チンニング(懸垂)の随想
トレーニングをしていた。限界まで目指したチンニングは、目の前の視界をチカチカさせてきた。
「お前の話しを聞いていると、いつも一周するんだ」
彼は、仕事中の俺に話し掛けてきた。
「今、その話しをするのは時間が違う。それに手伝っているのは、お前の仕事だ」
彼は、俺の話しをろくに聞きもせずに、早口で口撃してくる。
「手を動かしながら話せよ。お前は、そうやって何もわからない、俺を見放して置いていくのか」
俺は、彼に言われた通りに、手を動かしながら話す事にした。
「いいか?言葉、行動、感情には全て裏があるんだ。つまり、ある一点に於いてそれは真実でもあり、嘘でもあるんだ」
彼はすかさず反論する。
「お前は、いつも表裏一体を唱えがちだ。俺は頭がぐるぐるする。お前が言うそれは、どっちでも真実じゃないか」
俺は作業を止めずに、努めて冷静に話す。
「お前は、それに気付いてるじゃないか。大したものだよ。言葉には、反対が存在するのは何のためにある?」
「それは、賛成があるからだろ」
俺は、彼の仕事を少し後回しにして彼に振り向いた。
「な?反対の反対は賛成なんだ。両者は一方で同じことを唱えてる」
彼は納得出来ないように、少し熱を感じる口振りで、喋る。
「手を止めるなよ」
言いながら、彼は手を止めて俺に語る。
俺は彼にわかるように喋る。
「止めるなよの反対は、止めろだ。お前は今動きを止めた。俺達は同じことをしている」
「屁理屈だ。なんにだって言えるじゃないか」
彼は呆れた笑いを浮かべて、作業をする。
「意味の反対は無意味」
彼は突然言い出した。俺は少し戸惑ったが、
「その通りだな。無意味な事もやれば意味があることになるのかもな」
言いながら俺は、作業をする。彼は作業を止めず、思い付いたように話し掛ける。
「なぁ、じゃ、『お前』の反対はなんなんだ?」
俺は、作業をしながらゆっくりと話した。
「俺の反対は、ある一点に於いてお前が望む答えを言うなら、『お前』でありたいね」
彼は、照れ隠しに作業を進めながら答える。
「ほらな、お前と話してもぐるぐるするだけだ。まるで終わりが無い円だ」
俺は、ゆっくり作業しながら伝える。
「それを縁とも言うけどな」
2人は、再び揃ってプチプチの数を数え始めた。
「なぁ、これ数える意味あるのか?」
俺は、プチプチをプチプチしたい衝動を抑えながら、彼に尋ねた。彼は、大量のプチプチを投げ出して、にやけながらこう言った。
「意味の反対は無意味なんだ。そこに意味を見出だすのは、結局のところ自分次第だ」
彼は、プチプチをプチプチしながら笑った。
なんのはなしですか
筋肉の反対は、脂肪。
結局のところ自分次第なのだから。
そして、
戦争の反対は、平和、幸せであることを望むし、難しいがそうであるべきだ。
連載コラム「木ノ子のこの子」vol.2
著 コニシ 木ノ子(お腹プニリストのダイエッター)
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。