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ないものはない 〜世界一美味しいオレゴンの青空レストラン 2

有機無農薬の果物と野菜が育つグラスルーツガーデン、そこにはワクワクするようなサプライズがたくさん隠されていた。「ガーデンのプラムの木の下に住みたい」とまで言い出す娘。写真の記憶を辿りながらそんなガーデンの魅力に迫ってみたい。

グラスルーツガーデンは、目に入ってくる景色が変化に富んでいる点が印象的だった。平坦な土地ではあるが、果樹、低木、野菜、花など高さの異なる植物の配置を工夫することで景観にバリエーションを出している。日本庭園を研究したランドスケープデザイナーがこのガーデンの設計に関わり、借景の概念を取り入れつつ自然の生態系に配慮したという。

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外周にはプラム、梨、りんごなどの果樹が植えられ、キッチン付近にはブラックベリーやラズベリーなどの低木果樹が並んでいる。マメ科は高さのあるアーチ型トレリスに絡まり緑のトンネルになる。種から植えたとうもろこしも大人の身長より高く生長する。もとから自生する背の高い樹木たちも景観に奥行きをもたらし、木造の倉庫や事務所もガーデンの風景に溶け込んでいる。

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ガーデン中央には葡萄棚があり、そこには食卓用に年季の入った木製テーブルとベンチが設えてある。ランチタイムにはここが世界一美味しいレストランになるのだ。夏は黄緑色の葡萄の葉が涼を与えてくれる。

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食卓の準備はボランティアの仕事だ。6人がけのテーブルに綿のクロスを広げ、各テーブルに花を飾りミントの葉をたくさん入れたウォーターサーバーを置く。高さのある大テーブルにはアメリカンサイズの大きな取り皿とスープボールを人数分重ね、その隣にカトラリーを添える。地元で人気のパン屋さんが差し入れてくれたサワードーブレッドは厚切りにしてオーブンで軽く温め籐のバスケットに盛る。できたての熱々のスープの入った大鍋を青空キチンから運んでテーブルに置く。私も娘のミンモと一緒によく食卓の準備を手伝ったものだ。食卓からハーブ園と石窯を眺めながら深呼吸をすると気持ちが落ち着いた。

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ハーブ園にはバジルやタイムの他にも珍しいハーブが色々植えられていて、ミツバチたちがブンブンとかすかに音を立てながら戯れている。フェンネル、カモミール、バーベナ、ボレッジ、コリアンダー、ナスタチウム、ベイリーフ、ソレル(すっぱいから日本語では酸い葉と呼ばれるそう)、料理の味を演出してくれるハーブたちがたくさん育っている。

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ハーブは香りだけでなく、花の彩りも楽しめる。黄、紫、オレンジの花を摘んでエディブル・ハーブブーケを作って友人にプレゼントしたら感激してくれた。枯れた後もそのままキッチンに飾って料理に使ってくれたという。

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ハーブ園の脇に置いてある手押し車には地面に落ちたグリーンアップルがいつも無造作に集められていた。こんな風景がなんとも絵になるガーデン、いつも田園旅行した気分にさせてくれた。

ここで育つ野菜はどれも大きい。ズッキーニは大根より大きい。特大のズッキーニをたくさん収穫したときは薄いイチョウ切りにして冷凍保存にした。面白いのがそのズッキーニの茎で、ガーデンマネージャーのメリーが空洞の太茎を笛の長さに切って穴を開けて子供たちに持たせてくれたことがあった。「ズッキーニフルートよ。いい音がするからこんな風に吹いてみて」と音の出し方を教えてくれた。ミンモが吹くとちょっとクラリネットみたいな音がした。めちゃくちゃに吹いているのにジャズのアドリブのフレーズみたいに聴こえた。どの子も音がちゃんと出るまで夢中で吹いた。こんな体験をさせてくれるガーデンはたぶん世界に一つしかない。いつしかグラスルーツガーデンは私たち親子の暮らしにとって不可欠な存在となった。

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ガーデンには子供たちがかくれんぼをしたり秘密基地つくったりできるようなワクワクするようなスポットがたくさんある。遊びに夢中になってお腹が空いたら甘いプラムを、喉が乾いたら甘酸っぱいベリーを摘んでおやつにすればいい。窒素が豊富な土壌に育つオレゴン産の果実はどれも大きい。ミンモが、「グラスルーツガーデンのプラムの木の下に住むから、ビザが切れたらママだけ日本に帰っていいよ」と言うほど魅力的な場所だった。子供にとって、ここはきっと美味しいものやサプライズが詰まった宝箱みたいな所なんだろうな。(続く)

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