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「コオロギ=高タンパク質」には要注意?!タンパク質測定法の罠

「コオロギはタンパク質が多く含まれる」
という話を耳にすることが増えた。
実際、コオロギのタンパク質含量が60%以上であることを示した論文も多く見られる。
そもそも、タンパク質はどのように定量しているのか。

今回は、コオロギのタンパク質量を過大評価している可能性があることを示した論文を紹介する。[1]

タンパク質定量法

食品のタンパク質量を求める際、最も頻繁に使われるのがケルダール法である。
タンパク質は、アミノ酸がペプチド結合したものが基本骨格となっている。アミノ酸には、窒素が含まれており、その窒素量を定量し、タンパク質量へ換算する方法がケルダール法である。
定量した窒素量に、窒素-タンパク質換算係数を掛けて、タンパク質量を算出する。
タンパク質含量(g/100 g)=窒素量(g/100 g)× 窒素-タンパク質換算係数

この窒素-タンパク質換算係数は食品ごとに以下のように定められている。
<窒素-タンパク質換算係数(一部)>
小麦:5.7
米:5.95
乳製品:6.38

このような固有の係数が定められていない食品には、係数6.25を用いることになっている。

そのため多くの論文では、コオロギの窒素-タンパク質換算係数を6.25としている。

非タンパク質態窒素 ~キチン質について~

ケルダール法の欠点は、タンパク質由来ではない窒素(非タンパク質態窒素)が多く含まれている場合、正確なタンパク質の定量ができないことだ。

コオロギに含まれる、非タンパク質態窒素の代表が「キチン質」だ。
キチン質とは、エビやカニなどの甲殻類、コオロギなどの昆虫類の外骨格の主成分となる繊維である、キチン、キトサンの総称だ。
コオロギの中でも、特に食用としての利用頻度が高いヨーロッパイエコオロギには、キチンが4.3-7.1%, キトサンが2.4-5.8%含まれている。[2]
このキチン質が、コオロギのタンパク質含量過大評価に繋がっている可能性がある。

そこで、コオロギにも固有の窒素タンパク質換算係数の決定が必要である。

コオロギ固有窒素-タンパク質換算係数の決定

まずはコオロギのアミノ酸総量と、窒素量を求め、
そのアミノ酸総量を、窒素総量で割ることで、コオロギ固有の窒素-タンパク質係数を算出した。
コオロギ固有窒素-タンパク質換算係数
=アミノ酸総量(g/100 g)/窒素量(g/100 g)

結果として、コオロギ固有窒素-タンパク質換算係数は、
ヨーロッパイエコオロギが5.09、フタホシコオロギが5.00となった。
つまり、換算係数6.25で計算した場合、タンパク質を約25%過大評価している可能性があるのだ。

まとめ

今回は、タンパク質定量法の観点から、
コオロギのタンパク質過大評価の可能性を示唆した論文を紹介した。

つい先日、コオロギを含んだチョコレートバーの栄養成分表示を見て、
「このタンパク質量はどのように算出したのだろう」
と考えてしまうことがあった。

一般的な食品の場合、分析方法を気にすることは少ないかもしれない。
また、今回は触れなかったが、
脂質や水分の定量法も複数存在する。
コオロギのように、まだ定着していない食品について調べるときには、算出方法まで注意して情報を読み取る必要がある。

今後、昆虫食が広まるためには、
昆虫の分析方法を確立することや、食品成分データベースに掲載することが必要だろう。

参考文献

[1] Tiina Ritvanen, Helena Pastell, Annikki Welling and Marja Raatikainen, The nitrogen-to-protein conversion factor of two cricket species - Acheta domesticus and Gryllus bimaculatus.Agricltural and Food Science 29, 1 (2020)
https://journal.fi/afs/article/view/89101

[2] E B Ibitoye1,2, I H Lokman et al, Extraction and physicochemical characterization of chitin and chitosan isolated from house cricket. Biomedical Materials 13, 025009 (2018)
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-605X/aa9dde#:~:text=The%20chitin%20and%20chitosan%20yield,2.4%25%E2%80%935.8%25%20respectively.&text=The%20result%20shows%20that%20cricket,following%20Fourier%20transform%20infrared%20spectroscopy.

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