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第五話 神戸・高架下(前編)|ドリアン助川「寂しさから290円儲ける方法」

ドリアン助川さんによる、一風変わった「旅」の短編小説連載。
日本中(あるいは世界中?)の孤独な人、苦悩している人に会いに行き、何か一品料理を作ってあげながら人生相談に乗る男の物語。290円は何を意味するのか……? ちょっと不思議な感覚の、旅する「おたすけ料理」小説。
月1回更新予定です。


 ただ明るい街並や賑やかな通りよりも、どこかに影の世界とつながる扉が隠れているような、なにが飛び出してくるのかわからない気配の薄暗い通路を歩きたくなるときはありませんか。 
 私は港町神戸に立ち寄る機会があると、「三宮高架商店街」と「元町高架通商店街」に決まって足を運びます。JRの鉄道高架の下に延々と続く、ウナギの寝床とハモの寝床を交互に継ぎ足したような、狭く長い通路から成る商店街です。
 地元の神戸っ子にはまとめて「高架下」と呼ばれるこれら二つの商店街は、「いくたロード」や「トアロード」といった大通りと直角に交差する箇所以外、日光が差しこむ場所はほとんどありません。すべてが線路の下の世界ですので、幅二メートルほどの通路の両側に連なる店の大半は、昼も夜も電灯の丸い明かりのなかにあります。



この話が読めるのはこちら↓

\書籍化決定!/
2023年5月23日(火)発売
寂しさから290円儲ける方法』ドリアン助川/著



ドリアン助川
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家等を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説はフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞」の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。2023年、フランス語版『あん』がリヨン大学より「翻訳作品賞」を授与される。

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