網を携えてマイボールの時間+ショートカウンターというリターンを掴みに行くのか。このように、『リスクとリターンのどちらに重きを置いて試合に臨むのか?』という問いに対する新潟の回答は注目に値します。

新潟としては、どちらを選択するにしてもその効果を最大化してくれる選手起用を行うべきでしょう。意図的にパスコースを誘導して相手に寄せられるLWG小見、CHがボールサイドに移動したらスライドして中央を埋められるRWG三戸など、守備でも信頼のおけるアタッカーはマリノスによる崩しの一個手前のケアに期待がかかります。それに、ハイプレスによりスペースが生じるDFラインの背後・撤退守備では味方のカバーに広範囲に走れるトーマスデンの存在はマスト。豪州代表としてマスカット監督のチームをシャットアウトして欲しいところ。

現実的にはミドルプレス~撤退守備を軸に、相手のバックパスに合わせて押し上げた陣形により一時的なハイプレスをかけて蹴らせる事で回収…という回答を予想しています。リスクとリターンを踏まえてマリノスに付き合うか?付き合わないのか?人選も含めて新潟はどのような選択肢をとるのでしょうか。

最後に

『目の前の敵が最強の敵』
既に各所で定着して謳われている松橋監督の言葉ですが、目の前にいなくても今回の敵は最強です。それに松橋監督の古巣戦であって公式戦5試合勝っていない状況。閉塞感を打破するのならここだと思います。なので勝ちたい

前年度王者への挑戦を楽しみながら最後は笑って終われれば。その際に今回の展望によって、少しでも試合を楽しめる材料が増えていれば幸いです。ではでは


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