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『スタイルの代理戦争』2024.J1 #17 FC町田ゼルビアvsアルビレックス新潟 マッチプレビュー

自分達は何者なのか

今季の開幕前、FC町田ゼルビアを率いる黒田剛監督によるある発言が物議を醸しました。

「あんまり足元でチャカチャカやって、何本パスをつないで点数を取るというサッカーが果たしてサッカーかと言った時に、やっぱり日本の〝甘さ〟というのはそこにあるわけで。ありとあらゆる方法で得点を取りにいく、そして、ありとあらゆる方法でゴールをしっかりと死守していくという」。不必要にパスをまわしたり時間をかけすぎるという日本サッカーの〝悪癖〟を指摘しつつ、攻守が一体となったスピード感あふれるスタイルの重要性を熱弁した。

東スポ

https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/288962?page=1

この発言の真意であったり、16節終了時点でリーグ首位に立つ町田の強さについては各方面で多角的な視点から考察されており、ここでは敢えて省略しようと思います。

ただ、新潟の現状と併せて「チャカチャカ」発言について考えると物凄く悔しさを覚えてしまうのが正直な気持ちです。

まず黒田監督の真意を要約してしまえば、勝利という目的を見失った所謂パスサッカーは何の価値も見出さないという事を言いたいのだと思います。パスする為にパスを回し続ける、吉田達磨監督が率いていた頃の新潟を思い出せばその意味はよく分かります。

実際に松橋監督の率いる新潟がチャカチャカしているかどうかと言われたら、開幕前は「そうではない」と断言していました。ただ、現状では割と心当たりのある要素を感じてしまう試合が続いています。ゴールはおろか、チャンス自体からも遠ざかる時間は決して少なくありません。

また、新潟が本来披露したいフットボールに対してアンチテーゼを示しているかのようにやりたい事を表現しているのが町田ゼルビアであり、現在J1首位のチームでもあります。

何事もそうですが、特にプロスポーツの世界においては自分が到達できる限界を左右する唯一無二の要素が「結果」となります。そんな世界において、方法論に囚われず自分達の信じる物を貫き通して現在進行形で成果を出し続ける黒田監督のチームは客観的に見ると正義だと捉えられると思います。

では、新潟について目を向けてみましょう。成績もスタイルも町田と対比的に移るオレンジブルーについて、彼らのように正義ではないし、積み上げてきたスタイルは結果を求められるプロの世界では非効率な物であると言えるのでしょうか?

この問いについて自分は「それは違う」と疑いなく断言できます。新潟のフットボールは決して自己満足の上で成り立つ物ではありません。試行錯誤を経て、再度這い上がる為の戦略として練られたプロジェクトが今現在に繋がっています。

カタルーニャの血が流れる名伯楽を迎えた2020年以来、ピッチ内外でありとあらゆる紆余曲折を経てきましたが、結果的にJ2優勝・5年振りのJ1昇格を果たし、今現在は2年目を迎えるトップリーグでの戦いに挑んでいます。

そんな、毎週末ビックスワンで魅せるフットボールが我々にとっての道であり、マネーゲームに突入したサッカー界の中で新潟が勝っていく為の正義です。積み上げてきた物を否定せず、これからの戦いに迷いを生み出さない為にも、我々の対極に経つ町田に勝って自分達が何者であるのかを証明する必要があります。

この試合の価値はただの1/38に留まらず、互いに信じる物への威信をかけた、ある種の代理戦争としての意味も内包しています。選手やスタッフは勿論ですが、サポーターとしてもこの試合は本当に勝ちたいです

そうじゃない、絶対勝つんだ


ボールを捨てるべき?


ホームチームの戦い方,狙いが明確な分、町田対策として普段とは毛色の違うゲームプランを採用するべきだという声が聞こえてきます。

一つのプランとして、例えば彼らにボールの主導権を委ねる事で、ハイプレス→ショートカウンターの連鎖を繰り返して効率よくゴールを脅かす/苦手な作業を押し付けられた町田のペースを乱すような戦略が考えられます。

ただ、町田はボールを持ったら持ったでロングボールという大きな武器を抱えています。GK-CBからなる砲台が長い距離の球を蹴り込み、基準点となるオセフンやミッチェルデュークがそれに呼応してセカンド奪取隊と連携する事で相手陣地でプレーする道筋を確保してきます。

相手陣内で時間を過ごす際のプレーパターンも豊富に備えており、流れの中以外にもロングスロー・トリックプレーを交えたCK/FK等のセットプレーからゴールを脅かす事が出来るチームです。

一方、現状の新潟が保有するリソースで果たして彼らの攻勢に対して終始0で凌ぎきれるかと言われると言葉に詰まってしまいます。上記のように普段とは違う「ボールを捨てる」戦略を採用しても、いつか訪れる決壊を待つだけの結局ジリ貧に陥って、試合に対するモメンタムを失ってしまう事になるでしょう。

要は「守備→切り替え→攻撃→切り替え→守備→以下ループ…」と続く4つの局面のどこに重きを置くかではなく、これまで通りどの局面も疎かにせずプレーする事、その中で町田の特徴を踏まえてゲームプランを微調整する事が求められます。

松橋体制発足から約2年半が経ちますが、相手に合わせて自分達の根幹にあるボールの支配を放棄するようなゲームは1試合たりとも存在しなかったと記憶しています。

今節の対戦相手にも同様に、ボールを持つ事を前提としながらゲームプランを練ってくると予想します。そんな新潟が町田に対して試合を支配する、そして勝ち筋を見出す為にどういった点を考慮して試合に望むのか。今回のプレビューでは大まかに2点考えてみました。

この記事に辿り着くような方なら、恐らく週末にはこの大注目の一戦を観戦している事でしょう。その際に少しでも試合を楽しむポイントを享受できるプレビューになると良いなと思います。早速行ってみましょう。


予想スタメン

FPに怪我人続出中の新潟。苦しい台所事情もあり、対町田を意識して選考できる程メンバーが足りていません。今現在稼働できる選手を精一杯揃えてみた結果が上記の11人となります。

スタートも控えもここ数試合の顔ぶれから大きな変更は無いでしょう。エアバトルの機会増加が予想される事を考えると、対人能力に優れた舞行龍が居てくれると頼もしいですが復帰明けでスタートは厳しい筈。唯一変更点が予想されるのはドイスボランチの一角。レギュラーとして先発を張り続ける奥村ではなく今節は願望込みで島田譲を抜擢すると思っています。

前述の通り、町田戦では被ロングボールの多発によるエアバトル、それに伴うセカンドボール奪取の機会が普段より増加すると思います。いや、増加すると断言します。中盤でのファイトに際して新潟は球際で負けない事、それによって町田の優位性を削いでいく事で試合の支配権を握っていきたいところ。

そういった側面を考えると奥山<島田という選定は理にかなった起用法であり、実際の展開を想定して試合中の文脈に沿った人選を行って欲しいと個人的には思っています。

以上の11人+ブレイクへの時間が刻一刻と迫るMF石山青空などを含めた7人のリザーブと共に新潟は戦います。

ロングボール対策

町田は保持側に移行した際、ボールを送るエリアとして優先的に前方を選びます。相手DFに対して背走/競り合いの機会を誘発して、エラーの可能性を高めながら相手陣内への前進を図ります。

昌子-チャンミンギュからなるCBコンビにGK谷が加わってフリーとなるボールホルダーを創り、ホルダーは解放された状態で砲台となって、ボールサイドと逆側で張って待っているWGや、相手CBを抑え込みながらハイタワーの利点を活用するCFに対して迷いなく長い球を蹴り込んできます。

相手のプレスに応じて2CHがビルドアップに関わるシーンも見受けられますが、彼らはあくまで補助であって自らが出口になったり2CH同士の関係性でプレスの1stラインを突破したりと下からの繋ぎに対して意欲を見せる素振りは全くありません

あくまで町田の前進経路は空中であり、その狙いはチーム全体で徹底されています。下からの繋ぎは寧ろ不得意な部類に入る印象ですが、相手陣地に進んだら進んだでハイライトシーンを創り出す術を豊富に兼ね備えています。J2時代からこういった類の相手を苦手としている新潟にとっては、自分達がボールを持っていない際も緻密に想定しながら対策を練って臨むべきでしょう。

今季からハイプレスを採用するようになった新潟。しかし、1stライン(今でいうと鈴木-長倉)の制限がかかっていない状態でボールホルダーに向かってあっさりプレスを剥がされたり、或いは後方で可変して3枚を創り出す相手への制限の仕方が定まらなかったり、プレスを空転される機会が頻繁に発生しています。

昨季はどうかというと、ハイプレスは自重気味で一旦陣形をセットしてブロックを組んでから1stラインが圧をかけに行く事が共有されていました。これによりチーム全体が整った状態で相手に向かって矢印を放ちながら、制限→追い込んで蹴らせる→回収という流れを徹底できていました。

新潟としては昨季良かった時期の振る舞いを思い出して、確実に町田を追い込んでいきたいところです。

・1stラインは背中で相手ボランチを遮断した所からプレッシングがスタート
・砲台に対してはパスルートを制限しながら向かう事で、後方の選手達にボールが届くエリアを予測させる(この辺りは長倉-鈴木なら信頼に値する)
・中央を使わせない事で外に外に追い込む事
・縦にコンパクトに守る事で2CHのカバーエリアを制限しながらロングボール→セカンド争いの流れに組み込む事
・背中側に流れた球の処理が苦手な早川のサイドに蹴り込ませたくない(復帰した堀米の起用も考えられる?)
・ので、新潟の右側に誘導するようなプレッシングを敢行する事

町田のボール保持に際して、彼らが手にしようと働きかける確実性を少しでも排除するように新潟の包囲網が機能すると良いなと思います。


ハイプレスを止めろ!

守備者としてディティールに拘った指導が光る黒田監督ですが、チームとしてボールを持たない際の振る舞いが完璧に整備されているかと言われると、案外そうでもないのかなと思っています。
※ゴール前の堅さはリーグ随一なので、そこはまぁ新潟の選手達頑張ってください

新潟としてはボールを持つ時間を増やす事で失点の危険性を減らす事、そしてプレスを剥がしていく中で完全にブロックを固められる前に攻め崩す事、この2点が重要になってくると思います。その為にも町田に対してハイプレスを懐柔して、ミドルブロックを破壊したいところです。

対ハイプレス。町田は積極的に圧をかけに行く際に、保持側アンカーのケアに苦労する節があるのかなと思っています。もっというなら1stラインの背中側のエリア。オセフン-藤尾からなる先頭の2人ですが、自分達の背中に位置する選手を隠してパスコースを遮断する行為があまり得意には映りません。

その為、アンカー位置に定住する選手、町田側のMF-FW間に降りてビルドアップの出口になろうとする選手に対してのケアが町田は手探りになっている印象です。アンカーへのケアを誰が行うかによって空いてくる箇所が明確になり、前節対峙した浦和は自由を謳歌するようにビルドアップを行っていました。

例1

こちらはCFがアンカーをケアしてWGがホルダーに突貫、結果的に空いたSBを使ってプレス回避するパターン。町田に対しては新潟SBが浮いてくるシーンが頻繁に発生すると思っています。

例えばCH(仙頭)が保持側アンカー・CF(オセフン)が保持側CB・WG(平河)が空いた中央のエリアを管轄するパターンも浦和戦では見られましたが、こちらも平河が大外をケアできずに結果的にSBが浮いてきます

右には独力でプレス回避できる藤原が存在する事を考えると、町田は早川の居る左サイドに誘導するようにチーム全体でプレスをかけてくると思います。圧を回避するキーマンとしての期待がかかる早川。受けてからスムーズに次のプレーに移行できるように、受ける前の予備動作を欠かさない事、サイド深くを走る谷口に加えて中央に顔を出す受け手も選択肢に入れる事。

プレス回避から隙をついて疑似カウンター風味のアタックを発動する為にも左サイドバックの活躍は欠かせません。攻撃面では持ち前の得点力だけでなく、下からの繋ぎにも多大な貢献を果たして欲しいなと思います。

※執筆後に情報を確認した所、LBには堀米悠斗が本格復帰するそうですね。町田の特徴と照らし合わせて考えるならスタートからの起用も全然考えられます。当日どうなるか楽しみですね!


パターン2
パターン3

パターン2.3では町田の1stラインを広げる事で直接的にアンカーに通したり、CBに対してパスライン生成を働きかけたCH/OHを経由してアンカーに落とすなど、町田の1stラインを中央から割っていく事を想定しています。

前節の町田の対戦相手である浦和は自軍CB間の距離を広くとる事でオセフン-藤尾を横に走らせて彼らのゲートを広げながら上記のような方法論を実現していました。

似たようなボール保持の構造を構築する新潟も参考にするべきだと思いますし、実際に同様のアプローチを図って中央から割っていく作業を行っていくのではないかと願望込みで期待しています。

アンカー位置から定期的に人が居なくなる
→空白のエリアに誰も入ってこない
→中央で起点ができない
→ロスト時に空いた箇所を経由されて楽々とカウンターを許してしまう

という魔の流れを食い止める事、そして前述したような1stラインの突破を可能にする為にも、秋山-島田はビルドアップ時のサリーダ(最終ラインに降りて数的優位を形成する事)を極力控えて中央でボール循環の起点となり続けて欲しいなと思います。

ビルドアップの安定ですが、相手のプレスに向かう足を止めてアップテンポな向こうが望む試合展開を阻害する事、そして縦方向に出す相手の矢印を逆手にとってブロックを組まれる前にゴール前まで迫る事。これらが可能になれば試合の優位性を掴みに行けると思います。

新潟は自分達の根幹にあるボール保持によって町田の武器を破壊・懐柔しながらペースを握っていきたいところです。町田に対するビルドアップの工夫・ゴール前までの過程作りには要注目です。

あとがき

怪我人続出に過密日程、そして黒丸が並ぶ戦績表。今、新潟に関わる全ての人間が苦しい思いを抱いています。開幕前に掲げた目標(てっぺん)と照らし合わせると、本当に落ちる所まで落ちてしまいました。

この惨状から脱却する為にやるべき事は本当にシンプル、とにかく勝つしかありません。対戦相手より多くの得点を獲る事でしか新潟の見えてくる世界は変わりません。その為に時間を紡いできたのが自分達の根幹をなす保持志向のフットボールです。

6.1町田戦、今ではアイデンティティの名刺代わりとなったスタイルに再度自信が湧いてくるような、そんな素敵な一戦になる事を心から願っています。

果たして新潟は ”スタイルの代理戦争” に打ち勝つ事ができるのでしょうか。

追記

松橋さん完全にやってやる気ですね、そう、それでいいと思います。やろうぜ新潟。

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