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【中編小説:連載】いにしえの彼方に エピソード4 最終章

#小説 #フィクション #短編 #中編小説 #ショートストーリー #ファンタジー #茶室 #茶道 #浦山 #大学 #茶道部

毎月1日は小説の日という事で、書き始めましたが、
今回は連載と言う事で、
毎月完結したお話を届けようと思っていた目標から
それてしまいますので、なんとか頑張って、
続きを連載してきました。
何とか6月中に完結できてほっとしています。
7月1日が目の前にあるのでやばいですけど。

今回のエピソード4、一応完成ですが
またファンタジーの続きを書きたくなったら書きます。
今回のお話も、最後までお読みいただけると嬉しです。
お時間のある時にお読みください。

エピソード1は約7千字です。
エピソード2は約7千字です。
エピソード3は約6千字です。
エピソード4は約5千字です。

エピソード1

エピソード2

エピソード3

エピソード4 最終章

黄金の茶室

ヒカリとユウコは工業大学の研究室に居た。
ヒカリは片手に古文書を持っていた。

「黄金の茶室を作りたいだって」

ケンジがびっくりした顔で言った。

「いやいやそれは無理でしょ」
「・・・・・」
「無理なのは承知で相談しているの、
 この古文書に茶室らしき見取り図と絵があるし
 なんとか実現できないか、知恵を貸してほしいの」


ヒカリが泣きそうな声で言った。

「ようは金の茶室に見えればいいんだろ」

マサキがぼそりと言った。

「なんかアイデアあるのかよ」

ケンジがマサキの方を見た。

「真鍮を磨けば、
 なんとか金の茶室っぽく見えるかなとか思ってさ」


マサキがまたぼそりと言った。

「それだそれ、ゲンさんに電話だ」

ケンジはすかさずゲンさんに電話を始めた。

「でも、それにしたってお金かかるよね」

現実的なユウコが釘をさすように言った。

「地元の人に出資してもらうとか、
 クラウドファウンディングなんて方法もあるけどね」


またマサキが言った。

「あなたすごい」

ユウコが一人はしゃいでいた。

「ゲンさん協力してくれるって、
 茶室となると大工も居るだろうって、
 友達のシゲさんと一緒に作戦会議しようってさ」


2時間後、ケンジ達の研究室には、
ヒカリ達4人と、
板金屋のゲンさん大工のシゲさんが集まっていた。
いつものようにゲンさんが
差し入れのお寿司を持ってきてくれていた。

ヒカリの古文書の茶室の部分はA0サイズまで拡大され、
ホワイトボードに貼られていた。
みんなでポストイットで問題点などを書きだして、
図面の上にペタペタと貼って行った。

「よしこんなもんだな」

ゲンさんが言った。

「金の問題はあるが、
 木材はなんとか端材とか使ったり、
 余っている物を使うと言う事で、でなんとかなるがな」

そう言うとシゲさんはゲンさんの方を見た。

「外壁は真鍮にしても、
 屋根は金にはならねーぞ、
 いっそ金のペンキでも塗るか?
 それなりには見えるかもしれないな」


そう言ったケンジをシゲさんが見た。
シゲさんは何かうなずいているようだった。

「そんな感じで仕上げるか
 あとはいつまでにやれるかだな」


ケンジも一人でうなずきながら言った。

「あのー、秋のお茶会までになんとかできますか?」

全員ヒカリの方を見た。
もう6月の半ば、
秋のお茶会は10月中旬あと4か月しかない。

「ヒカリちゃん、いくらなんでもそれは厳しいなぁ、
 材料集めるのに2か月はかかるよ」


ゲンさんがヒカリをなだめるように言った。

ヒカリは申し訳なさそうに下を向いた。
マサキがパソコンでなにやらカチャカチャと
キーボードを打っている。
やがてPCの画面をプロジェクターで投影した。

「納期はきびしいですが、
 建築科と土木科の学生にも手伝ってもらえば
 なんとかなるんじゃないかな」


そう言うと、
プロジェクターに投影されたスケジュールを指さした。
そこには必要な人数や綿密なスケジュールが書かれていた。

「マサキ君すごい」

ユウコが言った。
ヒカリは嬉しくて泣きそうになるのをじっとこらえていた。

「基礎工事からやるとたぶん時間かかっちゃうので、
 今の東屋を改造しましょう。
 壁貼って床貼って屋根葺きなおすか、
 ひとまず現在の屋根に金のペンキでも塗りましょう」


マサキはさらに綿密なスケジュールを立てはじめた。
ヒカリはそんなマサキにしだいに惹かれていく自分を
感じていた。

突貫工事

夏休み返上で作業が続いていた。
ヒカリとユウコはチラシを作り、
地元の人に寄付を募った。
それぞれの大学のホームページや
市のホームページにも
案内を掲載できるようにお願いして回った。

完成予想図のCGは
マサキが作ってくれた。
その出来栄えに皆驚くほどだった。

春のお茶会の時に広げた道は、
大活躍した。
ただ一方通行なので、大学の軽トラックで往復して
資材を運んだ。
時々地元の人が差し入れを持ってきてくれた。

毎日毎日暑い中、作業は続いた。
工業大学の学生、女子大の茶道部メンバーも
手伝った。
人の役割表もマサキが作り、
そのスケジュールに沿って皆が迅速に動いた。

夏休みが終わるころには
ほぼ茶室の形になっていた。

ヒカリ達は梯子をかけて
外壁一面に貼られた真鍮の板を磨いてた。
そこへゲンさんが
なにやら軽トラックに積んでやってきた。

「一通り磨いたら、こいつで塗装するからな」

そう言うとスプレーガンみたいなものを取り出した。

「なんですかそれ」

ヒカリが聞いた。

「これか、これは塗料を吹き付けるスプレーだ、
 真鍮はすぐに錆びるからな、
 一応透明な塗料を塗って錆の進行を抑える事にする。
 秋のお茶会のまでは、金ぴかにしておきたいからな」


そう言って笑った。
日焼けしたゲンさんの顔が光っているように見えた。

畳屋さんが畳を敷いてくれていた。
ヒカリ達は茶室の中にいた。
おごそかな雰囲気を感じていた。
ここが春までは東屋だったとは思えないほど
ちゃんとした茶室になっていた。

工業大学の蘆澤学長と女子大学の学長が中に入ってきた。

「ほんとうに造っちゃったのね」

女子大の学長が涙ながらに言った。

「ちよさんに見せたかったなぁ」

蘆澤学長がぼそりと言った。
ヒカリは学長の方向いた。

「祖母をご存じなんですか?」

「ちよさんは、みんなのマドンナだったのよ」

女子大の学長が応えてくれた。

「あっちに行くには早すぎたな。ちよさんは・・
 ぼくら学生の時のまどんなだった。
 もっとも年上だったが、女子大の初代学長だよ」


ヒカリはびっくりして、
女子大の学長の方を見た。
祖母が女子大の学長だった事は知らなかった。
母も祖母もそんな事教えてくれなかった。

「ヒカリさんが春に私の所に来たじゃない。
 あの時、初代学長の写真が学長室に飾ってあったの
 気が付かなかった?」


ヒカリは首を横に振った。

「あそこにはヒカリさんのおばあさんの写真が
 飾ってあったのよ、とても素敵な学長で、
 当時隣の工業大学の学生のあこがれの的だったの」


「もしかして学長のマドンナって」

ユウコが言った。

「あの時、学長は本当は金の茶室を建てたかったんだと思う。
 けど時代もあってな、
 東屋と、ケーブルカーを作るのがやっとだった」

学長が目を細めて茶室を見ながら言った。

「ちよさんのたてたお茶、この茶室で味わいたかったなーー」

いつのまにか入ってきたゲンさんが言った。

秋のお茶会

「みなさん本日はお忙しい中、
 お越しいただきありがとうございます。
 茶道部部長を3年間勤めます。
 千璃庵、有村ヒカリです。」


ヒカリは秋のお茶会で胸を張って挨拶を始めた。

「400年前、無念の死を遂げた千利休さんと共に
 お茶の道を究めようとした、千璃庵が守りたかた
 真のお茶の姿は、身分や格式など関係なく
 気軽にお茶を楽しむことでした。
 しかし、時代はそれを有さず。
 千璃庵がこの地を隠れ里として守り。
 有村家として代々受け継がれた思いを、
 私が継承してまいります。
 未熟ではありますが、まずはこの大学の茶道部部長を
 無事終えられるように、皆様のお力添えをお願いいたします」


ヒカリはお茶室の前に掲げられた
千璃庵の欄間を見上げて言った。

ヒカリの母は、
ヒカリの晴れ姿に涙をぬぐっていた。
その手には亡きヒカリの祖母の写真が握られていた。

ヒカリはさらに続けていった。

「今日この日を迎え、
 ここに黄金の茶室、千璃庵が完成したのも。
 工業大学の学長をはじめ生徒の皆さんと
 地元の工務店、板金屋さんが自分事のように
 手助けをいただいたおかげです。
 また、地元のみなさんからの暖かい援助金が
 あったからこそ、こうして立派な茶室を作る事
 できました。
 とっても嬉しく思いますありがとうございます」


ヒカリは空を見上げていた。
その手にはあの古文書が握られれていた。

「今まで有村の家を守ってきてくれた歴代の千璃庵さま、
 今日ここに黄金の茶室が完成しました。
 みなさんの想いに私の想いも載せてさらに400年、
 1000年と続く世界を築いていきます。
 どうか暖かく見守ってください。」


ヒカリのスピーチは裏山中、
町中に響いているかのようだった。
ユウコ、ケンジ、マサキも笑っていた。
ヒカリはやり遂げた達成感で幸せ感を感じていた。

いにしえの彼方に

秋のお茶会の後片付けが終わって一息ついた時だった。
黄金の茶室が本当に輝きだした。
あたりはもう薄暗くなり始めていた。
秋の日暮れは早い。
ヒカリ達は茶室の中に入った。
するとまたあの時の女性が微笑んで手招きしていた。

「なんかやばいよ」

さらに近づこうとするヒカリに
ユウコが言った。
けれどヒカリにもう迷いはなかった。

「あなたが初代千璃庵さんですね」

その女性はヒカリの問いかけには応えず、
ただ黙って茶をたてていた。
今までとは違うほんのりと甘い香りすらするお茶だった。
目の前に出されたお茶を
ヒカリはためらわず飲み干した。
その瞬間一段と茶室が光輝き、光の渦の中に一人
ヒカリだけが取り残された感じになった。

ヒカリは真っ直ぐに初代千璃庵を見ていた。
今でも美人で通用する細面の小柄な女性だった。
ヒカリは祖母の面影を千璃庵に重ねていた。
光の渦がだんだんと輝きを失いつつあった。
薄れていく光の中で、小さな声が聞こえた。

<ありがとう><ありがとう>

小さな、小さな声が、ヒカリにはかすかに聞こえた気がした。
ヒカリは消えゆく声に耳を傾けていた。
ヒカリが気が付くと元の茶室に座っていた。
周りを見ると、ユウコ、ケンジ、マサキ、
工業大学の学長、女子大の学長がヒカリを見ていた。
ヒカリは黙って微笑んだ。

ヒカリは自分のほほに
冷たい物が流れているのにやっと気が付いた。
なぜ泣いているのか、自分でもわからなかった。
皆心配そうにヒカリを見ていた。

「大丈夫か?ほんとうにヒカリか?」

マサキがヒカリに言った。

「大丈夫、私は代16代千璃庵、ヒカリよ
 心配ないわ、そして多分もう初代千璃庵は
 現れないと思う」

そう言って笑った。

墓標

あたりはすっかり暗くなっていた。
ヒカリとマサキは茶室の外に居た。
そこには小さな墓標が造られていた。

<初代千璃庵ここにねむる>

「これ石膏だから、いつか風化すると思う」

マサキがヒカリに伝えた。
茶室を作る時マサキが石膏を固める3Dプリンタで
造ってくれたのだった。

「ありがとう、マサキさん
 この墓標はいつか私が一人前になったら、
 ちゃんと御影石で作るは、
 それまではこれで我慢してくださいね、千璃庵さま」

ヒカリは璃庵に話かけるように話した。

「今年の夏は面白かった、おまえのおかげだ、ありがとな」

マサキがヒカリに言った。
ヒカリはだまってうなずいた。

「おーい、お二人さん、置いてくぞ」

ケンジがからかうように言った。

「この暗いのに、歩いてこの山は下れないぞ」

マサキが笑いながら反論した。

ヒカリ達は、ケンジの運転する軽ワゴンで山道を下りだす。
所々急カーブがあり、
ヒカリの体がマサキによりかかる形となる。
マサキはヒカリの腰に手を回してガードする形になった。
ヒカリはマサキの顔を見上げ小さく

「ありがとう」

と告げた。
軽ワゴンから振り返ると、
月明かりに照らされた黄金の茶室が薄らと光ってみえた。
ヒカリ再び、はもう初代千璃庵は現れないと思った。
そしてこの千璃庵の想いを自分が継いでいく決心をした。
ヒカリはいつしかマサキの手を強く握りしめていた。
マサキも光の手をしっかり握って話さなかった。

軽ワゴンのフロントウインドウから
ヒカリたちの通う大学の明かりが見えてきた。
ヒカリの茶道部部長としての修行が始まろうとしていた。

おわり。

中編小説を書くにあたって。
発想はいろいろ出てきましたが
はてさてどうやって終わらせようか迷っておりました。
いっそヒカリと初代千璃庵が入れ替わってしまって
ヒカリがタイムスリップしてしまうとか
マサキと一緒に戦国時代に行くとか
まぁありふれているけど、ファンタジーとしては
ありかなとか、歴代千璃庵が次々に出てくるとか
いろいろ考えましたが

続編を書くとしたら、
前向きに終わっていたほうが良いかと思い
こんな形で締めました。
マサキとの恋も気になりますが

ひとまずここで締めておきたいと思います。

エピソード1からエピソード4まで
長文を読んでいただき、ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。




サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。