よき時間と思考の行方。生誕の躍年添えで一年が始まる。
年末。自らの振り返りを急にしたくなったのは、空気が深く澄んで音が乾いて聞こえるこの季節特有の一人沁みた空間のせいかも知れない。
一年の締めくくりに呑みに出掛けたくなったのは、自分が納得出来たからなのか、それを誰かに話したかったのかそれはわからない。
昨年、自分の周りに起きた出来事は自分の立ち位置を明確にしてくれて今後どうすべきかを知れる事だった。40年を生きて来て先がどれくらいあるかは明確ではないけれど、はっきりと自らがしたいことを言えるようになったのが「不惑」かも知れない。
そう思うとごく自然に親友である関西在住の彼に連絡を入れていた。日々の暮らしで連絡するような間柄ではないが、節目には連絡を取り合う小学校からの同級生だ。彼は昨年仕事上で大きな変化があった。それは喜ばしい事だし当然の事のようにも感じた。
社会的な地位を得ていく彼に刺激を受ける。自分は、その道に生きる価値をなかなか見出だせないままでいるが、それに対して嫉妬が起きないかと言われれば嘘になる。まぁ、私は器の小さい男である。
彼とは、学生時代からの約束がある。
「自分たちなりのエンターテイメント人生を全うすること」
これを約束してしまったばっかりに、お互いに馴れ合うよりは刺激を提供して付き合っている30年ということになる。
久しぶりの連絡は、
「年末に帰ってくるのかい?」
という私からの問いだった。
「今年は帰らない。そっちは誰かと集まるのか?」
こちらの誘いを意図してか聞いてきた。
「いや、集まらないな。お前の両親はそっち行くの?」
言ったのか、言わされたのか。
「暇してると思うよ」
「代わりに親孝行しとくわ」
それは私達にとっては必然で必要な事だったのかも知れない。私は彼の両親と彼の実家で年末を過ごす事にした。
自ら飲むビールとお土産を持参して彼の実家にお邪魔した。私の実家とは徒歩5分くらいだ。
自分の両親とほぼ同世代の彼の両親は、息子と変わらず等身大の私として接してくれる。
私は自分の親とは仲が良いワケではなく、お酒を飲むような事はほとんどしない。かといって嫌いなのかと言われれば「そうではない」と答える。
まぁ、複雑に素直になれない関係で良いと思っている。彼の両親は私が来るのを歓迎してくれてビールを注ぎ合い乾杯から始まった。
「何も用意出来てないから適当に食べて。そして、あなた全然食べないの知ってるからゆっくり食べながらやろうね」
そう優しく話す彼の母は、私の考えるところの用意出来ていないという概念を覆すほどにテーブルに料理が並んでいた。
和食中心のそのメニューは、ぶり大根やお刺身。酢の物。枝豆やししゃも、ポテサラなど。きっと考えて一口で食べられ、呑みながら喋れるものを用意しといてくれたのだろうと感じた。
乾杯のビールは、とても美味しかった。ぶり大根を摘まみながら一年を思った。
その一口目に至るまでにその日ずっと何を思うのか考えていた。
私は彼の両親に素直に自分の思いを話せた。人に話せる言葉になって初めて本当にやりたいことだと自分で認識している。今までもそうだ。聞こえよく言えば「有言実行」になるが、実際は自分が不安にならないようにイメージ出来るように言葉として発して逃げ場をなくしているだけなのだ。
やはり人としての器の問題だろう。お猪口だと思っている。すぐ溢れるが優しい口当たりで違う世界へ誘う。溢れながらも溢れたのは私のせいではありません。注いだ人のせいです。と言える感じだ。まぁ、周りもそれを理解していて笑いに変化させてくれている。
彼の両親は、息子に対して思っている事を真っ直ぐに伝えてくれた。そして、どこまでも謙虚に息子の事を考え心配しているようだった。
「考えるとあと合計で何日ちゃんと息子と向き合えるかわからない。帰ってきてもゆっくり呑めず、それこそもう20年近くまとまって帰って来ていない。今さら帰って来いとは思わないけれど、寂しいことは、寂しいな」
彼の父は、唐突に時間について私に語った。それは私を通して彼に言っているのか、私に直接言っているのか分からなくなるほど、年齢が及ぼし経験からくる純粋な言葉だった。
私はそれを羨ましく思うと同時に、どこか「親」というのも一人の「人間」だということを認識し、はぐらかすように相槌を打つので精一杯だった。
私は、彼の両親に彼の仕事の成功はとても嬉しく思っていると同時に、とても焦燥感に駆られている事も伝えた。素直な自分の心を素直に人に喋ったのは初めてかもしれなかった。
「僕とアイツは、互いに進む道は違いますが、互いに受け取る事が多いと思っています。アイツを凄いと思った分のこの気持ちは、僕は違った形でアイツに与えなければならないんです。だけど、どんどん先に行かれる現状はキツイです。追い付けない。それでもその繰り返しで僕達は良いと思っています」
私は人を尊重するが基本は負けず嫌いだ。
自分のマイナスを人に吐露することはほぼ無い。
だけど、彼の両親に言葉にした事で心が軽くなり逃げずにやらなければならないと納得出来た。
彼の母は、私の話を真正面から受け止めてくれて返事をくれた。
「あなたの事をあの子が同じように言ってた事を覚えているわ」
彼の父はグラスで表情を隠しながら語った。
「お前達は良い生き方してるよ」
生き方に良い悪いがあるかは分からないが、素直になれた夜の言葉を私は素直に受け取る事にした。
次の日、二日酔いの頭痛の中、彼からメッセージが来た。
「昨日はありがとう」
返事もめんどくさい私は一言。
「よき時間」
私達は、ここ三年会っていない。
まぁ、そんなもんです。
なんのはなしですか
私は酔っ払うと何も記憶に残らないのでこれはフィクションです。 覚えているとしたら、気になる女子に帰り道電話しようとして我慢した自分を褒め称えた午前1時を記憶から消したい。
41歳の躍年の記念。
連載コラム「木ノ子のこの子」vol.17
著コニシ 木ノ子(深夜の電話が好きな人)
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。