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ノリでロンドンに海外支社を作ったら初年度から黒字になって驚いた話

2019年2月、クリエイティブエージェンシーmonopoは、ロンドンに子会社「monopo London」を設立した。そして、タイトルにあるとおり、この支社は少額ながらも一期目にして黒字化に成功することとなった。

未開の地でどのようにクライアントを獲得し、利益を出せたのか?
海外に支社をつくるにはどのようなハードルやリスクがあったのか?

「ちょっとしたノリ」がきっかけで始まったという海外支社設立プロジェクトを整理するため、「monopo London」の今日までの歩みとポイントを、代表の佐々木にインタビューしながらまとめてみる。

海外事業を任された担当者やクリエイティブにかかわる人たちにとって、何かの参考になるとうれしい。

(執筆:カツセマサヒコ、編集:長谷川賢人)

優秀なクリエイターには、優秀なビジネスプロデューサーを。

「monopo London」設立のきっかけは、monopoのクリエイティブの中枢ともいえる社員・メラニーのある一言だった。

メラニー「イギリスに帰ろうと思うんですけど、monopoとは社員として引き続き仕事がしたいんです。何かいい方法ありませんか?」

佐々木(monopoの代表)「んー、じゃあいっそ、向こうで法人作っちゃおうよ。いずれ作ってみたかったし」

ざっくり言えば、このノリである。monopoのフットワークの軽さと実行力が垣間見えるシーンだ。そして、このやり取りから始まった「monopo London」の立ち上げプロジェクトは、佐々木の予想をはるかに超える展開を見せることになる。

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「メラニーはmonopoのクリエイティブのレベルを何段も引き上げてくれた超優秀なクリエイティブディレクターです。彼女がいなかったら、今のmonopoのスタイルは確立されていない」

佐々木は「monopo London」の創業メンバーとなったメラニーについて、そう断言する。そのメラニーが、環境を一新することで新鮮なインスピレーションを得ようと、ロンドンに帰るという。しかし、メラニーも佐々木と同様、monopoとは関係を続けたいと思っていた。

そこで持ち上がったのが、「monopo London」の設立である。佐々木はメラニーに対して、「ビジネスマネージャーを立てれば、海外で法人を作ってもうまくいくのではないか」と提案した。

「メラニーはあくまでもクリエイティブに強い人間だから、ビジネスに強い人間と組むことでもっとドライブするかなと思いました。monopo本体も、岡田と僕にそれぞれの強みがあったからこそ今までやってこれた。未開の地で一人でスタートするのは深刻になりがちだし、精神的に安定させる意味でも、二人くらいでカジュアルにスタートするのがいいと思います」

佐々木はメラニーに、パートナーであるマティスと創業するのはどうかと提案した。マティスはmonopo社員ではなかったが、monopoナイト(monopo主催のイベント)にもよく来ており、ストラテジストとして優秀なことは佐々木もよく知っていた。

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monopo Londonメンバー。左からマイ、フレッド、マティス、メラニー。


「今振り返れば、マティスとメラニーの二人で創業してもらうという案は、あくまでも口頭ベースの軽いノリでした」と佐々木は話す。しかし、その日の夜、メラニーは佐々木に現地法人の設立に挑戦したい旨を熱量高く伝えたという。

「うれしかったけど、本当にやるのかこれ!?って、ドキドキしました。特にマティスはものすごく前向きになっていました。翌週には会議室に呼ばれて、創業に関するプレゼンをされたんです。『もっと世界を巻き込んでいこう』『10年後のmonopoはこうなっていくんだ』と、monopoの未来を見据えた提案をされた。気合と覚悟を感じたのを覚えています」

今でも「monopo London」は、優秀なクリエイターであるメラニーと優れたビジネスプロデューサーであるマティスのタッグが大きな柱となって活動している。最少人数ながら適材適所で活躍し合い、熱意や覚悟を持って挑んでくれるメンバーの人選。何よりもこれが上手くいったと、佐々木は述べた。


最高の人選ができたら、”最高のルール”を。

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こうして動き出した「monopo London」の設立プロジェクトだが、すぐにイギリスに現地入りしたわけではない。始動から3〜4カ月は、毎週のように国内でミーティングを重ねたという。

「登記自体は思っていたよりもシンプルな印象でした。設立するだけなら弁護士もいらないし、オンラインでも登記は可能なことがわかった。友人を通して現地のベンダーに設立手配をしてもらって、全部で7万円くらいです。あとは登記以外で必要になる株主間の契約やルール設定などを、友人の弁護士にコンサルティングしてもらいながら決めました」

肝心のメラニーたちとのミーティングでは、3割が夢の話、4割は計画の話、残りがルールの話だったという。佐々木は「とくに3つめの“ルール決め”をシビアに詰めたのがよかった」と振り返る。

「『monopo London』を設立して1年半が経ちますが、実際にロンドンチームとは、連携ミスや社員へのサポート面で何度か摩擦が起きたんです。事前にルール決めをしていなかったら、喧嘩別れで解散していた可能性もあったと思います。これから大勝負を共にする友達とは、最初にきちんとルールを確認しておいたほうがいい」

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数ある“ルール”の中で最も効果を発揮したのは、決裁権と議決権を佐々木と岡田に委ねずに、メンバーとイーブンにしたことだ。株式保有数に応じた議決権では、どうしても代表である佐々木と岡田のパワーバランスが強くなる。それをイーブンにすることで、あらゆる決断を現地メンバーが自律して行うようになった。

「本人たちに共同創業者兼共同オーナーになってもらって、経営判断も現地法人を主導にする。一見、それらの判断は、親会社としてはリスクだと思うんです。でも、いざやってみたらそれが一番よかった。全員が覚悟を持って行動していくし、想像以上の成果も上げる。何より、メンバーが信じられない速度で成長していくんです。メラニーも、たった1年で思考のレイヤーが何段も上がっていて、感動しました。ひとりの従業員として働くだけでは、あそこまで成長しないはず。このやり方が正解だったと今では思えます」

メンバーを信じてオーナーシップを渡す判断ができたのは、佐々木の性格に起因する部分が大きいようにも思える。だが、monopoという組織には大前提として「COLLECTIVE CREATIVITY(誰しもが持っている個性を引き出し、多様的かつ世界規模で混ぜ合わせていく)」という概念が宿っている。

社員や関係するクリエイターに対して起業や海外進出を進める自由な風土は、組織的に備わっているとも言える。


海外のパーティ文化を、営業ツールに。

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ルールが決まったら、未開の地でどのように新規顧客を獲得していくのかを考えなければならない。こちらも困難な印象があるが、そこにはmonopoの伝家の宝刀ともいえるイベント「monopoナイト」が大きな武器となった。

「社員5人でロンドンを視察して、現地で『monopoナイト』を開いたんです。日本企業でロンドンに駐在している人や、現地に住むクリエイターの友人などを一同に集めて、パーティを開く。パーティ文化は海外の方が浸透していることもあって、初回にして動員は90人くらい。そこで一気に関係性を構築して、あとはサイトの問い合わせフォームを開いて待ちました。クリエイティブは仕入れが必要のない業態ですし、それだけで最低限のスタートを切れることは実証された気がします」

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取引が始まったクライアントの中には、スポーツウェアの大手企業であるヨネックスも名を連ねた。日本でもこれまで取引がなかったビッグクライアントと現地でいきなりコネクションを作ることができたのは、そもそも現地で活躍する日本企業のプレイヤーの数が少なく、イベントなどでつながりやすい特性もあるのかもしれない。

「感覚的には、予想の3倍くらい良い結果が出ていて、驚いています。こちらの予想では、初年度は1千万円くらいの売り上げで赤字。2年目でトントンになればまだマシくらいに思っていました。それが初年度で黒字、二期目となる今期では数千万規模の利益を見込んでいる。一期目のメンバーは役員2名、社員1名、非常勤1名です。この少数で実績が出せたことは、自信につながりました」


さらに、世界へ。それも、さまざまなクリエイターたちと。

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今年1月、佐々木は躍進を見せる「monopo London」のオフィスまで足を運んだ。現地にはメラニーとマティスに加え、デザイナーのマイとプロデューサーのフレッドを加えた4人が在籍。その働きぶりを見て、ある反省の念を抱いたという。

「少数精鋭のチームでスピード感を持って働くことに、改めて大きな可能性を感じたんです。一室に集まって、ガッと集中して仕事をする。決めなきゃいけないことがあったらわざわざ会議なんてせず、その場で話し合えばいい。余計なストレスを生まないから生産性が非常に高いし、最高の環境だと思った」

「クリエイティブビジネスにおいては、マネジメントを必要としない組織こそ、最強」。そう話す佐々木は、すでに30人規模まで大きくなったmonopoの代表として、何を思っているのか。

「僕自身がコストだなあと自覚することが増えてきているんです。 “クライアントより先に上司(僕)を通すためのプレゼン”とか、本当に無駄でしかない。それでもわざわざ『時間ください』って言われたりする。

アイデアを売っていく商売、表現する商売なのだから、思い付いたらその日にクライアントにチャットで提案できた奴が勝つんです。100枚の企画書よりも、100通のメッセンジャーが勝つ。スピード感を殺しちゃってるのが僕自身だと思うと、どうにもやるせないですし。ロンドンで働く4人を見て、懐かしくもありつつ、羨ましくもあって。『ああ、これが正解でしょ!』って思っちゃったんです」

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二期目に入り、monopo Londonはオフィスを移転。さらにデザイナーのメイソン(写真左前)を社員に迎えて、5名体制で動き出している。

少数精鋭チームの強さを自覚した佐々木は、さらに実験的な構想を頭の中で繰り広げている。ヒントを得たのは、全国チェーン店の「ココイチ」こと「カレーハウスCoCo壱番屋」だ。

「ココイチは、店長候補となる人材に本部でノウハウとカルチャーを学んでもらった後、夫婦で出店させているんです。二人一組じゃないと経営させないところがユニーク。さらに、システムやマーケティング、人材、資金などを本社から提供するモデルなら、クリエイティブな業態にも活きるんじゃないかと思いました」

経験を積んだ人に暖簾分けして、ペアで起業してもらい、権限を渡し、経営は任せる。monopo Londonの成功体験から、さらに支社を増やす戦略だ。

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「『monopo London』を作ったことでmonopo自体にも仕事が増えているから、現地法人の規模が小さなうちは、こちらの仕事をシェアすることもできる。その循環が可能なら、今度は現地法人の社長をmonopoに在籍していない人にするのもアリかなと考えています。

ニューヨークなど、その土地にいる人に一度monopoに入ってもらい、カルチャーやビジョンを共有したあと、現地法人のCEOを依頼する。すでに全世界でクリエイターのつながりはあるわけだし、『monopoの支社長募集』とか言うと、もっと面白い人や価値観が入ってくるんじゃないかと思ってます」

一見、かなり突飛なアイデアにも聞こえるが、実はこの構想は、クリエイターのキャリアに新たな可能性を加える側面も持ち合わせている。

「みんな、むやみやたらとフリーランスになりがちなんですよ。でもフリーで働くと、すぐに個人のキャパは見えちゃう。そこで、もっと深い関係のメンバーでチームを組んで、稼ぐ方法を見つけていくスタイルを取ってみたいんです。もちろん、人となりや実績を知ってる人とだからこそ、できることではありますけど」

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ロンドンでの支社設立の経験を基に、さらなる躍進を目指すmonopo。同社はクリエイターのキャリアパスの一つに、“少数での共同創業”が加わる未来を作り出すかもしれない。


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