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腸内細菌がイナゴの行動を制御する!?
イナゴはアシナシバッタ科に属する短角のバッタ(Orthoptera)である。
イナゴは、一般にペストと呼ばれるほど大規模で破壊的な群れを形成し、自然の植生や農作物に甚大な被害を与えることで最もよく知られている。そのため、イナゴの群れに関する研究が盛んに行われ、そのメカニズムが解明されてきた。[1]
今回はこのイナゴの特徴の代名詞と呼べる「群れの形成」に腸内細菌が大きく関与しているのではないかということを報告した論文を紹介する。[2]
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腸内無菌のイナゴと通常イナゴの糞便に含まれるフェロモン量の比較
これまでの先行研究として、イナゴの糞便に含まれるグアイアコール(2-メトキシフェノール)とフェノールなどの揮発性成分がフェロモンとして作用し、イナゴの群の形成を引き起こしていることは知られていた。そして、これらのフェロモンはイナゴ自身の代謝由来であると考えられてきた。
しかし、筆者がこれまでの考えを無菌イナゴと通常イナゴの糞便に含まれるフェロモン量を比較する実験をすると、驚くべき結果が明らかとなった。具体的な実験内容としては無菌の状態で育てたイナゴと通常状態のイナゴの糞便に含まれる成分を化学分析した。その結果、無菌のイナゴの糞便ではフェロモンが大幅に少なくなっていることが明らかとなった。これにより、イナゴの集合フェロモンの生成にはイナゴの代謝由来ではなく、腸内細菌が関与している可能性が示唆され、これまでの考えられてきた仮説を覆す結果となった。
イナゴとイナゴの腸内細菌の連携による集合フェロモンの産生
続いて筆者は腸内細菌がどのようにして集合フェロモンを産生するのかをイナゴの餌と腸内細菌を一緒に培養することで確かめた。その結果、興味深いことにフェロモンはわずかな量しか生成されなかった。このことから、腸内細菌の集合フェロモン産生にはイナゴ腸内の餌成分の消化が必須であり、イナゴ自身と腸内細菌が協力して初めて産生できることが明らかとなった。
このことから、筆者はイナゴは餌と一緒に偶然に獲得した腸内細菌の働きによって、その消化廃棄物から得られるフェロモン成分を利用するように適応したのではないかと本論文の最後に締めくくっていた。
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まとめ
イナゴは自身の腸内細菌を利用することによって群れの形成に必要なフェロモンを産生していることから、腸内細菌が宿主の健康だけでなく、昆虫の行動や生存に寄与していることが今回明らかとなった。今回の論文の報告から、腸内細菌叢をコントロールすることによってイナゴの行動を制御できる可能性などがあるかもしれない。今後は腸内細菌叢をターゲットとした農作物害虫撃退アプローチなども多く開発されることが期待される。
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参考文献
[1]Lavy, O., Gophna, U., Gefen, E. & Ayali, A. Locust bacterial symbionts: An update. Insects 11, 655 (2020).
[2]Dillon, R. J., Vennard, C. T. & Charnley, A. K. Exploitation of gut bacteria in the locust. Nature 403, 851 (2000).
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