見出し画像

手前味噌への道

私はほぼ毎年、味噌を仕込んでいる。

こう聞くと、いかにも私がマメな人間で、やっぱり味噌は手作りの方がだんぜん美味しいものね、と思った方もいるだろう。
ところが私の味噌は…家族の誰からも喜んでもらえない…

なぜか?

これまでの味噌は、毎回蓋を開けた瞬間から

なんじゃこりゃぁあっ!!!

by 松田優作(太陽にほえろ ジーパン刑事殉職シーン風に)

思わず自分でも叫んでしまうような、不穏な代物が出来上がっていた。

色はドス黒く、ボソボソだし、潰しきれなかった大豆が粒餡みたいにゴロゴロ入ってる、見るからにやっべえ味噌なのだ…
そして味の方も、毎回分量をちゃんと計算して作っているにもかかわらず、物凄く塩っぱい


3年前の味噌なんて、アルコールを染み込ませればカビ防止になると何かで読んで、内蓋として敷いている和紙にこの国お馴染みの "消毒にはウォッカ" を吹き付けておいたら、見事にウォッカ臭の味噌が出来上がった…(驚愕)
そこはかとなくウォッカの香りがする味噌…
ウォッカ大好きな夫でも、これは流石に喜ばないだろう…
だいいち、この国の空気はかなり乾燥しているので、これまでもたいしてカビが発生することなどなかったのだ。
カビより、臭いと味の心配をしろ!自分。


4年前の味噌なんて、今までで一番最悪だった。
なぜか味噌汁にした時だけ、腐った雑巾のような臭いがした…

夫:なっなんだコレはっ!? ヘドロ臭いぞ!!(恐怖に目を見張る)
息子:お父さん…ボク飲みたくないよ…(鼻をつまむ)

家族からも、恐ろし過ぎて飲みたくないっ!とクレームがついた代物 (苦笑)
しかし、肉の味噌焼きなどに使うと全く臭わず平気だったので、家族には内緒でもっぱらその調理方法で消費した。何も知らない彼らは美味しいと言って食べてくれたが、ちょっとした毒を盛ってる気分だった… (苦笑)
どうしてあんなに味噌汁にすると臭かったのか、焦って調べてみたら醗酵が足りないとあったので、数ヶ月よけいに寝かせたら少しマシになったが、完全に臭いがなくなったわけではなく、全部使い切るまでにはかなりの時間を要した。
悪くなっていたわけではなかったし、食した後にお腹が痛くなったことも一度もなかったのだが…。

味噌は、その土地の空気や、自然にいる菌なども味に関係してくるらしい。
だから条件が日本とは違うこの国では、どうしても風合いや味が変わってしまうのかもしれない。
とか言い訳してるけど、それを加味しても私の味噌の出来は、毎回ビックリする程ひどい…。

そしてよく考えてみたら、日本から乾燥麹を取り寄せたり、ちょっといい塩を自然食品店で買ったりしてると、いつも高いなぁと思ってる日本食材店で売られている市販の味噌の方が、実はトータルでは安いくらいなのだ。
もうさぁ買った方がいんじゃね?と何度も心の中の悪魔が囁くが、しかしこんな不味い味噌しか作れないまま諦めるのが、ぐやじい…。
自分、けっこう凝り性で執念深い質なもんで(笑)
それに、手作り味噌だと添加物とかも入ってないし!と、まぁ自己満足だ。
子供の頃は、何かというと添加物は悪!という母を煩いなぁと思っていたのに、今じゃ加工食品を買う時はつい裏の成分表を見てしまうし、息子が毒々しい色のジュースやお菓子などを買ってくると、合成着色料が!添加物が!と煩く言ってしまう自分に思わず苦笑してしまう。
育った環境の影響って、やはり大きい。

せめてもの救いは、こんな酷い味噌しか作れなかったわりに、なぜか息子は味噌好きに育ったということだ。
おやつがわりに胡瓜に味噌をつけてポリポリ食べてる。肉の味噌焼きも好きだ。
味噌汁も好きだが、こちらは上記のような出来事があり、市販の味噌を使ったものしか飲んでくれなくなった…。まぁ当然か。


これまで、失敗の原因をいろいろ探ってきた。

粒が残らないところまで大豆を潰しきれない
圧力鍋を持っていないので、普通の大鍋で朝から7、8時間もかかって大豆を茹でているが、こちらの国はオール電化が一般的で、キッチンも電磁調理器なので長時間茹でてもなかなか指で潰せるくらいまで大豆が柔らかくならない。
しかし一昨年越してきた今の住居は、珍しくガスレンジが備え付けられていた。やはりガスは火力が全然違う。
大豆を潰す時の方法も、ビニール袋に入れて足で上から踏んづけたり、瓶を転がして潰したりなど試したが、私は非力のため、今はフードプロセッサーに頼るところに落ち着いた。

水分が少なくボソボソした味噌になる
こちらの国は空気が乾燥気味なので、茹でて潰した大豆と塩切り麹を混ぜる時に足すぬるま湯の量が、日本のレシピ通りだと足りないのではないか?
味噌を仕込んでいると上にあがってくるはずの "味噌たまり" がいつもほとんどない。

以上の点に注意して一昨年は仕込んだ。



そして、苦節6年!
この度やっと満足のゆく味噌が完成した!!

ちょっと、ちょっと、見てやってくださいよ~



見た目の色も普通にキツネ色だし、状態も程よく水分があり滑らか。
香りもまともだし、味も変なクセがない
第一印象からして、これまでの味噌とは雲泥の差だ。

「コノ味噌、美味しいネ!」と夫にも息子にも、初めて言ってもらえた。
久しぶりに味噌汁にしたら、おかわりが殺到。
いやぁ夢のようだわ。

今後のために記録を残しておく。

大豆 969g
乾燥麹 900g
ポルトガル産 海塩 259g
一般的な海塩181g

いつもより長めに一年以上も寝かせておいたので熟成が進んでいる筈が、ドス黒い色にはならなかった。
私はいつも天地返しはしないが、いつもより足し水を多めにしていたにも関わらず、カビも全く発生していなかった。
日本では冬に寒仕込みがよいとされているが、こちらの冬は自動的にセントラルヒーティングが入り建物ごと一日中25度くらいに保たれ暖かいので、家の中に寒い場所がない。ヒーティングが切れる5月くらいからの方が、仕込み時期としてはよいのではと思っている。


手前味噌への道は険しく、奥が深いーー

そろそろ次の味噌を仕込もうか。
これまでの注意点を踏まえて、今年はもっと美味しい味噌を作りたい。
粉末状の乾燥麹というのもあることを知り、昨年の一時帰国ではこちらも手に入れた。こっちの方が塩切り麹も作りやすそうだ。

これからも精進し、丹精込めて美味しい味噌を作ってゆきたい。
って、私のことだから言う程のものは作れないだろうけど(苦笑)




この記事が参加している募集

つくってみた

いただいたサポートは、日本のドラマや映画観賞のための費用に役立てさせていただきます。