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加水分解による旨味増強 昆虫食拡大の一助となるか

昆虫由来の食品や成分を市場に浸透させるためには、消費者の嗜好が非常に重要である。近年の調査では、昆虫を、粉末やタンパク質抽出物、タンパク質加水分解物として利用することで、消費者の昆虫食に対する悪い印象を大幅に減少させることが示されている。

今回の記事では、加水分解により、蚕の蛹の旨味が増強されることを示唆した論文の概要を説明する。[1]

色々な旨味成分

旨味は、日本で発見された基本五味の一つだ。
有名なものに、グルタミン酸(Glu)やアスパラギン酸(Asp)などがあり、アミノ酸や、ペプチドが旨味に寄与すると言われ、広く研究されている。たとえば、醤油や魚、鶏肉からは、グルタミン酸やアスパラギン酸から構成される旨味ペプチドが同定されている。

グルタミン酸ナトリウムは原料(さとうきびなど)にグルタミン酸生産菌を加えて製造される

蚕タンパク質

蚕の蛹は、絹糸製造の副生成物である。インドでは食材として製造されており、おいしい食材としてみなされている。また、大豆タンパク質よりも高い栄養価を持つこと、蚕タンパク質加水分解生成物は、抗肥満作用や、抗腫瘍作用など様々な機能性を持つことが報告されている。

しかし、蚕タンパク質加水分解生成物についての味についての報告はない。そのため、本研究では、蚕の蛹の加水分解物からペプチドを単離し、アミノ酸配列を同定した。そして、そのペプチドを合成し、官能評価によってその旨味を評価した。

蚕は日本でも食用で市販されている。


加水分解物から単離したペプチドの評価

蚕の蛹を酵素(Flavourzyme, Alcalase)により加水分解した。限外濾過により、ペプチドをその分子量から5つに分画したところ、旨味は、分子量が一番小さい画分(<1 kDa)で最も強かった。
さらにこの画分をゲル濾過クロマトグラフィーにより5つに分画し、最も旨味が強かった画分から、4つのペプチド(Thr-Ala-Tyr、Ala-Ala-Pro-Tyr、Val-Pro-Tyr、Gly-Phe-Pro)を同定した。
これらを構成するアミノ酸は、グルタミン酸(Glu)やアスパラギン酸 (Asp) など旨味アミノ酸を持たず、苦みを呈するアミノ酸(フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)など)や、甘味を呈するアミノ酸(グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、トレオニン(Thr)、プロリン(Pro)など)から構成されている特徴があった。

合成ペプチドの評価

上記の4つのペプチドを合成し、官能評価を行ったところ、Val-Pro-Tyr、Thr-Ala-Tyr、Ala-Ala-Pro-Tyrで強い旨味が見られた。
次に、合成ペプチドと、各ペプチド構成アミノ酸混合物の旨味を比較したところ、4つのペプチドすべてで、アミノ酸混合物より合成ペプチドの方が強い旨味を示した。また、ペプチドは複雑で、柔らかい味、アミノ酸混合物は、単調な味だった。
以上より、ペプチドの旨味は、個々のアミノ酸のみに由来するのではなく、脱水縮合により特定の構造的特徴を持ったペプチドを形成することで生まれると予想された。

まとめ

今回は、蚕の蛹の加水分解物の旨味について調べた論文を紹介した。
また、コオロギの加水分解では、旨味の増強だけでなく、抗菌成分であるキトサンの増加、抗ストレス作用があるGABAの増加する可能性を示した研究もある。[2]
昆虫の加水分解が、昆虫の味向上、機能性向上などに繋がり、昆虫食拡大の一助となるかもしれない。
また、旨味といえばアミノ酸というイメージが強いが、種類や配列順、長さなど無数のパターンが考えられるペプチドの呈味にも注目したい。

参考文献

[1] Zilin Yu. et al. Taste, umami-enhance effect and amino acid sequence of peptides separated from silkworm pupa hydrolysate . Food Research International 108 (2018)

[2] Francesca Patrignani.  et al. Potential of Yarrowia lipolytica and Debaryomyces hansenii strains to produce high quality food ingredients based on cricket powder . LWT 119 (2020)


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