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【中編小説:連載】いにしえの彼方に エピソード3

#小説 #フィクション #短編 #中編小説 #ショートストーリー #ファンタジー #茶室 #茶道 #浦山 #大学 #茶道部 #古文書 #古の歴史 #

毎月1日は小説の日という事で、書き始めましたが、
今回は連載と言う事で、
毎月完結したお話を届けようと思っていた目標から
それてしまいますので、なんとか頑張って、続きを連載いたします。

今回も完結いたしませんが、エピソード1,エピソード2も
お読みいただけると嬉しです。
お時間のある時にお読みください。

エピソード1は約7千字です。
エピソード2は約7千字です。
エピソード3は約6千字です。

いにしえの彼方に エピソード1

いにしえの彼方に エピソード2

部長引き継ぎの式

春のお茶会の一日前にケーブルカーの修理は完了した。
ケンジもマサキもほぼ授業には出ず。
突貫工事を行った。
時々板金屋のシゲさんが様子伺いと言いながら、
手伝いにきてくれた。
レールの工事の合間を縫ってマサキは
裏山の道を頂上まで広げてくれていた。

「これで茶器や絨毯は車で頂上まで運ぶ事ができるな」

ケンジがあたかも自分やったようにユウコに媚をうった。

「あんたがやったんじゃないじゃない」

ユウコはすかさずケンジに突っ込みをいれた。

春のお茶会はおごそかなうちに始まった。
近所のおじいさん、おばあさん、
市長さん等を招待し、さらに大学の関係者、
子供達、誰でも気軽に参加できるお茶会となった。

今年はケーブルカーと軽ワゴン車で
お客様をピストン輸送できたので、
八十名くらいのお客様を招く事ができた。
おかげでヒカリ達茶道部員は大忙しでお茶をたてたり、
お菓子を運んだり、茶器を洗ったりバタバタと過ごしていた。

春のお茶会もそろそろお開きの時間になるころだった。
着物姿の部長のユウコが立ち上がり
みんなに聞こえる大きな声で言った。

「本日はありがとうございました。
 今年は三年毎の部長交代の年となります。
 伝統となっていますので、
 部長の私から次の三年間を務める新部長を
 一年生の中から指名させていただきます」


普段ふざけているユウコがキリットした声で話す姿を
ヒカリはじっと見ていた。
ヒカリとユウコの目があった。
ヒカリは一瞬ドキットした。

やがてユウコが静かに話はじめた。

「私達茶道部には伝統があります。
 ここにお越しの皆様はO Gの方も多く
 ご存知かと思います。
 今年は3年毎に部長を選ぶ年となります。」


ユウコは再度3年間部長をする。
その選択を本日この場でするといった。
ユウコ深呼吸をしてさらに話だした。

「恒例にのっとり、部長の私が一年生から
 部長を選出させていただきます。
 ・・・・・・・
 新部長は、有村ヒカリさんに決定といたします。
 ヒカリさん、こちらへどうぞ」


ユウコは東屋の中央へヒカリを招きいれた。
ヒカリは突然の使命に戸惑っていた。
体が硬くなり、そして熱くなり、
変な汗を出しながら一歩も動けないでいた。
そんなヒカリに後ろの方から

「胸張っていけよ」

という声が聞こえた。
マサキだった。
ヒカリはマサキの方を向いてうなずき、
1歩、また1歩とあゆみだした。
会場の観客が一斉に拍手をした。

「ひかりちゃんがんばってね」

そんな声が会場中から聞こえてきた。
ヒカリはなぜか溢れる涙を止める事ができなかった。

「ヒカリ、あとはお願いね」

ユウコがヒカリに声をかけた。
ヒカリは昨年亡くなった祖母の言葉を思いだしていた。
祖母がこの事を予測していたのか否かはわからないが、
ヒカリはさらにこみ上げるものをこらえながら挨拶をした。

「みなさん、今日はありがとうございます。
 今日を迎えるにあたり、
 たくさんのトラブルがありました。
 けれど、仲間たち、ご近所の方たち、
 先生たちの助けがあって、
 今日この日を迎える事ができました。
 感謝いたします。
 そして、今部長をと突然に言われました。
 頭が混乱しています。
 なぜか体の震えがとまりません。
 一生懸命頑張りますので
 皆さん、どうか助けてください。
 よろしくお願いいたします。」

ヒカリのショートカットの髪が一瞬揺れた。
誰かが、何かが通ったような風だった。

ヒカリは不思議な感覚を覚えながら、
さらに続けた。

「3年間部長を頑張りたいと思います。
 先輩の皆さん、
 こんな私で申し訳ありませんが
 よろしくお願いいたします」

ヒカリは深々と頭を下げた。
会場中が拍手の渦に巻き込まれた。
同時に西風が広場の周りに植えられた
山桜の花を散らして花吹雪を作った。
ヒカリはその光景を見て、
またこみ上げたきた。

お茶会の準備に夢中で
山桜が満開になっている事にすら
気が付いていなかった。

「きれい」

ヒカリはそう言って山桜の花びらを掴んだ。
そしてこの花びらを記念にもちかえろうと
ハンカチに包んだ。

雨に浮かぶ黄金の茶室

ヒカリ達茶道部と工業大学の学生が
手分けして、後片付けをしていた。
ケンジやマサキがケーブルカーを操作して、
お客様をふもとまで運んだり、
軽トラックで荷物を学校へ運んだり
軽ワゴンでお客様を学校の駐車場まで
運んでいた。

「道広げて正解だったわね」

ユウコが言った。

「マサキががんばったからな」

ケンジが自慢げに言った。

「あなたががんばったわけじゃないのになぜ胸をはる」

ユウコがすかさず突っ込みを入れた。
みんないい顔をしていた。
一通り片付けが終わると、あたりは薄暗くなってきていた。
気が付くと、ヒカリ、マサキ、ユウコ、ケンジの
4人になっていた。

「そろそろ帰ろうか」

ユウコがそう言った時だった。
空が急に暗くなり雨が降り出した。
全員東屋へ避難した。

「俺、軽ワゴンだからみんなで帰るか?」

マサキが言った。
みんなヒカリのほうを見た。
ヒカリは少しためらいながら

「もうすこしここに居たい」

そういった。全員ヒカリの言葉に賛同した。
雨はすぐに上がった。
西の空がうっすらと明るくなり
西日がさしだした。
すると東屋の上のほうに虹かかかりだした。

「虹よ・虹、ケンジ写真写真」

ユウコがそういうとケンジは
写真を撮り始めた。
やがて普通の虹ではないことに気が付いた。
いつの間にか七色の虹が金色一色になり
瞬く間に東屋を包み込んだ。
そうこうしていると東屋は黄金の茶室に変わり、
中ががさらに光りだした。
ヒカリ達4人は、おそるおそる光るの中心に入った。
そこには着物姿の女性がいた。

ひかり達はお互いに見つめあいながら
再度着物姿の女性を見ていた。
彼女は何も語らず
ただお茶をたてているようだった。
細面のすらっとした体である事が着物姿でも
見て取れた。
どこか高貴な気品が伝わってくるようだった。
女性はお茶をたて、
ヒカリ達の前にさしだした。
全員体が固まって動けないようだった。

ヒカリのからだだけ自由に動けるようだった。
ヒカリは不思議な女性の前に座ると、
差し出された茶碗を手に取って、
お茶の作法通り回し始めた。
何か暗示でもかけられているような、
ぼやっと霧に包まれているような感じだった。
ヒカリがお茶の器を口元へ運ぶ時だった。

「ダメ・・それを飲んじゃダメ」

ユウコが懸命にヒカリを止めたが
時すでに遅くヒカリはそのお茶を飲んだ。

「けこうなおてまえで」

ヒカリはそういって茶碗を置いた。
さっきまで光っていた黄金の茶室は
一瞬で消え、
ヒカリ達4人が東屋にぽつんと佇んでいた。

「きつねにでもつままれた気分ってこういう事言うのかな」

ユウコが口を開いた。
全員放心状態でしばらくそこにたたずんでいた。
あたりはすっかり暗くなっていた。

伝説の古文書

ヒカリが家に帰ると母がまっていた。

「あなたが今度の部長なのね」

ヒカリの母はかみしめるように言った。

「おばあさんの予感は的中したのね」

また母がつぶやいた。
ヒカリは何のことなのかわからず母を見ていた。
やがてミツコは祖母が寝ていた部屋から
一つの風呂敷包みをもってきた。

「おばあさんの遺言、これをあなたが継いで頂戴」

そういうとミツコは風呂敷包みをヒカリに差し出した。
ヒカリはなんのことかわからず母を見ていた。

ヒカリはおそるおそる風呂敷をひらいた。
そこには。<隠れ千家、千璃庵>と書かれていた。
ヒカリはページをめくった。
昔の字で読み取ることはできなかったが、
茶室らしきイラストみたいな絵だけは理解した。

「おかあさん、これって」

母は静かに話はじめた。

「ひかり、あなたは第16代千璃庵なの、
 おばあさんが14代、私が15代、
 でも私はそれを受け入れなかったの、
 なのでおばあさんが大切に保管していたの」


ヒカリはまだ何を言われているか理解できなかった。

「あの浦山は3年事に光るの、ちょうど春の
 お茶会と秋のお茶会の前後にね、
 あなたは今日初代千璃庵に会ったんじゃない」


ヒカリはビックリして、母を見た。
そして、静かにうなずいた。

「あれはね、千璃庵が、次は誰と
 待っていると言われているの。
 千璃庵の無念な心が、何年も何百年もあの地に居て
 自分の想いを成し遂げる人を待っているとも
 言われているの、でもその思いを静められた人はいないの」


母は淡々と続けた。

「おばあさんの小さいころはまだ
 黄金の茶室めいたものが裏山にあり、
 隠れ里として少しは機能していたらしいけど、
 どんどん忘れ去られ、
 今の工業大学の学長の時代に東屋に改造したのよ
 でも、お茶の伝統と、3年毎部長を選ぶ伝統は今も
 女子大学に引き継がれているの」


母は裏山の名義が
第16代千璃庵有村ヒカリであること、
祖母がそれを決めた事、
有村家は代々女性の一人っ子で養子を迎えていた事
ヒカリが知らなかった事を語って聞かせた。

「で・・私にどうしろと」

ひかりは少し腹立たしくなり母に言った。

「私にはわからない、あなたが決める事、
 私はそれを拒んだ人間だから、
 あなたにどうしろという権利はないわ、
 ただおばあさんが亡くなる時、
 あなたの手を握ってたのむわよと言った
 あの気持ちは本当、
 今日あなたが茶道部の部長になったのも現実、
 それだけはわすれないで、
 運命という言葉一つで片づけたくははいけど、
 少なからず運命はあると思うの」


母は静かにそういうと、自分の部屋へ行った。
ヒカリは読めない古文書を眺めていた。
読めないながら魂みたいなものは感じとっていた。
何をどうするかなんてわからない。
うちが隠れ千家の継承者である事と
実際にお茶の道で生きてきた先祖が居る事も、
頭では理解していた。
ヒカリは眠れないまま朝を迎えた。

黄金の茶室への想い

「あのー見てほしいものがあるんですが」

ヒカリは女子大の学長室を訪ねていた。

「あら、今度茶道部の部長になった有村さんね、
 何か私に用事かしら」


女子大の学長は気さくに話しかけてきた。
ヒカリが茶道部の部長になったのも知っていた。

ヒカリは古文書を差し出して

「学長ならこれ読めますか?」

学長は古文書の表紙を見て
一瞬ためらいながらもページをめくった。
数ページの古文書を比較的すらすらと
めくりながら、なにやらぶつぶつと言っている。
やがて古文書を閉じると
ヒカリを真っ直ぐに見て話しだした。

「あなたに覚悟があるか聞いていいかしら?」

突然の言葉にヒカリは何も言い返せなかった。
90秒ほどの沈黙、

「覚悟なんてありません」

ヒカリは絞るような声で言った。

「そう、だったら、この古文書は
 見なかったことにしたほうがいいわね」


学長はまたやさしい目に戻った。
ヒカリはまだ戸惑っていた。
覚悟なんてない、それは正直な話だ、
しかし古文書に何が書いてあり、
400年前に現在へ伝えようとした想いは感じ取りたい。
そう自問自答した。

「先生、覚悟なんてありません、
 けれどその古文書を書いた人の想いは知りたいです。
 私に何ができるかなんてそんな大それたことではなく、
 純粋に人が人に伝えようとした想いは感じたいです。」


ヒカリはそう言いながら涙を流している自分に気がついた。
自分でもなぜ涙を流しているのかわからなかった。
学長はソファーから立ち上がり
裏山がある東側の窓辺に行き窓を開けた。
もう初夏のにおいのする風がざわめいていた。

「今の季節が気持ちいいわよね。
 梅雨はジメジメして憂鬱になるものね」


学長は窓から裏山を見上げていた。

「いいわ、そこに書いてあることをはなしましょう。
 でも私も全て理解できているわけではないの、
 ただ、断片的に読める部分をつなぐと
 こんなかんじかなと思っただけ、それでもいい?」


学長は優しくヒカリに言った。
ひかりはゆっくりうなづいた。
やがて学長は静かに話し出した。

「まずそこにはお茶の道を究めたいという想いが書いてあるわ
 でも、それがかなわず、そしてこの地にたどりつき、
 ひっそりとお茶を楽しむようになるまで、
 ずいぶんと時間がかかった事も書いてあるわ」


学長はまっすぐにヒカリを見た。
ヒカリも学長先生の目を見て静かにうなづいた。

「あなたのご先祖様、千璃庵は
 千利休と一緒にお茶の修行をしていたようね。
 ただ、あの頃は男社会だったから、女性がお茶の道を究め
 表舞台に立つことは許されなかったようね。
 同門であった千利休が有名になっていく
 あせりみたいなものと、女系家族という事が
 ご先祖様の心に重くのしかかり、
 女性でもお茶を楽しんでいいんだという想いで、
 ここにお茶の里を作ったのかもしれにわね」

学長は古の想いをかみしめるようにつづけた。

「千利休が壮絶な最後を迎えてから、
 千璃庵も病に伏せるようにたった時、
 この隠れ里にいつか黄金の茶室を復活を望み、
 この文章を後世まで家督を継ぐ者に授けると
 つづられているはね」


学長先生はヒカリにわかりやすく伝えた。

「千利休は同門だった千璃庵を愛していたのかもしれないわね
 彼の財力で一度はこの裏山に黄金の茶室が作られたみたいよ。
 けれど、世代が変わるにつれ、
 黄金の茶室は朽ち果て、財力のない千璃庵継承者は
 いつかいつかと思ううち、400年経ってしまったのかも
 しれないわね。
 ただ家督を継いだものが、少しずつ古文書に追記し、
 現在まで大切にされてきたみたい。
 あなたのおばあさんの書き込みもあり、
 ミツコは15代を継承せず、16代ヒカリにこの想いを託すと
 記されているわ」


そう言って学長は最後のページを見せてくでた。
現代後では書かれていないその文字が
祖母の字だとは気が付かなかった。
ただそこには14代千璃庵という文字はなんとか
読むことができた。

「あなたが16代千璃庵という事ね」

学長先生は最後のページの
裏にかいてあった文字をゆびさした。

「第16代、千璃庵ヒカリ、ここにそう書いてあるは、
 きっとあなたのおばあ様が書いたのでしょうね?」


ヒカリはじっと考えていた、祖母の想い、
祖母が亡くなる時の顔を思い出していた。
ヒカリの手を握り、
頼むと言ったわけがなんとなくわかった気がしていた。
ヒカリは学長へ向き直った。

「先生、ありがとうございます。
 この古文書が示すのが、初代千璃庵そして代14代千璃庵
 祖母の想いが折り重なっている事がわかりました。」


ヒカリはそう言うと学長室を出て行った。

まだ何ができるかわからない
でもヒカリの中に吹いている風が変わった気がした。
心のもやもやはいつの間にか消えていた。

ヒカリは隣の工業大学の研究室のほうへ歩き出した。

エピソード4、最終章へ続く

本日も最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。

さぁいよいよ最終章です・・わくわくドキドキですが
どう幕を引くか、迷ってもおります。

エピソード4




サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。