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第五話 神戸・高架下(後編)|ドリアン助川「寂しさから290円儲ける方法」

ドリアン助川さんによる、一風変わった「旅」の短編小説連載。
日本中(あるいは世界中?)の孤独な人、苦悩している人に会いに行き、何か一品料理を作ってあげながら人生相談に乗る男の物語。290円は何を意味するのか……? ちょっと不思議な感覚の、旅する「おたすけ料理」小説。
月1回更新予定です。


 トレイにのっていたのは、あの見慣れた黄色っぽいメロンパンではありませんでした。丸さもサイズも同じでしたが、網膜をぐっとつかむような、青、緑、ピンク、紫、そして橙という色彩が並んでいたのです。
「カラーメロンパン、ゆうんですわ」
 メレンゲさんは、頬をすこしだけ緩ませ、「春の花壇みたいでしょ」とつぶやきました。私はどう返答したらよいのかわからず、「でっかいパンジーみたいですね」と精一杯のお世辞を頭に浮かべました。ところが、口から出てしまったのは別の言葉だったのです。
「秋の毒キノコのようにも見えますね」
 メレンゲさんはまた元気のない、萎びた表情に戻ってしまいました。



この話が読めるのはこちら↓

\書籍化決定!/
2023年5月23日(火)発売
寂しさから290円儲ける方法』ドリアン助川/著



ドリアン助川
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家等を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説はフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞」の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。2023年、フランス語版『あん』がリヨン大学より「翻訳作品賞」を授与される。

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