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「恋とビジネスは同じ?新規事業でソリューション依存を克服する方法」

タカシとアヤの「好き違い」

何気ない「好き」からすれ違いが始まる
タカシとアヤは、同棲してもうすぐ3ヶ月になる仲の良いカップル。

ある日、夕食の献立の話になり、タカシが何気なく
「やっぱり肉かな、ハンバーグが好き」
と言ったことから、アヤは彼のためにハンバーグや、お肉を中心とした洋食を毎日のように作り続けてきました。

アヤは、チーズハンバーグや、洋風のトマトソースハンバーグなど、さまざまなバリエーションでタカシを喜ばせようと頑張っていました。

しかし、実際のところ、タカシは本当は和食が好きでした。
特に、さっぱりとした煮物や焼き魚、味噌汁などが大好物だったのです。

けれども、アヤが一生懸命作ってくれるハンバーグを前に、
いまさら「和食が食べたい」なんて言えません。

煮物など手間のかかる料理を頼むのは、忙しい彼女に負担をかけてしまうのではないかと、優しさから黙っていました。

本音を語れないタカシと、気づくアヤ
ある日の夕方、アヤがいつもより早く帰宅すると、在宅ワークのタカシがランチで食べた、お弁当のゴミに気づきました。

【おばあちゃん自慢の焼き魚弁当】と書かれた本格的なお弁当のパッケージを見て
「ひょっとしてタカシ、お肉より魚派なの?」
とタカシに聞きました。

タカシは今しかない、と意を決して
「アヤ、実は…僕、和食が好きなんだ」
と打ち明けました。

すると、アヤは少し驚いた表情を見せたものの、すぐににっこり笑って
「良かった、今日は和風おろしハンバーグよ!」
と言いました。

タカシはその時、彼女が自分を喜ばせたい気持ちで頑張っていることを感じながらも、
「たまにはいいけど、本当に毎日僕が食べたいのは魚とか煮物なんだよな…」
と、心の中でつぶやきました。

クライマックス:
その夜、タカシはもう一度勇気を出して、
「実は…ハンバーグや洋食も美味しいけど、毎日はちょっと。。。普段は魚中心で、煮物とか和食が食べたいんだ」
と伝えました。

アヤはその言葉に唖然として、しばらく考え込んでしまいました。
自分がずっと「ハンバーグが一番だ」と思い込み、タカシの本当の気持ちをちゃんと理解していなかったことに気づいたのです。

「煮物って、慣れてないと味付けが微妙で難しいでしょ?タカシはそれで言い出せなかったの?」

「うん。アヤに負担をかけたくなくて…でも、やっぱり食べたくてさ。」
「俺、おばあちゃんの家で育ったから本当は煮物のレシピ詳しいんだ。」

その時、アヤは笑顔で言いました。
「なあんだ。だったら、一緒に作ろうよ!二人で作れば楽しいし、私の負担も減るでしょ?それに、お父さんは釣りが好きで実家の冷蔵庫はいつも魚だらけで食べきれないの」

タカシはアヤの優しさに驚きながらも、嬉しそうに頷きました。
そして次の日、二人は一緒に台所に立ち、魚の煮物を作ることになりました。

タカシはアヤに自分の好きな和食のレシピを教えながら、アヤも新しい料理に挑戦し、二人で料理する時間を楽しむようになったのです。

物語はフィクションです

社内起業家の皆さん。
このお話が新規事業開発において学ぶところがあったことに気づきましたか?

新規事業の世界では、革新的なアイデアが生まれた瞬間、そのソリューションに酔いしれてしまうことがあります。

しかし、この「ソリューション酔い」こそが、多くの新規事業を失敗に導く落とし穴となっているのです。

私、藤塚洋介は新規事業開発のコンサルタントとして、70以上のプロジェクトに携わってた経験から、この問題がいかに深刻で、かつ普遍的であるかを痛感しています。

この記事ではタカシとアヤのストーリーから一緒に学んでいきたいと思います。


なぜソリューションに酔ってしまうのか?

アイデアに酔ってはいけない


新規事業の立ち上げ時、チームは高揚感に包まれます。
「これこそが市場を変える革新的なソリューションに違いない!」と確信し、その熱気に包まれてスタートを切ります。

しかし、この熱狂が思わぬ落とし穴となることがあるのです。

ある食品メーカーの新規事業チームは、「我々はマーケットイン型、ユーザー視点で」事業を創るのだと、大規模なユーザーアンケートを行いました。

そして、その情報をもとに、AIを活用した個人向け栄養管理アプリを開発しました。
技術的には画期的で、チームは自信に満ち溢れています。

しかし、実際のユーザーテストでは、有料で最初に少し使ってくれたものの徐々に使わなくなり最終的にログインすらしなくなったのです。

チームは技術の素晴らしさに酔い、ユーザーの中で優先順位の低い課題のソリューションを作ってしまったのです。

この企業の失敗例

ここでユーザーの再調査を行い、間違いに気付けば良かったのですが、アプリに愛着が湧き、

「きっと合うターゲットがいるに違いないから探そう」
「営業方法が悪いのかもしれない」「販売のプロに頼もう」
「あんなに開発費をかけたのだから投資対効果が問われる」

アプリがハマるターゲットを探し出すことにしました。

販売のプロは多少ニーズにフィットしていなくても強引に受注してきました。
そして、新しいターゲットに出会うたびに「ユーザー視点」で要望を満たす機能を追加していくことで開発費は膨らんでいき、「大きな投資をしている後戻りできないプロジェクト」になりました。

そして、考えられるターゲット全ての実験が終わり、十分なマーケットニーズが無いと気付いた時、2年の月日と回収不可能な開発費がかかっていたのです。

ソリューション酔いの症状

こんなストーリー、怖いですよね。。。
そうならないために一緒に考えていきたいと思います。

社内起業家の皆さん、PSFからPMFステージで、これらの症状に心当たりはありませんか?

1.当初のターゲット顧客から頻繁に変更している。
2.顧客ニーズよりも製品機能を優先したことがある。
3.市場調査よりも製品開発に時間を費やしている期間が長い。
4.ユーザーニーズを満たすためにメイン機能以外を多く追加している。

例えば、あるITベンチャーは、画期的な業務効率化ツールを開発しました。しかし、顧客からの「使いづらい」という声を「ユーザーがツールの良さを理解していない」と解釈し、機能の説明に注力。

結果、売上は伸びず、チームは「商品はいいのになぜ売れないのか」という議論に多くの時間を費やすことになりました。

なぜ危険なのか?

ソリューション酔いは、新規事業の成功を大きく阻害します。

先のケースでは、アンケートという定量データからできたアプリでした。
データ量は豊富だったものの、ユーザーの深層の課題を拾うことができていなかったのです。

最初にログインしないユーザーが続出した時点で、その原因を徹底的に分析するだけでなく、そもそもユーザーにとって本当に重要な課題かどうか見極める必要があったのです。

それではソリューション酔いの危険の内容を見ていきましょう。

危険1:「それほど重要な課題では無い」ものに対し商品を作ってしまった

ユーザーは、時には自分自身も本当の課題に気づいていないことがあります。

ですが実際の商品・サービスにお金を払う瞬間には
「重要かつ未解決の課題」
にのみ反応するのです。

アンケートで表層の課題は取れますが、その下に潜む本質的な課題を見つけ、真の原因に刺さる解決策を探す必要があります。

危険2:「ユーザー体験が悪かったから」使っていないのかもしれない

あなたの商品がターゲットの「重要かつ未解決な問題」だったとして、その「解決策」が提供できていても、そこに辿りつく「体験」が悪いから使ってくれない、買ってくれないケースがあります。

例えば、ユーザー登録の画面が難しい、操作がわかりにくい、期待した効果と違った。などです。

試作品を販売する時に
「売れた」「売れない」
や商品の「良さ」「悪さ」「価格が高すぎた」
のような項目だけで判断するのではなく

売れないなら購買までのタイミングの
「どの地点で離脱したのか」
を正確に把握する必要があります。

危険3:使った効果が「ユーザーの成功基準」を満たしていない

解決策までのユーザー体験もスムーズで、あなたのアプリを使ってくれたとしましょう。
しかし、効果が「顧客の成功基準」に満たないとどうでしょう?

例えば、もともとある業務が30分かかっていたとして、あなたのアプリを使うと、平均5分にできるとしましょう。
ものすごい効果ですよね!?作った側は誇らしくなるでしょう。

しかし、ユーザーはそもそもその業務を無くすのがGOALだとしたら?

5分どころか1分にしたとしても、その仕事が残るのだったら
「あってもいいけど、お金をかけてでも導入はしない」
となる可能性が高いのです。

「技術的には限界なのに、顧客はわがままだ」
「コストをこれ以上かけたって払ってくれるの?」

と思うかもしれません。
しかし提供者の悩みは顧客は気にしないのです。

作ったばかりの商品に愛着が湧いているあなたは、
「だったらこの商品に合う顧客を探す」

となってしまうのもうなづけますが、それではイノベーションは起きにくいのです。

解決への道筋

解決の道筋


では、このような落とし穴を避けるにはどうすればよいのでしょうか?
私の経験から、以下のアプローチを提案します。

1. 顧客の本質的な課題に焦点を当てる

ソリューションではなく、顧客が抱える本質的な課題に注目しましょう。課題の深さやユニークさを十分に理解することで、より適切な解決策を見出すことができます。

そのためにはインタビューの質を上げるのが欠かせないのですが、そのテクニックについては別の記事で「聞き手は名監督!?できる人のユーザーインタビューの備えとは」で紹介しているので興味がある方はご覧ください。

実践のポイント:

  • 顧客インタビューや観察などのインサイトを得る手法を実施する

  • 顧客の課題のインパクトの大きさや頻度から優先順位をつける

  • 顧客行動観察で気づいていない課題も探索する

例えば、ある教育系スタートアップは、当初オンライン学習プラットフォームの開発に注力していましたが、実際に学生や教師へのインタビューを重ねた結果、彼らの本当の課題は「学習モチベーションの維持」だということに気づきました。

この発見を基に、ゲーミフィケーションを取り入れた新しいアプローチを開発し、大きな成功を収めました。


2. プロトタイプは「捨てる前提」で作る

初期段階では、完璧な製品を目指すのではなく、最小限の機能を持つプロトタイプを素早く作成します。

そして、ユーザー体験レベルで効果測定し評価の上どんどん作り替えていくのです。

変えるべきはターゲットでなくその課題の深さに気づき、解決策としての商品・サービスの方なのです。

チェックリスト:

  •  最小機能製品(MVP)の定義を明確にしているか

  • 「機能」でなく「ユーザー体験」で効果測定しているか

  • 開発期間を2週間以内に設定しているか


3. 柔軟性を保つ方がうまくいく

当初のアイデアに固執せず、仮説検証の過程で見つかったプロトタイプを作り替えるだけでは足りない。
「そもそも解決策が違う」と気づいたら新たな解決策にも目を向けます。

スタンフォード大学のスティーブ・ブランク教授は、「新規事業の成功の鍵は、失敗から学び、素早くピボットする能力にある」と述べています。この言葉を肝に銘じておく必要があります。

以前に「値決めのワナ」の記事でもメインの解決策が違っているのに気づきMVPをごっそりピボットした例を載せていますので、興味がある方はご覧ください。

4. コストと時間の管理

プロトタイプ開発に過度の時間とコストをかけないよう注意します。
「捨てられない」ほどの投資を避けることで、柔軟な意思決定が可能になります。

時間とコストの目安:

  • プロトタイプ開発期間:2-4週間

  • 初期投資額:総予算の10%以内

ある製造業の新規事業部門は、革新的な業務用のIoTデバイスの開発に着手しました。
当初は完成版と同じような品質を目指し、1年以上の開発期間と多額の投資を計画していました。

しかし、同じやり方でクローズした例から学び、まずは核となる機能だけを他社の既製品を使ってプロトタイプを3週間で開発。

これを実際のユーザーにテストしてもらうことで、予想外のニーズや課題を早期に発見し、製品コンセプトの大幅な見直しを行うことができました。
この素早い軌道修正が、後の成功につながりました。

恋愛ストーリーからの教訓

冒頭のアヤとタカシのストーリーは、新規事業で「ソリューションに酔う」状況を象徴しています。

アヤがハンバーグに夢中=一つの解決策に固執する起業家
彼女は最初の成功【タカシがハンバーグを好きだと言ったこと】に夢中になり、それを進化させることに注力していました。
しかし、本当の顧客【タカシの深層のニーズ】に気づいていませんでした。

タカシの優しさ=顧客が本当のニーズを言わない状況
タカシは、アヤが手間をかけずに済むようにと魚や煮物の和食を頼まなかったけれど、実際は食べたかった。

この状況は、ビジネスにおいても、顧客が本当のニーズを遠慮して伝えないケースと似ています。
アヤが一生懸命ハンバーグにこだわるほど、タカシは言い出しにくくなってしまっていました。

ビジネスでも、同じアイデアや解決策に固執するのではなく、顧客との対話や協力を通じて柔軟に対応することが成功の秘訣です。

二人で作る料理=顧客との協力的な解決策
アヤがハンバーグという一つの解決策に固執していたのをやめ、タカシと協力して料理を作るようになったことは、ビジネスにおいても非常に重要な教訓です。

顧客のニーズをしっかり聞き、協力しながら解決策を見つけることで、より良い結果が得られるのです。

タカシとアヤが一緒に煮物を作るように、起業家と顧客が協力してより良いソリューションを作り出すことが重要です。


さいごに

タカシとアヤのように、「一つの解決策」に酔うのではなく、真のニーズに向き合い、時には協力しながら新しい方向性を見つけることが、新規事業の成功の鍵です。顧客と共に進化し続けることで、関係もビジネスも豊かになっていくのです。

タカシとアヤのように、ソリューションに酔うことなく、顧客価値の創造に焦点を当てた新規事業開発に挑戦してみませんか?

※この記事の課題はMOONSHPT WORKSの「スキルCUBE」でさらに深く学べます。ご興味ある人は覗いてみてください。

用語解説【マーケットインとプロダクトアウト】

マーケットイン
マーケットインとは、市場・顧客のニーズに応じた製品やサービスを提供していく手法を指します。まず市場・顧客のニーズを徹底的に調査し、その結果に基づいて製品開発を進めるという考え方です。

このアプローチの特徴は、市場・顧客が求めているモノを開発し、提供することに重きを置いている点にあります。
ターゲットとなる顧客のニーズを事前に丹念に調査することで、顧客が実際に必要としているものを正確に把握し、それを製品開発に反映させることができます。
これにより、顧客の期待や信頼を高めるだけでなく、製品を再購入するファン=リピーターを生み出すことが期待されます。

プロダクトアウト
プロダクトアウトは、マーケットインとは対照的な考え方で、企業自身が作りたいものや、自社の方針やビジョンに基づいて製品を開発・提供するアプローチを指します。
市場のニーズに依存するのではなく、企業側が「これが良い」と判断したものを軸に進める姿勢が特徴です。
「良い製品を作れば、自然に売れるはずだ」という信念が根底にあります。

プロダクトアウトのメリット

自社の技術力や強みで市場をリードできる可能性
顧客のニーズを先取りするのではなく、自社の強みを反映させた製品を開発することで、時には新しい市場を創り出すこともプロダクトアウトの特徴です。
独創的な製品を開発し、市場のトレンドを形成することで、リーダーシップを発揮し、他社よりも先駆けて成功を収める可能性があります。

マーケットインとプロダクトアウトのどちらがいいのか?
現代においては、技術力にこだわるプロダクトアウトは時代遅れで、市場の調査に重きを置くマーケットインが必須と考える意見もあります。
しかし、MOONSHOT WORKSでは、両者の考え方は「どちらが優れていて、どちらが間違っている」と一概に断定すべきではないと考えています。

アップルの故スティーブ・ジョブズの残した言葉に、「ある人たちは『顧客の望むものを与えよ』と言うが、それは私のやり方ではない。
私たちの仕事は、顧客が望むよりも先に彼らがこれから望むであろうものを理解することなのです。」というものがあります。

このエピソードから、「iPhone」のようにマーケットインやプロダクトアウトに囚われることなく、顧客がまだ気付いていないような、想像を超えるモノの開発を目指す姿勢が大切であることがわかります。





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