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林檎飴

「りんご遅かったじゃないか?

もう、祭り終わっちゃったぞ」

「残業だったんだから仕方ないじゃない…

10時位までは、やってると思ってたんだけどなぁ。

8時半で店じまいなんだね…

てかさぁ、りんごって呼ぶのやめてよ!

凛子さんて呼びなさいよね。」

「7時には、来ないと間に合わないって、メッセージ回したはずだぞ?

見てなかっただろ?

仕方ないからこれ、お前にやるよ。

食べたら、共食いになっちまうなぁ…

りんご!

りんごはりんごだろ?

凛子さんて呼ぶの無理だわ…

じゃあ、俺用事あるから行くわ。

また月曜にな」

彼は食べかけのりんご飴を強引に渡すと、手を振りながら去って行った。

残された私は、溶けかかっているりんご飴を眺めながら途方に暮れていた。

共食いって何よ!

確かに、私のあだ名はりんごだけど…

それにしても…

みんな帰っちゃったの?

会社の近所の神社のお祭りだから、みんなで行こうって言ってたのに…

屋台もみんな店じまいしちゃってるし…

お祭りの屋台楽しみにしてたのになぁ。

裕介のヤツ…

待っててくれたならご飯かお酒くらい付き合いなさいよね…

このりんごあめどうしたらいいのよ?

このまま持って電車に乗ったら誰かの服にくっついてヤバい事になっちゃうじゃないの。

私は、手に持ったりんごあめをどうにかするべく近くのコンビニに入るのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

私の名前は、雨野凛子。

アラサーのごく普通のOLだ。

地方の中小企業の総務をしている。

総務の仕事といったら、何でも屋みたいなもので2年目の私は色々な部署に期間限定で貸し出されている。

おかげで会社の内情には、地味に詳しくなってきている。

例えば…

経理部長のフサフサの黒髪は、高級なズラであるとか…

第2営業部のホープのAさんは会社の様々な部署に自称彼女がいるとか…

社長は、かなりの愛妻家で秘書である奥様がいないと仕事にならないとか…

どうでもいいような情報が常に耳に入ってくるのだ。

欲しい情報は手に入らないのよねぇ。

凛子はため息をつきながら、会社の同期のグループLINEのメッセージを確認した。

りんごまだ?とか、もうお祭り終わっちゃうよ?とか…

30件近くメッセージが入っていた。

まだとか言うなら私に残業押し付けて帰らないで欲しいもんだわ!

凛子は、ブツブツ独り言を言いながらコンビニで飲み物を買うついでにもらった袋にりんごあめを入れて溶けたアメがこぼれないように入り口を厳重に縛ってバッグに大事そうにしまった。

凛子は、同期で何かとチョッカイを出してくる葉山裕介の事を憎からず思っているようだ。

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