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新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅

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国際指名手配犯となった妻を探すため、ロンドは小さい娘2人と旅をしていた。各国の著名人を狙った犯行を追う中で、手がかりを探していく3人。果たしてこの旅のゆくえは…。 主人公が途中…
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2022年6月の記事一覧

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件8.虚勢

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件8.虚勢

一通り話し終えると喉を潤した。時折見せるジルコニアの綺麗な歯列もまた彼の成功を物語る。自分を必要以上に大きく見せた経験は誰しもあるだろう。周りによく見られたい、すごいと思われたいという感情は、多寡はあれど人間の性。理性でコントロールしたところで、ないものにはできない。周りにどう見せるかだけの話だ。隠すことが美徳だと思う人、あえてひけらかし笑いにする人、心から自分は他者より優れてると信じ自慢する人。

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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件7.奇策

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件7.奇策

いまから数年前、社長は2人の常務のどちらかを後継者に据えようと考えていた。専務に昇格させ、経営手法や人脈などを少しずつ伝承するつもりだ。しかし、2人はどちらも優秀で甲乙つけ難い。そこで"ゲーム"をして勝った方を後継者にすることとした。もちろん遊びではなく、彼らの能力をきちんと推し量ることができる"ゲーム"である。

舞台は会社が最も力を入れている新プロジェクト。その開発には社内のリソースだけでは足

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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件6.機転

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件6.機転

 ええ、てっきりご存知かと。まあまあ立って話すのも疲れてしまいますからどうぞお掛けください。

身につけている装飾品同士がぶつかり、歩くたび耳につく音色を奏でていた。小柄だが恰幅がよく、声の通りは十分すぎるほどだ。パーマを当てているのか茶色っぽいフサフサの髪はクルクルと巻いている。3人は黄金に輝くソファに腰掛けると、秘書はタイミング良くコーヒー2つとオレンジジュースを提供し退室した。

 どこまで

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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件5.痕跡

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件5.痕跡

エレベーターホールや通路とは異なり中は煌々としていた。少し先には受付らしきものがあり、肌は白く髪は金髪ショート、明るめのグレーのスーツに身を包み、黒のストレートチップを履いた男性が1人佇んでいる。2人は彼の場所まで向かった。

 こんなに厳重なセキュリティは一体何のために…なんだか異様だな〜

 …。

歩きながら小声で呟いた。室外とは一変して壁紙や扉は白基調で明るい。気温もほどよい温度に保たれて

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ミステリー小説家ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件4.万全

ミステリー小説家ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件4.万全

 ぜひご面談をとのことですので、ご準備が整いましたらご案内させていただいてもよろしいでしょうか?

 ええ。ご案内をお願いします。
 バルカ、行こう。

娘の手を取り女性の後に付いてセキュリティゲートの前まで進んだ。そこには肩甲骨ほどまである黒髪ロングヘアの女性が立っている。アジア系の顔立ちで黒い細身のスーツと高いヒールがよく似合っていた。

 こちらの者がご案内させていただきます。

 幸引様、

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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件3.配慮

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件3.配慮

一般的には非公開でも、"星システム"はしっかりユールマラの事件を認識し、星の数が判定された。これも"上"のコネクションによるものだろうか。2人は長旅の疲れを癒すと、行動を起こした。"上"のコネクションはしばらく使えない。馴染みがなく知り合いは誰一人いない異国の地での捜査および捜索は心細くもあるが、彼らは類い稀なる優れた知恵と極めて豊富な知識、そして一通りの言語や武術などを使いこなす多数のスキルを持

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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件2.空虚

ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件2.空虚

首都から公共交通機関を使い30分ほどで目的地へ着いた。ここは暖かくとても過ごしやすい。2人は久しぶりの海を目の前にして波の音を聞きたくなったのか、チェックインを済ませるとすぐに砂浜へ出向いた。時には手を繋ぎ、時には子を抱き抱え、波と風と砂を踏む音を感じながら散歩を楽しむ。衣類の支給は途絶えたので洗濯が日課になった。白い洋服と、彼らの髪型、髪色、瞳はいつもと変わらずお揃いである。

ただ一つ違うこと

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