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『必然に結び付けたモデルチェンジ』2023.#8 アルビレックス新潟vsアビスパ福岡 マッチレビュー

勝ちました! 2点差をひっくり返した逆転劇。アルベルト期では昇格争いからの陥落を告げる敗北を喫する(その翌週にもなんかあった)など、ボール保持型の新潟にとって相性の悪い長谷部アビスパ。今節も正直言ってフットボール的には完敗でしたが何とか勝ち点3を掴む事に成功しました。例え良くない時でも結果を出す事で勝って反省できるのは大きい。この試合の結末次第でその後の空気感はガラリと変わっていたはずなので、それが良い方向に進んで良かったです。

…が、結果良ければ全て良し!にはしたくありませんし、現場も同様だと思います。リーグ戦は続きますし、唯一無二のゲームチェンジャーが毎節魔法をかけてくれる訳ではありません。その中で勝ち点3を必然的に掴むために、浮き彫りになった課題に目を向けるなど今節を好材料にしたいところです。それではいってみよう!


長谷部式ディフェンス炸裂。立ちはだかる壁

シュートは8本、ゴール期待値は0.8。少ないチャンスの中で3点をもぎとった事で決定力があるという見方が出来ます。が、まあシンプルに言えば全くシュートチャンスを作れませんでした。その理由を語るには新潟というより相手チームを主語にして話を進める必要があります。

4-4-2で構えるアビスパ。セレッソ-浦和同様にチャレンジ&カバーを徹底しながら人とスペースを同時に消しに来る守り方。FWが背中で新潟CMFを消しながら片方に誘導。新潟CBからSBに入るパス(=嵌めどころ)がトリガーとなって一斉に人に襲い掛かります。

その際に福岡SHの斜め後ろをCMFがカバーして、その余波で空いた中央を逆サイドのSHがスライドして埋めるので、新潟からしたらパスの狙いどころがありません。また、40:16~長谷部監督の『ライン下げない!』という指示のように、DF-MFのライン間も非常にコンパクトなので涼太郎-孝司のユートピアが閉鎖。やりたい事を全くやらせてくれませんでした。

9:10~
35:20~

14:19~など2CBがFWに監視される状況を見てなのか、途中から秋山が降りる事で後方に3枚形成。これを機に相手2トップ脇から運んで相手を動かしていきたいところ…でしたが、3枚の幅が狭かった。これだと2CBでビルドアップしてた時と状況は変わらず、相手2トップの脇からの侵入が出来ずに結果的にSBの所で嵌められてしまいます。このように相手に影響を与えるようなボール保持×崩しが出来なかった新潟。

ラスト30mでは同サイドの崩しに拘りますが福岡は密度濃く人を集めて、奪いに行く選手(チャレンジ),その選手が動いてできたスペースを埋める選手(カバー)が45分間徹底した連動を見せていたので中々に厳しい。頼みのダニーロですが、ボールが入っても対峙するSH(金森)とカバーするCMF(前)が常に構えていたので自由を謳歌できず。保持でリズムを作れずに紺野へのPK献上とCKから2失点。前半の内に敗戦ムードが漂っていました。


細部と大枠。戦い方に変化

後半開始間もない頃、伊藤涼太郎のFK弾で反撃体制をアピールした新潟。その直後から福岡の泣き所を突きながらのアタッキングを繰り返していきます。正確に言うと前半の終わり際から少しづつ改善の色は見えていました。

44:10~

福岡としてはボールサイド周辺の密度を高めて自由を奪ってきますが、その分逆サイドが手薄になってきます。そのためにボールサイドを切り崩して中央を経由して逆サイドで勝負を仕掛けるようになった新潟。その伏線は前半の内から現れていました。

また、切り崩すにしてもCBが運んで相手SHを迷わせる事で内側からも外側からも差し込めるようになりました。後方では秋山/高が降りたりして3枚形成は相変わらず。その中で横幅を広げる事で相手2トップ脇からCBが持ち運べるようになりました。惜しくも繋がりませんでしたが、55:10~の展開もそんな感じ。トーマスが運んで相手SHを迷わせる→相手のスライドが追い付かず、内側で受けた太田が前を向く→中央の高→孝司→逆サイドで待つダニーロへ(ここで繋がらず)

前半は自分たちのゲームに持っていけていた。後半立ち上がりの失点、終盤での失点。後半は五分五分の時間帯もあったと思いますが、全体的に新潟さんに分があった。少し間延びした、守備もうまくハマらない、攻撃は少し厚みがなくて、相手に最後にペースを持っていかれて、うまくクローズできなかったゲームになってしまいました。

長谷部監督

後半に関しては守備の練度不足を指摘する長谷部監督ですが、そこには疲労から来るスライドの遅れと、新潟が左右全体でボールを回す事による福岡プレイヤー達の移動距離の増加があると思いました。ボールへのチャレンジと移動して生まれたスペースを埋めるカバーを前提に成り立つ守り方なので、一人の遅れや可動範囲の狭さが相手に使えるスペースを与えてしまいます。ちなみに各チームが島田の所を突いてくるのもそういった理由から。

66:20~

59:15~秋山や上記の涼太郎など、相手の矢印を折るようにターンして逆方向を向いてボールを広い方に展開。このシーンのように後半は相手に影響を与えるようなポジショニングとボールスキルに変貌を遂げた新潟。CBが持ち運んで福岡SHに二択を突き付ければ、その両脇では相手を迷わせるように大外に立つSBと内側に立つSH/トップ下が顔を出す。何故迷うかというと自身の後ろにいるから。手前なら単純に目の前の敵を潰せばよいのですが、後ろで受けられるとそのまま前を向かれてしまいます

66:55~辺りで『運んで!』とトーマスにジェスチャーを送る涼太郎。前半は新潟CBがそのままSBに出して嵌められたパスを、今度はボールを持ち運んで相手SHにプレスを迷わせてから出す事で自由を得るようモデルチェンジ。前進した先では狭い方から広い方(逆サイド)へ展開したり、相手に大きなスライドを強要する中で生まれる綻び(中央のスペース)を突いたりと優位性を感じながらゴールに迫った新潟。そしてベンチは勝負に出ます


遅かった?いやいや適切だった"3枚替え"

後半71分での3枚替え。あと20分程度という事もあり、少し遅いかなとも思いましたがベンチはリスクをひっくり返して勝機を掴む事に成功しました。ここまで手を打たない事で結果が出なければ『もっと早く動けば』という論調になっていたでしょう。しかし、敢えてこの時間の交代だった事で適切な時間帯に投入したという見方もできます。

--前半と後半で違うチームのようになった。要因は?
(略)
また、自分たちの流れに持っていきたかったんですが、攻撃の切り替えのところで、また守備でもうまく自分たちの時間に持っていけなかった。そこが前半と違ったと思います。それでも1点差で勝っていた中で、うまくゲームを閉じられれば何の問題もなかったんですけど、そこの改善が必要だと思います。

長谷部監督

福岡としては交代カードを切りつつ前線の運動量を補填したり、コンパクトなラインを維持しながら4-4-2の陣形を続ける(=5バックで籠城しなかった)判断を下しました。プレスを放棄する事は完全に守勢に回り、常に殴られ続ける事を意味します。その中でJ1でも存在感を示す新潟のアタッキング相手だと決壊する恐れもあったのでしょう。

ただ、73:20~のように2トップのプレスが機能しなくなってSHが押し下げられて獲りに行けない・カウンターを打ちづらくなったように長谷部監督の意図とは裏腹に試合の構図が功vs守とはっきりと定められてしまいました。その中で体力も削られていき、選手間の距離が空いた福岡。ライン間はもちろん、隣同士ですらスペースが出来た所を涼太郎が突いて同点弾を献上。ゾーンディフェンスの僅かな綻びを見つけた見事な同点弾でした。

また、新潟としてはそんな状況で交代カードを切った事で最大出力の発揮に成功。20分程度なら交代選手達がフルスロットルにパワーを使えますし、それが疲弊する福岡相手となると余計に効いてきます。このように結果論の側面もありますが、試合結果はもちろん松橋監督は試合中の決断の時点で勝っていました。

更なる攻勢に一役買った交代選手達。特に松田はサイドが空きやすい展開という事もあり、自身の持ち味である大外からの仕掛け→クロスを存分に発揮。逆転弾に繋げました。良かった。

0-2からの修正で3-2と逆転まで持ち込んだアルビレックス新潟。『スタジアムの雰囲気に呑まれた』と相手将も評するなどピッチとスタンドが呼応した、フットボールの醍醐味を体現するメロドラマ。

そんな逆転劇にも浮かれる事はなく、試合後インタビューでは反省しきりだった松橋監督。そして次節は絶不調鹿島アントラーズが相手。好チームから提示された課題をクリアする事で最大限の準備を。こういう時こそ気を引き締めながら自分達に主語を向けて戦って欲しいと思います。その上で次も勝つ。もっと上にいけるはず。ではでは

※来週は当方のプライベートによりマッチレビューお休みです!


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