Insect-Research

昆虫に関する話題〜学術論文をお茶の水女子大学・早稲田大学の理系大学院生が中心となって投…

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昆虫に関する話題〜学術論文をお茶の水女子大学・早稲田大学の理系大学院生が中心となって投稿します。

最近の記事

腸内細菌がイナゴの行動を制御する!?

イナゴはアシナシバッタ科に属する短角のバッタ(Orthoptera)である。 イナゴは、一般にペストと呼ばれるほど大規模で破壊的な群れを形成し、自然の植生や農作物に甚大な被害を与えることで最もよく知られている。そのため、イナゴの群れに関する研究が盛んに行われ、そのメカニズムが解明されてきた。[1] 今回はこのイナゴの特徴の代名詞と呼べる「群れの形成」に腸内細菌が大きく関与しているのではないかということを報告した論文を紹介する。[2] 腸内無菌のイナゴと通常イナゴの糞便に

    • 加水分解による旨味増強 昆虫食拡大の一助となるか

      昆虫由来の食品や成分を市場に浸透させるためには、消費者の嗜好が非常に重要である。近年の調査では、昆虫を、粉末やタンパク質抽出物、タンパク質加水分解物として利用することで、消費者の昆虫食に対する悪い印象を大幅に減少させることが示されている。 今回の記事では、加水分解により、蚕の蛹の旨味が増強されることを示唆した論文の概要を説明する。[1] 色々な旨味成分 旨味は、日本で発見された基本五味の一つだ。 有名なものに、グルタミン酸(Glu)やアスパラギン酸(Asp)などがあり、

      • 腸内環境が昆虫の記憶能力に影響を与える!?判明した腸内細菌の新たな働き

        「腸内環境は我々の健康に大きな影響を与えている」という知見を様々な文献でよく目にするようになってきた。そのため、「良い腸内環境 = 健康の増進」と考えてしまいがちである。 しかしながら最近、ミツバチの腸内細菌がミツバチ自身の脳 (記憶能力) に影響を与えているのではないかという報告がNature communication誌に掲載された。 今回はこの腸内細菌が宿主の記憶能力を向上させることを報告した論文について紹介する。[1] ミツバチの記憶と相関関係にあった乳酸菌 (

        • 「コオロギ=高タンパク質」には要注意?!タンパク質測定法の罠

          「コオロギはタンパク質が多く含まれる」 という話を耳にすることが増えた。 実際、コオロギのタンパク質含量が60%以上であることを示した論文も多く見られる。 そもそも、タンパク質はどのように定量しているのか。 今回は、コオロギのタンパク質量を過大評価している可能性があることを示した論文を紹介する。[1] タンパク質定量法 食品のタンパク質量を求める際、最も頻繁に使われるのがケルダール法である。 タンパク質は、アミノ酸がペプチド結合したものが基本骨格となっている。アミノ酸に

        腸内細菌がイナゴの行動を制御する!?

          コオロギは仲間の死骸から学習して生存戦略を考える?!

          近年、新たな動物性タンパク質源として注目されているコオロギだが、実は食料としてだけではなく音響通信や神経生物学、再生医療などの分野でも多様な生態を示す生物として研究されている。今回の記事では、神経生物学の分野の研究の一環として、行動学的にコオロギが学習能力を有していること を示唆した論文の概要を説明する。 生物の社会的な学習行動 生存同種からの学習 同種の死骸からの学習 まとめ 生物の社会的な学習行動いくつかの生物では仲間が食料を見つける行動を学習することで自身の採

          コオロギは仲間の死骸から学習して生存戦略を考える?!

          コオロギ食の未来は? 食材としてのコオロギの可能性

          次世代タンパク質源コオロギ 「タンパク質危機」という言葉を聞いたことはありますか? タンパク質危機とは、タンパク質の需要に供給が追い付かなくなることを指します。 国連食糧農業機関(FAO)によると、2050年の世界人口を支えるためには、2010年よりも食料を70%増産する必要があるとされています。 この人口増加に伴い、特に不足が懸念されているのがタンパク質です。魚や肉が食卓に並ぶ姿が、非日常になる可能性があるのです。 そこで近年、注目を集めているのがコオロギです。 ここ

          コオロギ食の未来は? 食材としてのコオロギの可能性

          ミツバチの腸内細菌を強化して集団全体の免疫力を強化!?最新の腸内細菌遺伝子編集技術に迫る!!

          腸内細菌を遺伝子編集をすることによってミツバチの寄生虫であるバロアダニの感染による致死率を集団の全体で抑制できるという報告が2020年1月にScience誌に掲載された[1]。この治療法が人などに応用できるのは遠い未来の話ではあるが、集団全体の免疫力を強化する有望な治療法であると期待されている。 ミツバチは、世界的な農作物の受粉媒介者であり、発達、行動、学習を研究するモデル生物である。近年、寄生ダニによるミツバチの致死率が重篤な問題となってきている。そこで、Texas大学オ

          ミツバチの腸内細菌を強化して集団全体の免疫力を強化!?最新の腸内細菌遺伝子編集技術に迫る!!

          まるでSF映画!?世界で初めて"昆虫型の飛行ロボット"の作製に成功

          SF映画に出てくる「昆虫型の飛行ロボット」。 ー小回りのきく小さな体で飛び回り、スパイのように狭いところに忍び込む 昆虫型の飛行ロボットにはそんなロマンを描いてしまう。今回紹介する研究では、世界で初めて、昆虫のように素早く空を飛び、ホバーリングすることのできる「昆虫型の飛行ロボット」の開発に成功した[1]。 最も俊敏に飛び回る昆虫、ハエ ハエは、最も素早く飛び回る昆虫として知られている。この「俊敏さ」の仕組みを紐解けば、俊敏に動き回るロボットを作ることができる。 ー

          まるでSF映画!?世界で初めて"昆虫型の飛行ロボット"の作製に成功

          ゲノムで読み解く昆虫食 研究者が見据える未来の食とは?

          世界の人口は年々増加傾向にあり、2050年には90億人を超えると予想されています。人口の増加に伴って懸念されるのがタンパク質の不足です。カーボンニュートラル(脱炭素)や持続性の観点から、さまざまな解決策が検討されていますが、中でも注目が集まっているのが「昆虫食 × ゲノミクス」です。本記事では、昆虫食に関する最新の研究からビジネスの応用までゲノミクス研究学生の視点で解説していきます。 --- Contents - タンパク質不足に対抗する昆虫食 - ゲノミクスの強み - 昆

          ゲノムで読み解く昆虫食 研究者が見据える未来の食とは?