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僕のアドバイスは、痛さを伴う歴史を語る。

「膝が痛い」

僕は、この台詞を話す大人に憧れたことはない。
だけど、自ら発する時は大人になった時だと思っていた。大人になるとどうしたって膝に限らずカラダの一部に誇るような物語があるものさ。

この物語をこれから、父として走る大人に捧ぐ。僕が君達に出来るのはこういう事さ。

2016 娘マンモス幼稚園に入園する。
一学年、120名程になる。

初めての幼稚園に浮かれていたのは僕の方だ。
春、夏、秋、冬。それこそ色々なイベントがあり、イベントがある度に販売される写真にスマホ画面を見ながら、誰しもクリックが止まらなくなるものだ。

「どうしてこの写真購入したの?」

「どうして?君がその理由を知るのは不可能だ。僕にも説明出来ない事が起きたりするのが写真のマジックだ」

こうして、各家庭が揉めていた事だろう。

そんなウキウキウォッチングの僕がこのイベントを知ったのは、蟬が鳴く暑い日だった。このマンモス幼稚園には、父母が参加する運動会の花形種目に父母対抗リレーが行われる事を知る。

僕は、ワクワクした。誰でも一度は思うだろう。僕がヒーローになれるのはこの時だったんだと。僕はもちろん一周エントリーする🎽

ここからは、ハイライトで当日を振り返る。

映像を思い浮かべてね。

当日、会場が小学校のグラウンドを借りているためトラックのその広さに足が震える。

子供の出番そっちのけで、アップし始める保護者を見て、早くも場違いを知る。

本番、盛大にやらかす。アゴ上がる、足回らない、周りを巻き込みこける。

これにより、一年間こける人を見ると
「お父さん」と言われ続ける。

お父さんは、こける。

こけるお父さんになるなんて。

こんな事想像したこと一度もなかった。家での立場は悪くなるし、誰も運動会の事を話さない。僕は、この記憶を封じ込める事も出来たのだが、それじゃ子供に説明出来ない。誰かが言ったあの言葉、

「リレーの失敗は、リレーでしか取り戻せない」

それを心に刻んだ。僕は動いた。

ハイライト続けます。

2017 肉体改造続ける。スマホの検索履歴が

「短距離 脚が速くなる方法 短距離筋トレ」

で埋まる。自分史上最高の体が出来上がり本番を迎える🎽

グラウンドを見た瞬間
「こんなに小さかったっけ」と思う。

余裕からか新人パパに先輩風邪を吹かせる。

「意外と走ると足回らないですから。気を付けましょうね」

なんて、言えるようになる。

だがしかし、圧倒的1位でバトンを受け取ったため、最高の走りをするもむしろ評価が低くなる。

「走り方カッコ悪いし」

考えた事もない方向からの批判を受ける。

2018 娘年長、息子が年少になったため口が避けても軽々しく「エントリーするよ」なんて言えずに撮影に徹する。これは、アドバイスだ。

リレーに出るということは、子供の競技中にアップするということだ。まず、空気を読め。それから、余裕がありそうなら伺え。僕はこの年走らなくて正解だった。ちょっと人の子供を間違えて撮影してても怒られなかった。

大体遠くて同じに見えるから。自分の子供だからって光って見えないから気を付けてね。

ハイライト続きます。

2019 運動公園で短距離の練習をしていた時に、キレイな陸上部女子選手に見とれてしまい、その本格的練習メニューを真似した結果、本番3日前に軽い太ももの肉離れを起こす。

膝のバネが失くなってる事に気づけ皆。

「今さら代わりなんか探せないんだけど。まじなにやってんの」

と、人というものを見る目ではない形容することすら出来ない目で見られる。

スマホの検索履歴が
「太もも前 肉離れ テーピング」で埋まる。

本番、ガチガチにテーピングで固め順位をキープし、なんとかバトンをつなぐ。

尚、この肉離れはクセになり現在も引き摺る。

間違ってもカッコつけて真似などするなということだ。しっかり準備体操した方がいい。

ハイライト続きます。

2020 最終運動会。コロナで父母対抗リレーが、行われない事を半年練習していた一週間前に知らされる。

「言ってなかったっけ?」

軽く言われる。寧ろカッコ悪いから出なくて良かったじゃんと無駄に子供に慰められる。

当日グラウンドに立ち、今までの歴史を振り返り生まれて初めて空を見上げ、心の底からの

「無念じゃ」と声に出す。

これが、僕の膝と腿との歴史の一部だ。
人は知らずのうちにそのカラダに思い出を秘めている。

痛いという言葉の裏にはドラマがあるんだ。

その大人がどこか痛いと話した時は、
それ相応の歴史があるんだ。

そういう時は、こう返して欲しい。

「なんのはなしですか」

きっと思いもよらず泣けるはずさ。

誰かの役にこれから立って欲しいさ。

まだ走るチャンスがある人へ捧ぐ物語。


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