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【日本全国写真紀行】 52 大分県津久見市保戸島

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


大分県津久見市保戸島


ゆっくりと流れる島時間を楽しむ

 大分県と四国の愛媛県に挟まれた豊後水道ぶんごすいどう
太平洋からの黒潮の暖流と瀬戸内海の寒流とがぶつかりあうこの水域は、全国屈指の好漁場こうぎょじょうとして知られている。その利を生かして古くから漁業の島として栄えてきたのが保戸島である。
  その昔、この地が「海部あまべ穂門ほと郷」と呼ばれており、この「穂門」が「保戸」に変わったものといわれている。
 江戸時代には佐伯藩の勘場かんば遠見番所とおみばんどころが置かれ、近隣の海で鯵やイカを中心に漁が行われていた。明治時代の半ばごろからはマグロ漁が始まり、その後、遠洋マグロ漁で大いに栄え、一大マグロ基地になった。最盛期の昭和55年頃には延縄はえなわ漁船の数は200隻近くまで増えたが、その後、漁の低迷に人口減少なども加わり、現在は往時ほどのにぎわいは見られなくなってしまった。
 しかし、今も残る多層建築の家屋の数が、マグロ漁で潤った島の歴史を物語っている。海岸から迫り上がる急斜面に、三階建の鉄筋コンクリートの家々がびっしりと軒を連ねる。およそ一般的な漁村の風景とは異なる独自の景観。夕暮れになると、夕日がこれらの家屋を鮮やかに照らし出し、得難い絶景を見せてくれる。
 建ち並ぶ家の間には、細い路地が伸びている。人がやっとすれ違えるほどの幅で、ゆるい上りになっている。その路地の奥には急な階段があり、予想以上の急勾配に、来訪者の多くは驚くに違いない。
 意を決して階段を上る。まるで山登りをしているかのようだ。しばらくすると、海かい徳とく寺じ という寺があった。斜面につくられたわずかな境内にたたずみ、ふりかえってみると、眼下に保戸島の港が見え、その先には豊後水道が広がっていた。まわりを見渡せば、山の斜面に密集して張り付いているコンクリート造りの家々が圧倒的な迫力でせまってくる。
 夏、島にある加茂神社(京都上賀茂神社の分霊を祀っている)では夏季大祭である「保戸島夏祭り」が開催され、島外からたくさんの観光客が訪れる。この時だけ、保戸島はかつての島のにぎわいを取り戻すが、祭りが終われば、また静かな時間が流れる。夏もよし、それ以外の季節もよし。JR津久見駅から徒歩5分、津久見港から高速船に25分ほど乗れば、ゆっくりと流れる島時間に身を委ねることができる。

※『ふるさと再発見の旅 九州1』産業編集センター/編より抜粋




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