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『クリスマス。華やかさの裏に脆さ』 2023.#29 川崎フロンターレ×アルビレックス新潟

スタメン

初期配置:4-3-2-1
ゴミス
マルシーニョ 小林
遠野 シミッチ 脇坂
登里 山村 田邉 山根
ソンリョン

初期配置:4-2-3-1
鈴木
三戸 高木 長谷川
高 秋山
堀米 千葉 トーマス 新井
小島

前半

・支配率が37:63というように、基本的に新潟が保持して川崎が見守る構図。
・ホームチームのキックオフで始まり、ゾーン1,2では4-1-2-3気味の陣形を確保して4-4-2セットで構える新潟に配置的優位をとる川崎。
・しかし配置的優位があってもそれを成り立たせる個人戦術が無いと形骸化してしまうのがポジショナルプレーの罠。1:10~くらいで『運んで来い』と脇坂が田邉にジェスチャーしたように、川崎としては降りる選手を最小限にしてIHやWGを新潟選手間で待たせる事でそこにボールを届けたい。
・それを間接的に無効化するのが鈴木-高木コンビ。アンカー位置に入るシミッチを徹底的に背中で消して中央エリアの経由という相手の選択肢を削除。その作業と並行してCBに向かうので、出し所を一つ失った状態の山村/田邉は余裕ある配給役にはなりきれず。
・⇩のようなシーンでは例え位置的不利に立たされても、新潟としては陣形を崩さずにパスルートを大体想定しているのでボール出てきたらアタックすればよい。
・そういった状況を打開するのも一つ期待されていたはずのゴミスだが、新潟は最終ラインと2CHの間を狭くする事で入ってくるボールに対して優位に処理できる構造を用意。この試合ではそこまでゴミスを経由するシーンが無かったが、元フランス代表を目立たせない準備を新潟が出来ていたと捉えてよいだろう。

高と三戸はパスコースを消す形にはなるが、脇坂/山根も常に監視対象に入る。

・新潟×川崎はリーグ戦,天皇杯と既に2試合が行われているので流石にチーム内では川崎に対する対策法が浸透してきたのだろう。ボールサイドに人を寄せて相手の目線を奪いながらポケット襲来/アイソレーション…という川崎お得意の方法論はボールサイド圧縮で無効化。仮に逆サイドに展開されても張っているのは本来ストライカーの小林悠なので大した危機は訪れない。
・ここ数試合で堀米が対人戦にかなりの不安を抱えているだけに、ACLを見据えたであろう家長の温存策はかなり有り難かった。

構造的欠陥を突き付ける新潟

・さて、この試合のトピックといえば川崎による4-3-2-1気味の守備陣形だろう。3topによる破壊力とのトレードオフに守備力を差し出す必要がある川崎。攻撃では反則級、守備にも奔走しますみたいなスーパーマンはまずJリーグに来ない。というか海外ビッグクラブでもそのような選手は殆ど存在しない。次期バロンドール候補のヴィニシウスジュニオールだってキリアンエンバぺだって守備には力を入れていないのが現実だ。
・しかしそんな彼らには他にはない唯一無二の独力があり、その恩恵をあやかるためにチーム全体でエースの守備放棄を覆い隠す構造を用意しているものだ。若干の差異はあるが川崎も然りであり、一応はそういった構造を提示してきた。
・ゾーン1からのビルドアップでは小島も含めて1-4-2-4のような陣形をとる新潟。川崎はWGが秋山/高をケアして2IHが新井/堀米に出ていく守備の仕組みを用意。
・これにより3topによる守備貢献を有効的な範囲で最小限に留めながら、新潟の生命線である中央のルートを塞ぐ事が出来る。外循環に追い込んで得意な事+エリアから遠ざけていこうという目標があったに違いない。

・しかしこのシステムではシミッチ+2IHで構成される3人の中盤への負荷が尋常ではない。タスクであるSBへの突撃も裏を返せば自分が元々埋めていたスペースを広大に空けてしまう。そこを明確に狙うのが鈴木や高木、更にはWG。川崎IHの移動に伴って空いたスペースを察知して降りる事で中央の綻びを突き付ける。
・更に、彼らを守るシステムだとはいえ結局3topの規制や誘導に綻びが生まれてしまうので、川崎MFは新潟2CHの監視も同時並行で頭に入れておく必要がある。そんなこんなで守るべきエリアとケアすべき項目が多いクリスマスツリー型。川崎としては守りづらく新潟としては突きやすいなど、アウェイチームに大きく有利に働いた構造となった。戦力的な事情から採るべき戦略が限定されていた川崎。新潟は試合前から有利な展開を引き出す条件が揃っていたのだ。

・新潟が良かったのは相手を見ながら崩しの意図を共有できていた所。
・中央を直進的に崩す際は片方が3MFの間に降りてCBを釣りだす→CBが空けた所に片方が侵入する。遠くを見れる秋山/千葉/小島と配給役は揃っている。阿吽の呼吸でスペースメイクと侵入を連続できる鈴木-高木コンビを珍しく2試合続けて採用したのはこうした狙いがあったからだろう。有料記事だが鈴木のコメントからも起用の意図が伺える。

・サイドを使う際は川崎3MFの外側で自軍SBに時間の貯金と共にボールを渡す事で崩しの起点を確保。シンプルにクロスを供給したりバイタルエリアに差し込んだりと、ゴールシーン以外でも存分に自身の価値を発揮してくれた新井。

・⇩のシーンが顕著だが、トーマスが1stラインを楽々超える→鈴木が遠野の横に降りて牽制→トーマスは浮いた新井に通して→中央/サイド/中央とレーン毎に段差を付けながらバイタルエリアに侵入。到達した手薄な逆サイドで数的優位を確保して最終的にフィニッシュへ。川崎を見ながら完全に狙いが合致した崩しであった。


・しかし先制点はフロンターレ。CKからの流れでシミッチに押し込まれてしまう。
・が、オフサイドラインにいるはずのゴミスがプレーに関与しているように見えた。DAZNで視聴していた方が気づくならば、映像を見て正確な判定を手助けする責任を請け負うVARルームで気づかない(指摘できない)というのは考えにくい話。一体どんな時間が過ごされていたのか…。

やる事は変わらず、変化を押し付ける

・新潟としてはタイトル通りの時間を過ごし続ける。クリスマスツリー型を継続する川崎に相手の保持を阻害する術はなく、虎視眈々と隙を伺っていく新潟。そんな中で同点弾。川崎からしたら安全地帯な箇所から放たれた三戸による予測不能なショット。跳ね返りを鈴木が冷静に押し込んだ。

・パリ五輪代表、その先の"見たことない景色"を掴むためかここ最近凄まじいパフォーマンスを魅せる三戸。垣間見えるエゴは良い方に左右し続けているので更に数字を伸ばして欲しいところ。海を渡るときはすぐそこまで迫っている。
・相手陣内に釘付けにする事でマルシーニョが牽引する破壊力あるカウンターを繰り出させず、保持では構造的欠陥を突き続ける。各局面を新潟に支配された川崎。前半終了間際に非保持陣形を4-4-2に変更する事である程度嚙み合わせをはっきりさせて後半に向けて布石を打った。

-後半から[4-4-2]にしたが?
(鬼木監督) システムに関しては、どうなるにせよ途中から2トップで前線を生かしながら、と(考えていた)。[4-4-2]だが、[4-2-4]のような守備。少しプレスのところで圧力がないと思ったので、そこで行きやすいような形にした

後半

・展開としては派手な45分間だったが、正直新潟目線ではレビューとして語れる事は少なかった。なので簡潔に。
・ACLを見据えてか小林悠とゴミスを下げて瀬川と山田新を投入した川崎。強度を高めて攻守に主導権を握ろうと形成を変えに来た。
・保持では新潟2topの右脇にシミッチが降りて運搬役を確保。張るSBやライン間で待機するIH/WGへの接続ルートを見つけたいところだったが、新潟は長谷川が内側を切った外誘導のプレスを見せる。その先では高が構えてるのでビルドアップの出口を塞ぐ形に、1stラインの数的不利を無効化するに至った。
・4-2-4気味にビルドアップの陣形をとる新潟に対しては人の嚙み合わせをはっきりさせて、CB→SBのパスを皮切りにワンサイドカットを狙うように。この修正が功を奏してマイボールの時間を増やすに至ったが、これを受けて新潟もダメージの与え方を変化させる。
・鈴木-高木がCBが出てこれないギリギリの箇所に降りてビルド隊に出口を与えたり、シンプルに背後を突いてライン間の空洞化を誘ったり。
・積極的なプレスに対しては相手を引き寄せるボール保持を見せる新潟。これまでの積み重ねを応用しながらゾーン2,3において加速した攻撃を実現させた。3点目とかまさにそんな形から。

・『信念は変えず手段は柔軟に』。監督が掲げるコンセプトを見事に体現した快勝劇であった。
・相手の修正に合わせて微調整を加えながら冷静に対処する戦い方はまさにレアルマドリーのそれ。大人な振る舞いを見せて勝ち点3に相応しい90分間を過ごした。

・濃密な試合内容の割に淡白なレビューだったので若干消化不良だが今回はこの辺で。


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