タカシとアヤの「好き違い」
社内起業家の皆さん。
このお話が新規事業開発において学ぶところがあったことに気づきましたか?
新規事業の世界では、革新的なアイデアが生まれた瞬間、そのソリューションに酔いしれてしまうことがあります。
しかし、この「ソリューション酔い」こそが、多くの新規事業を失敗に導く落とし穴となっているのです。
私、藤塚洋介は新規事業開発のコンサルタントとして、70以上のプロジェクトに携わってた経験から、この問題がいかに深刻で、かつ普遍的であるかを痛感しています。
この記事ではタカシとアヤのストーリーから一緒に学んでいきたいと思います。
なぜソリューションに酔ってしまうのか?
新規事業の立ち上げ時、チームは高揚感に包まれます。
「これこそが市場を変える革新的なソリューションに違いない!」と確信し、その熱気に包まれてスタートを切ります。
しかし、この熱狂が思わぬ落とし穴となることがあるのです。
この企業の失敗例
ソリューション酔いの症状
こんなストーリー、怖いですよね。。。
そうならないために一緒に考えていきたいと思います。
社内起業家の皆さん、PSFからPMFステージで、これらの症状に心当たりはありませんか?
例えば、あるITベンチャーは、画期的な業務効率化ツールを開発しました。しかし、顧客からの「使いづらい」という声を「ユーザーがツールの良さを理解していない」と解釈し、機能の説明に注力。
結果、売上は伸びず、チームは「商品はいいのになぜ売れないのか」という議論に多くの時間を費やすことになりました。
なぜ危険なのか?
ソリューション酔いは、新規事業の成功を大きく阻害します。
先のケースでは、アンケートという定量データからできたアプリでした。
データ量は豊富だったものの、ユーザーの深層の課題を拾うことができていなかったのです。
最初にログインしないユーザーが続出した時点で、その原因を徹底的に分析するだけでなく、そもそもユーザーにとって本当に重要な課題かどうか見極める必要があったのです。
それではソリューション酔いの危険の内容を見ていきましょう。
危険1:「それほど重要な課題では無い」ものに対し商品を作ってしまった
ユーザーは、時には自分自身も本当の課題に気づいていないことがあります。
ですが実際の商品・サービスにお金を払う瞬間には
「重要かつ未解決の課題」
にのみ反応するのです。
アンケートで表層の課題は取れますが、その下に潜む本質的な課題を見つけ、真の原因に刺さる解決策を探す必要があります。
危険2:「ユーザー体験が悪かったから」使っていないのかもしれない
あなたの商品がターゲットの「重要かつ未解決な問題」だったとして、その「解決策」が提供できていても、そこに辿りつく「体験」が悪いから使ってくれない、買ってくれないケースがあります。
例えば、ユーザー登録の画面が難しい、操作がわかりにくい、期待した効果と違った。などです。
試作品を販売する時に
「売れた」「売れない」
や商品の「良さ」「悪さ」「価格が高すぎた」
のような項目だけで判断するのではなく
売れないなら購買までのタイミングの
「どの地点で離脱したのか」
を正確に把握する必要があります。
危険3:使った効果が「ユーザーの成功基準」を満たしていない
解決策までのユーザー体験もスムーズで、あなたのアプリを使ってくれたとしましょう。
しかし、効果が「顧客の成功基準」に満たないとどうでしょう?
例えば、もともとある業務が30分かかっていたとして、あなたのアプリを使うと、平均5分にできるとしましょう。
ものすごい効果ですよね!?作った側は誇らしくなるでしょう。
しかし、ユーザーはそもそもその業務を無くすのがGOALだとしたら?
5分どころか1分にしたとしても、その仕事が残るのだったら
「あってもいいけど、お金をかけてでも導入はしない」
となる可能性が高いのです。
「技術的には限界なのに、顧客はわがままだ」
「コストをこれ以上かけたって払ってくれるの?」
と思うかもしれません。
しかし提供者の悩みは顧客は気にしないのです。
作ったばかりの商品に愛着が湧いているあなたは、
「だったらこの商品に合う顧客を探す」
となってしまうのもうなづけますが、それではイノベーションは起きにくいのです。
解決への道筋
では、このような落とし穴を避けるにはどうすればよいのでしょうか?
私の経験から、以下のアプローチを提案します。
1. 顧客の本質的な課題に焦点を当てる
ソリューションではなく、顧客が抱える本質的な課題に注目しましょう。課題の深さやユニークさを十分に理解することで、より適切な解決策を見出すことができます。
そのためにはインタビューの質を上げるのが欠かせないのですが、そのテクニックについては別の記事で「聞き手は名監督!?できる人のユーザーインタビューの備えとは」で紹介しているので興味がある方はご覧ください。
実践のポイント:
2. プロトタイプは「捨てる前提」で作る
初期段階では、完璧な製品を目指すのではなく、最小限の機能を持つプロトタイプを素早く作成します。
そして、ユーザー体験レベルで効果測定し評価の上どんどん作り替えていくのです。
変えるべきはターゲットでなくその課題の深さに気づき、解決策としての商品・サービスの方なのです。
チェックリスト:
3. 柔軟性を保つ方がうまくいく
当初のアイデアに固執せず、仮説検証の過程で見つかったプロトタイプを作り替えるだけでは足りない。
「そもそも解決策が違う」と気づいたら新たな解決策にも目を向けます。
以前に「値決めのワナ」の記事でもメインの解決策が違っているのに気づきMVPをごっそりピボットした例を載せていますので、興味がある方はご覧ください。
4. コストと時間の管理
プロトタイプ開発に過度の時間とコストをかけないよう注意します。
「捨てられない」ほどの投資を避けることで、柔軟な意思決定が可能になります。
時間とコストの目安:
プロトタイプ開発期間:2-4週間
初期投資額:総予算の10%以内
恋愛ストーリーからの教訓
冒頭のアヤとタカシのストーリーは、新規事業で「ソリューションに酔う」状況を象徴しています。
アヤがハンバーグに夢中=一つの解決策に固執する起業家。
彼女は最初の成功【タカシがハンバーグを好きだと言ったこと】に夢中になり、それを進化させることに注力していました。
しかし、本当の顧客【タカシの深層のニーズ】に気づいていませんでした。
ビジネスでも、同じアイデアや解決策に固執するのではなく、顧客との対話や協力を通じて柔軟に対応することが成功の秘訣です。
タカシとアヤが一緒に煮物を作るように、起業家と顧客が協力してより良いソリューションを作り出すことが重要です。
さいごに
タカシとアヤのように、「一つの解決策」に酔うのではなく、真のニーズに向き合い、時には協力しながら新しい方向性を見つけることが、新規事業の成功の鍵です。顧客と共に進化し続けることで、関係もビジネスも豊かになっていくのです。
タカシとアヤのように、ソリューションに酔うことなく、顧客価値の創造に焦点を当てた新規事業開発に挑戦してみませんか?
※この記事の課題はMOONSHPT WORKSの「スキルCUBE」でさらに深く学べます。ご興味ある人は覗いてみてください。
用語解説【マーケットインとプロダクトアウト】