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BOOK REVIEW vol.070 傘のさし方がわからない

今回のブックレビューは、岸田奈美さんの『傘のさし方がわからない』(小学館)です!

以前、岸田奈美さんの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)のブックレビューを書いた。振り返ってみると、まだブックレビューを書き始めたばかりの頃(2023年9月)だったことを思い出し、一人驚愕している。あれから瞬く間に月日は過ぎ、当時はvol.10だったレビューも、何とかvol.70まで漕ぎ着いた。まだ先は長いけれど、何だかとても感慨深いな。。

昨日の午後、積読中の書籍たちを横目に見ながら、本棚からスッと抜き取ったのは、岸田奈美さんの『傘のさし方がわからない』だった。私にとって岸田さんは、心が乾いてしまったとき、うまく笑えなくなったときに、無性に読みたくなる作家さんの一人。“心の拠り所”というと少し大げさに聞こえるかもしれないけれど、岸田さんの文章には、人を元気にする不思議なパワーが宿っているとわりと本気で思っている。

山あり谷ありのドラマのような人生、ご家族への想い、数あるほっこりエピソード、「そんなことある!?」と耳を疑うようなアクシデントが頻発する日常に、エッセイを読みながら、驚いたり、泣いたり、笑ったり・・・感情がめまぐるしく動く。でも、そんなエピソードの数々を読んでいると、乾いた心が次第に潤い始め、凝り固まっていた表情筋も、ゆるゆるに緩んでいることに気づく。泣きながら笑ったり、時折ツッコミを入れているうちに、冷え切っていた心がふっくらほかほかに仕上がっているから不思議だ。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』に引き続き、『傘のさし方がわからない』にも、岸田さんと岸田家のみなさんのエピソードが山盛りに詰まっている。その中でも『全財産を使って外車を買った』というエッセイはやっぱり名作で、亡くなったお父さんへの想いにぐっとくるし、『スズメバチを食べたルンバ』は、スズメバチと格闘する岸田さんの姿がリアルに脳裏に浮かび、何度読んでも笑ってしまう。『弟がひとりで美容室に行ってて、姉は腰を抜かした』もすごく好き!

同じ本を繰り返し読んでいると、読むタイミングによって心への響き方も変わってくる。そういった意味では、『わたしが未来永劫大切にする、たったひとつの花束』というエピソードが、今の私の心にはとても響いた。「私にとって“豊かさ”とは何だろう?」とあらためて考えさせられ、それと同時に、「私が何時間でも、夢中でやり続けられることとは? 熱量高く人に伝えられるものって何?」という疑問も浮かんだ。正直なところ、いくつか思い浮かんだ単語はあるけれど、「絶対にコレ!」といった答えは見つけられず・・・焦りと不安を感じたのも事実。でも、答えは一つじゃなくていいし、変わって当然だということを岸田さんから学んで、心がずいぶんと楽になった。

あらためて、岸田さんの型にはめすぎない考え方と、ポジティブさが好きだなぁと思った。エッセイを読んでいると、日常生活の中で「こうでなければならぬ!」とガチガチになった心が、少しずつほどけていく感じがする。おそらくここ最近の私は、何でも“杓子定規なやり方”を通そうとする自分自身に嫌気が差していた。だから昨日は無意識に、岸田さんのエッセイに手を伸ばしたんだと思う。乾いた心に染みわたる笑いと涙は栄養となり、「明日からまたがんばろう」という活力になる。久しぶりに岸田さんのエッセイからパワーを補充できたおかげで、私の心も充電完了!ふっくらほかほかの心で、また前を向いて進んでいけそうな気がする。どこか親戚のような親しみを感じる、岸田さんと岸田家のみなさんには感謝しかありません^^

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