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ミツバチの腸内細菌を強化して集団全体の免疫力を強化!?最新の腸内細菌遺伝子編集技術に迫る!!

生物の性質を変えてしまう遺伝子編集技術、それを腸内細菌に応用すると現存する遺伝子編集技術を凌駕する技術が誕生する可能性がある。

Leonard, S. P. et al. Engineered symbionts activate honey bee immunity and limit pathogens. Science 367, 573–576 (2020)

腸内細菌を遺伝子編集をすることによってミツバチの寄生虫であるバロアダニの感染による致死率を集団の全体で抑制できるという報告が2020年1月にScience誌に掲載された[1]。この治療法が人などに応用できるのは遠い未来の話ではあるが、集団全体の免疫力を強化する有望な治療法であると期待されている。

蜜を吸うミツバチ

ミツバチは、世界的な農作物の受粉媒介者であり、発達、行動、学習を研究するモデル生物である。近年、寄生ダニによるミツバチの致死率が重篤な問題となってきている。そこで、Texas大学オースティン校のSean P. Leonard氏はこの問題を解決するために治療法を探索し始めた。

これまで、ミツバチの寄生ダニ対する治療法として、RNA 干渉 (RNAi)法と呼ばれる抗ウイルス免疫システムをミツバチ自身に発現させる方法が提唱されていた。RNA干渉法は二本鎖 RNA (dsRNA) を投与または注射することで二本鎖 RNA (dsRNA) が類似した配列を持つ他の RNA を分解する方法のことをいう。つまり、ミツバチの寄生ダニが生きるために必須な遺伝子の発現をRNA干渉法によって選択的に抑制することにより寄生ダニを殺してしまおうというわけだ。

しかし、この完璧に思える方法だが、意外な問題があることがわかった。それは何百匹といる巣全体のミツバチに対して、寄生ダニ対する治療をするために各々1匹1匹ごとに二本鎖 RNAを打ち込んでいては莫大だ時間と費用がかかりすぎてしまうという問題である。また、二本鎖 RNAは一度打ち込んでもある一定期間で効力を失ってしまうことが知られており、継続的に二本鎖 RNAをミツバチに打ち込み続けなければいけないという問題もあった。これらの問題は将来、この治療法を社会実装していく上で非常に大きな障害となってしまっていた。

そこで、これら問題を解決するためにSean P. Leonard氏はミツバチの腸内に住んでいる腸内細菌に注目した。腸内細菌は生物が集団を形成して生活する中で伝染していくことが知られている。つまり、ミツバチの集団内を伝染していく腸内細菌をを工学的に遺伝子編集を行うことで、恒常的にハチの腸内で二本鎖 RNAを産生して、寄生ダニに対する治療を集団全体に行い続けるというのだ。

ミツバチの常在腸内細菌を利用したアプローチ

ミツバチの腸内細菌は集団の免疫を変える

Sean P. Leonard氏はまず、ミツバチの腸内に常に存在している腸内細菌を調査し、Snodgrassella alvi wkB2と呼ばれるミツバチ常在腸内細菌を遺伝子編集ターゲットとして注目した。なぜミツバチの常在腸内細菌に注目したのかというと常にハチの腸内で二本鎖 RNAを産生し続けることができるためである。

その後、Snodgrassella alvi wkB2をSean P. Leonard氏たちは寄生ダニが生きるために必須な遺伝子の発現を特異的に抑制するように働くRNAを産生できるように遺伝子編集し、実際にミツバチに編集済みSnodgrassella alvi wkB2与えて、ミツバチの集団全体の寄生ダニによる致死率を計測した。すると、編集済みSnodgrassella alvi wkB2与えたミツバチは何も与えていないミツバチと比べて、致死率が統計的に有意に減少したのである。

さらに、遺伝子編集したSnodgrassella alvi wkB2を与えたミツバチと何も与えていないミツバチを一緒の巣箱に入れて生活させると何も与えていないミツバチにも遺伝子編集したSnodgrassella alvi wkB2が伝染していることもわかった。つまり、巣箱の中の1匹だけに治療用の遺伝子編集した腸内細菌を与えるだけで、巣箱全体のミツバチにその治療効果が伝染するのである。

これらの結果から、Sean P. Leonard氏たち遺伝子編集した腸内細菌を利用した治療法は現在、将来に向けた有用な治療法になる提唱していた。

この技術の可能性と課題

腸内細菌は様々な可能性を秘める

これまで、遺伝子編集による生物の免疫の治療などは各々1匹1匹ごとに行ってきたために、多くの生物に行うには莫大な時間とコストがかかり、非現実的であった。しかし、今回の腸内細菌を利用した遺伝子編集による治療法はこれらの非現実的な問題を一気に解決できるようになることが期待される。しかし、今回の研究では、どのように遺伝子編集ずみの腸内細菌がミツバチに好影響を与えているのかのメカニズムなどはわかっていない。そのため、まだまだこの技術を社会実装するためにはヒトの応用には更なる研究が必要される。


参考文献
[1] Leonard, S. P. et al. Engineered symbionts activate honey bee immunity and limit pathogens. Science 367, 573–576 (2020)

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