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【日本全国写真紀行】 30 秋田県雄勝郡羽後町

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。
日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


秋田県雄勝郡羽後町


農村の原風景が広がる茅葺民家の里

 雪が多く降る秋田の中でも、特に豪雪地帯として知られる雄勝郡羽後町。山形県境に近く、雄物川を挟んで湯沢市と隣接するこのあたりは、ほとんどが山林と原野だ。高い山々に囲まれているだけに、冬ともなれば2メートル以上も雪が積もり、あたり一面色のない世界に変わってしまう。
 山と雪、その厳しい自然の中で、人々は川に沿って細くのびる谷を開き、田をつくり集落をつくっていった。地図を見ると谷を縫うように広がる数多くの集落と田。羽後町は出羽丘陵内陸部を代表する農村となっている。
 冬の雪に覆われた白銀の世界も、春を過ぎて夏の陽光が差し込む頃には、目にも鮮やかな緑の世界へと変わる。そして、それを見守るかのように、ポツリポツリと茅葺民家が点在する。調べてみれば、羽後町には約六十棟の茅葺民家があり、特に軽井沢という地区には築百年以上の家が数多く残っている。古くからこの地区には腕のいい屋根葺き職人がいたといわれるが、それにしても今だにこれだけの茅葺民家が残っている農村はそれほど多くはないだろう。
 昭和40年頃、秋田県出身で日本を代表する舞踏家の一人である土方巽ひじかたたつみが、羽後を訪れて時間がとまったような風景にいたく感じ入り、羽後を舞台にした写真集を刊行した。羽後の、素朴で、過剰なものは何もない必要最小限の風景、ただそこに在る風景が一人の舞踏家の心の琴線に触れたのかもしれない。
 緑に輝く田んぼ、伸びるあぜ道、遠くに見える鳥海山。野良作業に勤しむ人々、そよぐ風、そして茅葺屋根の家。日本の農村風景に必要な要素をすべて詰め込んだような、農村の原風景が目の前に広がる。誰が名付けたか、「純農村風景」。いつまでもこのまま残っておいてほしい景色だ。
 ちなみに、羽後町をめぐるには車を利用するのが便利だ。公共機関はない。隣町にあるJRの羽後本線湯沢駅から車で約90分ほどかかる。この交通の便の悪さも、また羽後町の魅力の一つといっては語弊があるだろうか。


※『ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より一部抜粋



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