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365の日替わりランチメニュー 〜 世界一美味しいオレゴンの青空レストラン 5

シリーズ5回目の今日は、グラスルーツガーデンの青空レストランがなぜ「世界一美味しい」のか、楽しいお料理の話題を中心にその本質に迫ってみたい。

夏のグラスルーツガーデンはトマトが鈴なりだ。小さいチェリートマトから大きいのまで照りつける太陽の下で赤く色づく。オレゴン育ちのトマトは大きくて味もワイルド。一方、小さいチェリートマトはフルーツのように甘いので、収穫しながら味見するのが楽しくてたまらない。暑さで体力が消耗する時期、トマトの水分にはずいぶん助けられた。

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オレゴンの夏も気候変動の影響で最近は猛暑となる。30年ほど前はエアコンがある建物はほとんど無かったそうだが、今はエアコン無しでは過ごせないほどの暑さとなる。昨年の夏、史上最悪の森林火災でオレゴン州の貴重な森が多く失われたことは記憶に新しい。

夏のある午前中、表面がひび割れたトマトがたくさんキッチンに運び込まれたのを見て、スタッフのレーチェルが「今日のスープはトマトとレンズ豆のエスニックスパイス風味に決定!」と指示を出す。11時半、キッチン担当のボランティアが2名やって来て、彼女の指示のもと30人分のまかないランチの準備を開始する。

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収穫中、熟し過ぎたりひび割れたりしたトマトを見つけると、こうして青空キッチンへ持ち込んでまかないランチの材料にしてもらう。食べられないくらい傷んでいるのはコンポスト行きとなる。ここでは捨てられるトマトは一つもない。

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ガーデンのランチはすべてビーガン料理、メニューは毎日違う。当日ガーデンで収穫されたもの、お店が提供してくれた食材、ボランティアの人数、天候などといった変数がメニューに影響する。キッチンで指揮をとるスタッフによっても料理は大きく変化する。例えば、豆腐はたいていサラダやスープの材料になるが、デザート作りが得意なスタッフがいる時は豆腐チーズケーキが必ず食卓に上った。ビーガン料理は卵や乳製品は使えないためデザートの種類が制限されてしまうが、植物性の豆腐なら使って大丈夫。レモン風味のさっぱりした豆腐チーズケーキはレアクリームチーズケーキみたいでとても美味しかった。

とにかく365日同じメニューが出てこないのが青空レストランのすごいところだ。自然のめぐみと偶然が織りなす一度しか出せない味、食いしん坊な娘のミンモにとってサプライズの連続だ。ランチタイムが楽しみでたまらない。

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ミンモはキッチンでのお手伝いも大好きだった。トマトをつぶしたり、豆を洗ったり、野菜を切ったり炒めたり、実践を通して料理の基本を身につけた。30人以上まかえるような大きな鍋やアメリカンサイズの食器の準備や片付けも小さい手で一生懸命に手伝っていた。

ガーデン全体を見渡せる位置にあるキッチンの端には収納スペースがあり、皿類、鍋、カトラリー、ナイフ、テーブルクロスなど料理や食卓に必要なありとあらゆる物が所狭しと並んでいた。アメリカンサイズなのでとにかくどれも大きい。

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反対側の端には写真下のオフィス兼パントリーの小屋がある。パントリーには大きい冷蔵庫が二つ、中には収穫された野菜やスタッフがキッチンで作ったパプリカのピクルスやアップルソース等の瓶詰めが並んでいる。棚には地元のお店が提供してくれた豆類、米、粉類、パスタ、スパイス等がギッシリ並んでいる。ミンモは食材、食器、用具の保管場所をすぐに覚え、「オリーブオイルを取って来て」「大鍋を洗って持って来て」などとレーチェルから指示が飛ぶと、テキパキと動いた。

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12時半、準備が整うとレーチェルが「ラーンチターイム!」と叫びながら鐘を鳴らす。みんなほっとした表情で作業の手を止め、食卓に集まって来る。旬野菜をふんだんに使った彩り豊かな料理が迎えてくれると誰もが幸せな気持ちになる。暑さも疲労も一瞬のうちに吹っ飛ぶ。ミンモが選んで木のテーブルにかけたテーブルクロス、今日はトマトの色に合わせようだ。頭上では葡萄の緑の葉が涼を与えてくれている。なんて素敵なレストランなんだろう!

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写真上、テーブルの一番奥に見えるシルバーの大鍋はたぶんトマトスープとカレー風味のスープ。贅沢なことにいつも2種類のスープを楽しめる。中央にあるのはトマトの炊き込みご飯とトマトソースを絡めたリガトーニかな。写真から料理や味の記憶をたぐり寄せる。写真を眺めているだけでスパイスのいい香りがしてくる。

週末はボランティアの数が一気に増えるので、料理の種類も多くなりボリュームアップする。ガーデンで摘んだお花も食卓をいっそう華やかに演出してくれる。スタッフが中心になって毎日用意するランチはボランティアたちへの感謝の気持ちのしるしでもある。心を込めて料理を作り、レストランに迎え入れ、料理をサービスしながら一人ひとりにねぎらいの言葉をかける。ボランティアがレストランのお客さんになれる至福の時間だ。

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みんな自由気ままに大皿に料理を盛り付け、ボールにスープをよそい、好きな場所に座って食べ始める。汗を流した後の食事は格別だ。「Best restaurant in the world!世界で一番美味しいレストランだね」と互いにうなずきながらにっこり笑顔。地元で人気のパン屋さんが差し入れしてくれたサワーブレッドは、オーブンで温められて外はカリッと中はもっちりだ。ボランティアをしないでランチだけ食べに来る人もいたが、世界一のレストランはその辺は寛容だ。独り暮らしでさびしいのかもしれない、なにか辛いことでもあったのかもしれない。そう、グラスルーツガーデンでは取り残される人は誰一人いない。

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ガーデンに訪れる人のバックグラウンドは多様極まりない。さまざまな国籍、民族、人種、文化が集まるグローバルビレッジだ。学生、先生、近所の住民、農家の人、会社員、造園業の人、教会のグループ、かつてアル中で苦しんだ人、障がいを持つ人を含め、老若男女、男でも女でもない人、とにかく地球上のありとあらゆる人が集まってくる。そんな人間模様が料理に特別な風味を加えてくれる。

「こんなレストラン、きっと世界のどこにもないね」と、ミンモがよく言っていた。私たち親子がいただきますと手を合わせているのを見て、何の挨拶なの?と興味津々に聞いてくる人もいた。そこから日本や各国の料理や食事のマナーの話に花が咲いたこともある。

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さて、秋の訪れとともにトマトの収穫は終わりを迎えるが、最後の収穫は大鍋で火にかけて瓶詰めにされる。こうしておけば夏の太陽のエネルギーを浴びたトマトをずっと閉じ込めておけるから。冬に食べると元気をもらえる。ここで四季のメニューを少しだけ駆け足で紹介しよう。

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秋はパプリカのピクルスがよくランチに登場した。青空キッチンでピクルス作りを習得したので自宅でも作ってみた。簡単にでき色が綺麗で長持ちするのでお弁当の彩りに最高だった。

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冬は雨季で12月ごろは雪も降る。作物の種類は減るが、ケールなどの葉物はいつでも収穫できた。自生する雑草のグリーンサラダはクセがなくて美味しいと好評だった。ひまわりの種とドレッシングをかけて召し上がれ。

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冬のアウトドアキッチンは寒くて水仕事が辛いが、ミンモは友だちのエラと一緒に楽しくお手伝いをした。二人がふざけることがあってもスタッフのチャドが忍耐強く付き合ってくれた。

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春はビーツのスープとビーツのココナツ風味炊き込みご飯が定番だった。ビーツのピンクは日本の自然界の色としてはあまり見かけないパープルピンク、鉄分が大変豊富に含まれているそうだ。

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そして、春は目覚めの季節。さみしかったガーデンにたくさんの苗が植えられ冬眠していたボランティアたちも戻ってくる。もちろん食卓の料理の数も一気に増える。手前のデザートはアップルシナモンクッキー。

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四季折々365日、どの料理も本当に素晴らしかった。それは自分たちで食べるものを自分たちで育て、仲間と一緒に料理をして食べるから。それだけのこと。人と大地とのつながり、人と人とのつながりが魔法のスパイスを料理に添えてくれるのだ。

ガーデンの食卓での一コマが、このような状況下では、懐かしく感じられてならない。(続く)

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