見出し画像

映画「男と女 人生最良の日々」~53年後の男と女

フランス映画「男と女」の完結篇ともいえる「男と女 人生最良の日々」を先日観た。この二つの作品の間に「男と女 II」という続編もあったようだが、それは未見のまま。


「男と女 人生最良の日々」は、かつて愛しあった元レーサーの男と元映画プロデューサーの女の、長い年月を経た再会が描かれている。
息子に施設へ入れられたジャン=ルイは、時々記憶が飛ぶようになり、夢と現実の境界が曖昧になっている。
息子は父の最愛の女性だったアンヌを探し出し、アンヌは施設にいるジャン=ルイに度々会いに来るようになる。

車椅子に座っているジャン=ルイ・トランティニャンは、若い頃よりふた周りくらい小さくなった感じで、沢山の皺が刻まれた顔と痩せた姿はちょっと胸に迫るものがあったが、アヌーク・エーメはまだ昔の面影があった。
アヌーク・エーメは、知的でお洒落でクールな色気のある大好きな女優さんだった。アンヌ役でのセンター分けのボブヘアに憧れて、私も長年同じ髪型にしていたものだ。
レーサーのジャンより、個人的にはピエール・バルーが演じたスタントマンで自由人だった亡き夫ピエールの方が好み。アヌーク・エーメとピエール・バルーは「男と女」を撮り終えたあと実生活でも短い間夫婦だった。
ジャン=ルイ・トランティニャンもアヌーク・エーメもすでに90歳近くになり、さすがに衰えは隠せないが、その年齢でまだ現役で演じていることに深い感慨を覚えた。そして二人の実人生も透けて見えるような、幾つになろうと、男と女としても現役なのがすごいなぁと思ったり。
ジャン=ルイ・トランティニャンは今年6月に永眠していたことを、先ほど調べて知った。この「男と女 人生最良の日々」が遺作となってしまった。
生涯俳優人生を全うした91歳であった。

老いたジャンとアンヌが二人で話す場面は昔話が多く、1966年公開の「男と女」のシーンがたびたび挿入され、ダ~バ~ダ~ダバダバダ~ではじまるフランシス・レイの名曲も流れ、ちょっと総集編のような雰囲気もあった。
53年前、ドーヴィルのホテルでの気まずい別れの後、ひとりパリへ列車で戻るアンヌを追いかけ先回りしようとしたジャンが、早朝のパリの街中をフェラーリで疾走するシーンは、手に汗握るような迫力で目が離せない。
信号もぜんぶ無視し、エンジンの爆音と共に猛スピードで街を駆け抜けてゆくジャンのフェラーリ。
この車のシーンは短編映画「ランデヴー」からの編集映像らしいけれど。
どうやって撮ったの?と思ったら、当時は無許可のゲリラ撮影だったとか…。
この後、クロード・ルルーシュ監督は道路交通法違反で逮捕されたらしい。
そんなスリリングなシーンのあと、駅で待つジャンを見つけたアンヌは、全身に喜びを溢れさせジャンの胸に飛び込み、二人はしっかりと抱き合うのだった。
いやぁ…こんな情熱的なことされたら、ズキューンと心撃ち抜かれちゃいますよね。

しかしその後、二人は人生を共にすることはなかった。
お互い別の人と再婚し、今では孫もいる二人。

本棚を探したら、「男と女」のパンフレットが出てきた。共に海を超え今も私の手元にあった(泣)。
冬のドーヴィルの海岸で、お互いの子供も一緒のシーンが良かったなぁ。
「男と女」を名画座のリバイバル上映で観たのは確か10代の終わりか20代初め頃。男女の心の機微など分かるはずもなく、だけどフランス映画が醸し出す大人の恋愛の情感に憧れたなぁ。
しかし何十年も前に観た映画は、もうどれもほとんど内容を覚えていない…私も衰えたな…。

「男と女」映画パンフ 昭和47年公開当時のものを完全復刻したとあった

若い頃憧れたパリ。
あれから長い年月の中で幾つもの出会いと別れがあり、なぜか今私はヨーロッパの端っこで暮らしている。
私のように、自分の若い頃を思い出しながら観ている人も多い作品ではなかろうか。

そして「男と女」から53年という時を経て、同じ監督、主役の二人が揃い、完結編を撮れたということだけでも、この作品は奇跡ではないかと思った。




この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,217件

#映画感想文

67,494件

いただいたサポートは、日本のドラマや映画観賞のための費用に役立てさせていただきます。